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つれないね、恋の分からず屋  作者: 伊藤東京
89/103

スターバックス 8

「じゃあそろそろ行こうか」と美和子が言った。

 私たちはスタバを出て、駅に向かって歩きだした。そして改札まで来て急に美和子が、じゃあねと言った。

「え? どこ行くの?」

「いや、泊まろうかと思って。もうこんな時間だし、正直家に帰るのだるい」

「え、だったら私も泊まりたい」

「俺も」

「え、大丈夫?」

「美和子こそ大丈夫なの? 私はおばあちゃんにメッセージすれば、大丈夫だけど」

「俺も、親自由だから大丈夫だよ」

「じゃあ私も泊まりたい」

「え、結愛本当に大丈夫? さっきの後に泊まるの良くないんじゃない? 帰りなよ」

「良いよ。美和子は心配性だなぁ」

 そういいながら結愛は携帯で親に電話した。

 私たちはどこに泊まろうかと、スマホで検索し始めた。すると、美和子がすぐ近くに漫画喫茶があることに気づいた。そこで一夜を過ごせば値段も安く済む。

 結愛の電話が終わると彼女は「私も泊まれることになったよ」と言った。

 そういう訳で、四人で漫画喫茶に行き、入店しようとしたのだが、受付の目の前に看板があり、そこに十八歳以上であることを確認するために個人情報を提示できるものの準備をお願いする旨と、十八歳未満だった場合、市の法律に従って警察を呼ぶ旨が書いてあった。

 もちろん結愛と美和子以外は十八歳未満で、本来ならこの時間に外に出歩いていること自体、通報されても仕方がない。そこで、私達は西武新宿駅近くの安いラブホテルのことを思い出し、そこに泊まろうと提案した。皆その提案に納得したが、電車はもうなく、私たちは歩いて新宿駅まで向かった。

 新宿駅に向かう途中、東大受験の合格者の多さで有名な鉄緑会と書かれた看板を見て、結愛が反応した。

「あ、ここ鉄緑会の本社じゃない?」

「なにそれ?」美和子が言う。

「知らないの? 東大合格者を一番出してる塾だよ。すごく厳しいので有名なところ。入塾するのも難しいらしい」と私が言う。

「へぇ、怖。私とは縁がない世界だわ」

「私の友達もこの塾に通ってるんだよね。うちの学校、東大入るのが当たり前。それ以外はクズって扱いだったから」と結愛が静かに言う。笑っているけれど、私には彼女が何かトラウマ的なことを思い出しているように思えて、不穏だった。

 私の通っていた高校も、結愛がいう程ではないが、合格した大学のランキングがそのまま人の価値を決めるというような考えが根強かった。精神を何度も病んで、死にたいと思うことが異常であることに、言語学校に入って人と会うまで気づかなかったほどだ。

 だから結愛は、もっと辛い思いをしていたことがあるんじゃないだろうか。

 そのまま鉄緑会を通り抜けて、徐々に見慣れた景色になってきた。新宿駅の周りの見覚えのあるビルの間を通り抜けていくときに、街路樹がイルミネーションになっていたり、アーティスティックなオブジェクトが置かれたりしていて、その度に写真を撮ったりした。LOVEなんてオブジェクトを見た時には、皮肉だと思った。嫌悪すら感じた。

 そのまま西武新宿の隣の安い見慣れたラブホテルに来た。

 受付で住所を書いて、当然ながら私と結愛、まさと美和子に別れて部屋をとった。

 私は結愛と碌に話もせずにシャワーを浴びてベットに入った。

 結愛は部屋に入ってすぐベットに横になったので、シャワーを浴びている間寝ているものだと思っていたが、出てみると彼女はスマホをいじっていた。私はスマホをいじっている結愛を隣に「お休み」とだけ言って先に眠りについた。


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