グランピング 6
「結構お腹いっぱいになったな」
皆で黙々と食べ終わった後、美和子が呟いた。
「私も」
「だから多すぎるって言ったじゃん」と結愛は苦笑いするように言った。
「じゃあ、肉どうする? 俺まだ食べたい」とわたるが驚きと心配が入り混じった声で聞く。
「あ、そうじゃん。まだ肉あったね。大丈夫、大丈夫。心配しないで。詰め込むから」と美和子が言う。
そういう訳で、わたるが鉄板をトングで挟んで地面に置くと、美和子がそこに水をかけて冷やした。それをキッチンのシンクに持っていき洗い、美和子が綺麗になった鉄板を火の上に置きなおす。
美和子が冷蔵庫から高級な牛肉の薄切りパックを取ってきて焼き始めた。
食べてみると、高級な和牛肉なだけあって、先ほどの豚肉とは全く異なっていた。味がよく、柔らかくて、肉の油が舌の上で溶けていくのが旨味として広がった。
食べ終わった後、みんなで火を囲みながら楽しいねと他愛もなく話していると、結愛が私の服の袖を引っ張った。そうして私の肩口に顔を近づけたので、私も耳元を結愛の口に寄せる。
「ねぇねぇ、あのことわたるに言ってもいいかな?」
「結愛のこと?」小声で返す。
「うん」
「止めたら?」
「なんで?」
「だって、結愛の大事なことだし、わたる他の人に言っちゃいそうじゃん」
「うーん、そうかなぁ」納得できないといったように首を傾げる。
「なんで言いたいの?」
「だって、この中でわたるだけ知らないじゃん? 何か為になるかなって」
「為になるって何が?」
「んー、はっきりとは言えないけれど、何か新しい意見が聞けるんじゃないかと思って」
彼女のセクシャリティーのことだから本当は、私は結愛の考えに口出しするべきじゃなかったけれど、この時の私はそれほど賢明にはなれなかった。
それに、結愛が親友と親友の彼氏である美和子とまさにならまだしも、ただの友人にこんな大切なことを話してしまうと、何か私たちを引き留めあっている魔法のようなものが解けてしまう気がした。
私だけが彼女のセクシャリティーに関して一番理解しようとして頑張っていて、それに結愛が頼りにしてくれている。信頼してくれている。
そう思っていたけれど、友人の相談を求めるのでは、私のいる意味がそれこそ本当になくなってしまう。
私は私のことを、結愛を支えている唯一の人物だと思っていたし、そのことで自分は結愛にとって特別な存在なんだと思っていた。
結愛がわたるのことを信じようとしているのを見て嫌だった。
わたるの方が楽観的で未熟で、他人の心情を考えて尊敬してあげるようなデリカシーが欠けていると思っているから。
「んー」結愛はまだ私の意見に賛成できないでいた。
「いいや。忘れて」
そういって今度は美和子の方に顔を向け、私にしたことと同じことをした。
「燈佳に聞いたら?」と美和子が私を見るが結愛は「もう聞いた」と言い、私が反対したことも説明した。
「そうなの? とにかく二人に任せるわ」
私たちを交互に指差しながら「ここの大事な話だと思うから」と美和子が付け加える。すると結愛が「えぇ」と不満そうな声を漏らす。女子だけでコソコソ話していたので、まさとわたるが「何? 何話してるの?」と興味をみせた。
「わたる、アセクシャルって知ってる?」と結愛がいきなり切り出した。




