グランピング 3
そのせいで、結愛はバランスを崩してそのまま前に倒れ込む。ゴンッと凄い音がして、結愛が地べたに寝そべった。
「痛い! 何⁉」
怒る結愛。自分の行動に驚いた私は両手で口を塞いでいて、その後即座に「ごめん。本当にごめん」としょうもない謝罪をした。
わたるも後ろで驚いて固まっていて、結愛が不快を表したのを見て緊張が和らいだように笑った。
「結愛さん大丈夫? びっくりした。俺やばいんじゃないかと思って、ビビったわ」
「ごめんね。今上に行ったらまずいと思って」
「どういうこと?」
「いや、上で二人とも今してるじゃん? 嘘、気づかなかった?」
「え、全然気づかなかった」
「本当にごめん。体が勝手に動いて。怪我させるつもりじゃなかったの」
「だとしてもさ、今のはなかったんじゃない?」と結愛がまだにっこりしながら、冷たく威圧的な声で言う。
彼女は怒るといつも、まるで忌み嫌いあっている人が公共の場で仲の良いふりをして無理やり笑顔を作るときのような笑みを作る。こうやってニコニコしておきながら、内心呆れているような、見下しているような、相手にしていないという様子でいる。
顔が笑っていても目が笑っていないのだ。
「ごめん、体が勝手に動いて。転ばせるつもりじゃなかったの」
「転ばせるつもりじゃなくても、危ないよね? 二度としないでよね」そう言って彼女が履いていた厚手のタイツを捲って、膝の様子を確認する。結愛は「痣になりそう」と一人ごとを言った。
わたるは「結愛さん大丈夫?」と彼女の隣に座って様子を伺う。すると、結愛は様子を一変させて「二階に行こ」と元気よく、しかし二階にいる二人に聞こえないように小声で言った。
「え、マジ?」とわたるは、やってはいけないと分かっている後ろめたさを感じつつ、好奇心に勝てないというような期待の笑顔で返答する。
結愛が立ち上がると、わたるも直ぐに立ち上がり彼女の後ろを着いていく。
二人が階段を四つ這いになってゆっくりと静かに上っていくので、結局私もその後ろを着いて行った。
小声で「止めなよ」と言ってみるが、結愛は聞こえないのか無視をしているのか無反応で、わたるは「いいから」と小声で私を宥める。
二階についたわたるは、ゆっくりとスライド式のドアを滑らせた。
「なんだ、バレたか」そう笑いながら、わたるが途中まで開けていた引き戸を一気に開ける。まさは「おいおい」と笑った。覗いてみると、美和子とまさはベットの上で座っている。服は乱れていない。
「だって何か大きな落としたよね?」と美和子が言う。
「そうなの。見てこれ」と結愛がまたタイツを捲って膝頭を美和子に見せた。赤くなっていて、本当に後で痣になりそうだ。
「どうしたのこれ?」
「階段を登ろうとしたら、燈佳に足首を掴まれて」と結愛は私の方を見ないで私のことを指さした。
「本当にごめんなさい。怪我させるつもりじゃなかったの」
「まぁ大丈夫でしょ」と美和子は楽観的だったが、私は結愛に向ける顔がなかった。この返答にきっと結愛は不服に思っているんじゃないだろうか。
「とにかく、もうそろそろ時間でしょ?」と美和子が言うので、みんなが一斉にスマートフォンを確認すると、スーパーに行くバスの時間まであと十分しかなかった。




