クエスト・セレーネの帰還 開始
私達は約束の時間0時30分の10分前に機械工房を訪れた。
余談だけど、このゲーム一日が48時間表記。
現実と倍の速度で時間が流れるからなのだけれど。
そんは私達を迎え入れたNPCのお爺さんは「来てくれたか」と一言。
直後、仮想ウインドウが私達の前に開く。
――――
【セレーネの帰還】
パーティメンバーがクエストを受注しました。
※この依頼は開始後のキャンセルはできません。
※依頼終了前のログアウトは失敗扱いとなります。
【依頼開始】【キャンセル】
――――
私達は躊躇いなく依頼開始を選択。
ウインドウが参加人数4と言う表示へと切り替わります。
「それで、何をすれば良い?」
「竹林の奥へ行きたい。
道中、魔物から儂らを守って欲しい」
「護衛ね。
お安い御用さ。
でも、そっちのちびっ子も一緒に?」
「はーい!」
ニット帽の女の子が元気よく手をあげる。
お爺さんと女の子。
背に大きなリュックを背負っていた。
旅支度と言うか、夜逃げ?
「竹林の奥とは、具体的にどの辺りでしょう?」
「それは、歩きなら教える。
では、参ろうか。
手早く……な」
お爺さんに促され、私達は宿の外へ。
◆
街の中、外へ出る門の前に、ずらりと人が並んでいた。
なにこれ。
完全武装の強そうな騎士団御一行。
その中心にいるのは顎髭を伸ばした見るから偉そうなオジさん。
その周りには……プレイヤーの姿。
偉そうなオジさんが私達に気づき声を掛けてきた。
「翁、そして、姫。
旅立つのですかな?」
「はい。今宵は、月が出ておりますので」
やっぱり旅立ちなの?
それに、姫?
「領主様こそ、一体何を?
この軍勢は?」
「キノトミがなにか企んでいると言う情報があってな」
お爺さんと領主さんが、背後に控えていた女の子へ意味ありげな視線を向ける。
私は、そんな様子を見守っていたプレイヤーの一団の中に見知った顔を見つけた。
私はトーファに目線で合図。
話し合うNPCから少し離れた所へ彼を連れ出す。
「何事?」
「ギルドのクエストだ」
「内容は?」
「言うとでも?」
まあ、言わないか。
「私達もクエスト。
内容はあの二人の護衛」
「護衛? 相手は?」
「さあ?」
情報交換という名の腹の探り合いする私達を無視してNPC達は会話を進めていく。
「キノトミ……やはり、狙いは……」
「わからぬよ。仮に姫が狙いであったとしても我が軍勢が守ってみせよう」
「そのようにお手を煩わせる訳にもまいりますまい」
「構わぬ。そうしてこそ、姫を娶る口実に成るというもの」
と言って笑い声を上げる領主どの。
娶るって……。
「あのヒゲのおっさん……ガチロリじゃん。
人としてどうなの?」
「NPCの性癖まで責任持てねぇよ……」
「にしてもさ?
まさか、こっちの護衛ってあの領主から守り抜くことじゃないよね?」
「だったらどうする?」
「うーん……ロリコン集団がNPCを拉致したって、ある事ない事騒ぎ立てる?」
「止めろ!
その気は無いし、その風評はメンタルに来る」
「真っ当に生きよう? あんな変態領主とは縁を切るんだ」
「別にNPCがどうしようが知ったこっちゃ無いが、権力に恩を売っておいて損は無いだろ?」
「なるほど。
全女性プレイヤーから後ろ指さされる生き方を望む、と」
「そんな噂がながれようものなら死なば諸共で運営に通報するからな?」
私だって別にNPCがどうなろうが知ったこっちゃない。
「まあ良い。
森の端まで送らせよう」
「かたじけのうございます」
そのNPCもプレイヤーのことなど知ったこっちゃないとばかりに勝手に話をまとめてしまう。
こうして、私達は数名のNPCとプレイヤーに守られながら門をくぐり、街の外へ。
◆
「……やっぱり出たか」
護衛役を買って出たトーファが足を止める。
私達の進む街道の先に立ち塞がる一人のプレイヤー。
巨大な大剣を肩に担ぎ、黒い仮面を被っている。
「誰? 知り合い?」
「ミュルバンって奴だ」
「仲間でしょ?」
クロちゃんは知っているのか。
だけれど、トーファは武器を手に取る。
「手痛く裏切られた。殴り返さないと気がすまない」
「あれ? 意外」
「あん?」
「そう言う、私怨とかで動かないタイプだと思ってた」
「そんな計算高く生きれるならそもそもゲーム内にいねぇよ」
なるほど。
でも、PVPは禁止行為。場合によってはペナルティ。
〈ポーン〉
〈クエストの進行により、敵対勢力が発生しました。
なお、敵対勢力はプレイヤーを含み、クエスト進行中は所属が互いに明示されます〉
「そういうことだ! 掛かれ!」
「「「「「おお!!」」」」」
トーファの号令と共に走り出すプレイヤー達。
「巻き込まれないうちに逃げよう!」
「ええ!」
だけれど、私達もきっと標的なのだろう。
だって、ミュルバンというプレイヤーの上に『敵勢力』と真っ赤な文字が浮かんでいるのだから。
直後、背後の街の方からも爆発音が上がった。




