クエスト セレーネの帰還 追手
ひとまず私達は竹林へと逃げ込んだ。
そして、周囲を警戒しながらお爺さんの語りを聞く。
「この子は、月よりの旅人」
……そう言うの、始まる前に教えてくれないかなと半ば呆れながら私は聞いていた訳だけれど。
「月ぃ!?」
カエデが真上に浮かぶ満月を指差しながら声を上げた。
その後にすぐに口を抑える仕草。
「左様、月じゃ」
まるでかぐや姫だな。
「で、その月のお姫様が狙われている、と」
「そうじゃ。キノトミの領主は、姫……セレーネ様を亡き者にしようとしておる」
そんなデカイ爆弾の後出しやめてくれないかなぁ?
「キノトミと言うことは、やはり敵はそこで集められたプレイヤーですわね。
つまり、本当の最前線」
「何人いるかな?」
「少なくとも、十人以上は覚悟すべきでしょう」
私と市松は多分、同じ集団を頭に思い浮かべている。
零七組。
彼女達が積極的にこんなクエストに参加する理由に心当たりはないが、かといって拒否する理由も思い浮かばない。
むしろ、私達を潜在的な敵とみなしていて、私達がカノエトラへ戻った事を鑑みれば……。
「お爺さん、ちょっと後出しが過ぎる」
「すまぬ。
こうでもせねば、助力を乞えなんだ」
「にしてもさ?」
「爺が妾の為にして賜う事。
騙してしまったのは申し訳ないが、どうか妾を船まで送り届けて欲しい」
そう言いながら、今までかぶっていた帽子を取り頭を下げる女の子。
ピョコンと二本の耳が揺れる。
「うさぎ……」
「あらあら」
「敵は幼児誘拐に動物虐待、か」
「判決は?」
「死刑」
「ど、どうぶつ?」
幼女の頭上でうさ耳がピクピク揺れる。
尻尾とかもあるのかしら?
「敵はプレイヤーだけじゃないわよ」
「モンスターもか」
「クロちゃんと市松は二人を守って」
「ええ」
「わかったわ」
「目的地は?」
「この森を抜けた奥、湖まで」
「よっしゃ! 行くぞ!」
「カエデ、ステイ」
走り出しかけたカエデに待ったをかける。
「湖?」
「そうじゃ」
私とクロちゃん、市松が視線を交わす。
そこは、ついさっき行った場所。
カエデは忘却の彼方だろうけど。
「なんにせよ行かない事には始まらないわ」
「……だね。
じゃ、私が後ろを警戒する。
カエデ、先頭!」
「りょーかい!」
「クロちゃん、ナビしてあげて」
「え、道わからない?」
「えっへっへっ」
カエデが誤魔化すように笑うけれどバレバレだからね?
「じや、追っ手が来る前に行こう。
シロ、ゴー!」
「ワン!」
◆
カエデとシロが先頭を行く。
時折、モンスターが襲い来るけれどタイガーエイプは私が銃で地に落としてそのあと袋叩きにするから難はない。
少し手こずったのはモノクロベアと言うクマ型……いや、どう見てもパンダ。俊敏な動きで武術を操るパンダ。
熱くなったカエデが「手を出すな」と一対一を仕掛け、足止めを食らってしまったりしたけれど。
それが原因とは思えない。
明らかに、追っ手の足が速い。
「……どれくらいいるか検討つくかしら?」
「どうかな? 囲まれてはいないと思うけれど」
走る一団の最後尾で私とクロちゃんが作戦会議。
足元ではシロがしきりに辺りを気にしている。
私の魔力察知にもチラチラと人の姿が映り込む様になってきた。
「衝突は避けれなそうね」
クロちゃんが横目に後ろをを見ながら言った。
先頭を行くカエデも追っ手には気づいているだろうけれど、護衛対象の足に合わせる必要がある。
そもそも私達の動きが遅いのだ。
「むしろ、会敵するなら歓迎なんだけれど」
「どう言う事?」
「キノエネからの刺客。
最悪を想定すると、私達の能力は露見している」
「……続けて」
「相手は少人数で固まっている。
しかも、近接中心。
なら、取る手段は一つ」
「何?」
「初手、絨毯爆撃」
「正気?」
「正気も正気。安全圏から最大火力。
逃れようが無いでしょう?」
「無いわね。レンナの知る私達には」
でも今は違う。
彼女達と別れてからクロちゃんはスキルを増やしている。
「クロちゃんのスキルが通用しなくてもまだ切り札はあるけどね」
私の手の内に、レンナさん達に見せてない手札が二枚。
「大丈夫だと思うわ。
それより、ヨシノさん。一つ聞いて良いかしら?」
「何?」
「貴女、他にゲームしてる?」
それ、今する質問?
「最近、レッドエデンってのをやってる」
私の答えにクロちゃんは訝しげな顔で私を見る。
「本当だよ?」
「そう。あのゲーム、まだサービス続いてたのね」
「知ってるの?」
「私が、最初にやったゲーム」
「え、そうなの?」
「すぐに止めたけど。
あまりに直接的過ぎるのよ。
殺し合いが。
私の時は自爆用の爆弾ベストがデフォ装備だったのよ?」
「私も着けてるよ?」
死ぬ時に周りを巻き込みながら派手に散る。
うまくいけばキルスコアを一つ二つ稼げるし。
答えた私にクロちゃんが口をへの字にした。
「前、四体、止まれ!」
カエデが片手を横へ広げ足を止める。
「クロちゃん、後ろ来た!」
そのタイミングを待っていたのだろう。
背後から私達へ向け飛び来る魔法の数々。
「マジック・シールド」
クロちゃんが反転し、一歩前へ。両手を大の字に広げる。
直後、彼女の前に現れた半円形の膜に赤く輝く火の矢が、青く揺らめく氷の槍が、翠に煌めく風の刃が押し止められ消滅する。
それでもその余波はクロちゃんへと襲い掛かり僅かにHPを削っていた。
魔力察知が次々と白く弾ける魔法と、とめどなく迫り来る二の矢、三の矢を捉えた。
「この程度の魔法!」
その攻撃をクロちゃんはせき止める。
「このままゆっくりと前進しましょう」
クロちゃんが、私達を振り返りながら言った直後。
「囮だ!」「ワン!」
カエデとシロが同時に鋭い警告の声を上げる。
直後、私のお腹へ微かな衝撃。
「魔法と物理の二段構え……! みんな伏せて」
相手の方が上手か。
「追いつかれましたな」
「ナインテイルは目と鼻の先というところで……」
ん?
うさ耳が、何かを口走ったぞ?
「あの狐、敵じゃん?」
「妾にとっては守りなのじゃ」
なんと。
味方なのかよ。
それ、早く言えっつーの。
「儂がここで足止めをしますゆえ、皆は先へ」
ゆらりとお爺さんがただならぬ気配をまとわせながら立ち上がる。
何? その、いきなりの強キャラムーブ。
「ならぬ! 如何に翁とて、この魔法の中では死んでしまう」
「それでも、です。もはやそれしか活路は無い」
とは言え、このお爺さんも護衛対象。
はい、そうですか、と言う訳にはいかないよね。
「残りたい人」
「ハイ」
「わたくしも」
「いや、どっちかちびっこ抱えて行かないと駄目でしょ」
「ヨシノは?」
「リーダーが逃げちゃダメじゃん?」
「井戸端会議している場合じゃないのよ!」
一人必死に魔法を食い止めるクロちゃんから抗議の声。
「いいわ! 私があの子を抱えて走る。
あなた達は全員でここに敵を足止め。
お爺さん、戦えるなら先頭を行ってください」
「……承知」
「クロちゃん、一人で平気?」
「大丈夫。……私は、守護騎士」
「ん?」
「守りは本領なのよ」
クロちゃんが、少し寂しそうな笑顔を浮かべた。
そして、右手で剣を抜きそれを下に向け構える。
「剣折り盾と成す。アンサラー、我が身を守る翅となれ」
クロちゃんの持つ剣が、その剣先からサラサラと砂のように崩れ風に舞う。
それが、彼女を包み込む様に舞い……。
白銀の鎧が漆黒に染まったクロちゃん。
「何それ?」
「武器を犠牲にして守りを上げるスキル」
「それでは、あの魔剣は……」
「多分、戻らない。でも、それに比例して守りは上がったわ。
じゃ、先に行ってるわね。
……死んだら、許さないから。
絶対、みんな追いついてくるのよ」
そう言って、クロちゃんはうさ耳娘を抱え上げ走り出す。
その背に流れ矢が一本当たるが、刺さることなく砕け散った。
「あんなに嬉しそうだったのに……」
「負けられないですわね」
「よーし。なら、全力で行こう!
クロちゃんの願いは無視して、ここで全滅する覚悟だ。
まず私が場を乱す。
その隙に、各個前進!
私達には地の利がある!」
「ああ!」
「何人道連れに出来ますでしょう。うふふ」
「アーツ・全武装起動!」
全武装起動。
銃器に装填された弾丸、全てを同時に射出する技。
例えば、六発分装填済みの銃があるならば使用者の前に六挺の銃が出現し、その銃口が一斉に火を噴く。
今、私の前には計八十門の銃と銃口が並ぶ。
そして、それが一斉に光弾を吐き出した。
扇状に広がりながら飛んで行き、その先で竹へと当たり軌道を変える。
無数の跳弾による予測不可能な弾幕。
こちらに放たれていた魔法の波が途切れる。
その隙に飛び出していくカエデと市松。
「シロ、おいで」
私はワンコと身を隠す。
後方援護が私の役目だし。




