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クエスト セレーネの帰還 撃退

 地に伏せていたシロが全身を弾ませ一気に飛びかかる。

 空中で、私の目には見えない何かに牙を立てかじりついたシロ。

 そして、そのシロの口元を中心にして景色が歪んでゆく。


「動いたら、死ぬよ」


 八連結分の弾が込められた銃口を向けながら忠告。

 試したことは無いけど、多分死ぬのは本当。


「何で、バレたんです?」


 両手を上げながら姿を現したのは、零七組のアルさん。


「知りたい? その透明になるスキルの情報と交換で良いよ?」

「これは、スキルじゃなく零七組の特製装備です」

「効果は?」

「隠遁。具体的には視覚と魔力察知への妨害ですね」

「あー。レーダージャミングに光学迷彩みたいな感じ?」

「御名答」

「おいくら?」

「残念ですが、非売品です」

「割とマジで欲しい」

「ですよね。

 それで、どうしてヨシノさんは見破れたのでしょう?」

「ウチのシロは、鼻が利く」

「……そんなスキルが?」

「無い。でも、鼻が利く」


 そして、可愛い。


「今度、じっくりと可愛がらせてもらってもいいですか?」

「良いですよ。

 あまり、食べさせないことが条件」

「楽しみにしておきます」

「ええ」


 答えると同時に引き金を引く。

 放たれた光弾が、アルさんの頭を吹き飛ばし、残された体がすぐに粒子となり消えていった。


「ワン!」


 シロが私を振り返りながら鋭い声を上げる。

 その視線の先は……私の背後。

 咄嗟に身をかがめた私の頭上を風切音と共に巨大な何かが通り過ぎる。


「縮地陣・起動・陰、並びに承接・陽」


 しゃがみながら、めっちゃ早口で陣魔法を。

 飛び先は、シロの真横。


「……なに、それ?」


 不思議そうに小首を傾げる黒い仮面のアバター。少し小柄なアバターに、その体と同じくらいに大きな肉厚の剣。

 確か、ミュルバン。

 ……トーファめ。しくじったか。役に立たないなぁ。アイツ。


「ひ・み・つ!」


 言うわけ無いじゃん。

 銃口を向け、引き金を引きながら走る。


「シロ、逃げるよ!」

「逃さない」


 竹林の中、私とミュルバンとやらの追いかけっこが始まる。


「待て」

「縮地陣・起動・陰、並びに承接・陽」


 と見せかけ、反撃に出る。

 飛ぶ先は、木の上。

 一瞬、私を見失ったミュルバンの頭上から引き金を引く。

 死ね。

 真上から撃ち下ろした光弾は、ミュルバンが捻った体のすぐ脇を掠め地面で弾け飛んだ。


「何で避けれるの?」


 タイミング的に絶対当たると思ったのに。


「オマエ、おもしろい」

「私は、楽しくない。

 縮地陣・起動・陰、並びに承接・陽」


 枝の上から地面へと飛ぶ。

 シロが見つけた藪の中へと。


 身を低くし、息を殺す。

 そして、ミュルバンを確認。

 向こうにどんなスキルがあるかわからない以上、真っ直ぐにここへ走ってくるとしたらそれは見つかっていると同義……。


「何で、バレてんだろう?」


 隠れるのをやめ、今度は走って逃げる。


 ◇



 断片的なやり取りから察するに、市松とカエデは追手を振り払いお爺さんを回収しつつ、森を抜けた。

 残るは私とシロだけ。


「いい加減、しつこい!」


 その私は、ずっとミュルバンと追いかけっこ。

 真正面から殴り合ったら勝てっこない。

 それがわかるから懸命に逃げている。

 結局、これが一番時間稼ぎになっている。


『ヨシノさん! 森を出て! 迎えに行くわ』

「一人、引き剥がせてない」

『問題ないわ』

「りょーかい」


 状況は不明だけれど、クロちゃんがお呼びだ。

 このままミュルバンを連れて行っても大丈夫……なんだろう。

 信じるぞ。



 身を捩り、背後に迫るミュルバンに牽制の一発。

 だが、そこで相手は私の予想外の行動に出る。

 自身の身の丈ほどはあろうかという大剣を、放り投げたのだ。

 私に向かい。


「嘘!?」


 迫る黒金の塊。

 完全に虚をつかれた。


 防げる?

 咄嗟に銃を立て、防御を試みる。

 そんな私より、より冷静に対処に動いたのはシロだった。

 横手から剣の腹へと体当たりを敢行。

 それによって、軌道をそらされた武器は私に当たることなく地面に落ちた。

 その後を追って迫るミュルバン。

 仮面に覆われた顔から表情は読み取れないが、一瞬動きに迷いが出た。


「しゃ!」


 その隙に、私は銃を持ち替える。

 銃身の端を持ち、無手でこちらへと飛びかかってきたミュルバンを迎え撃つように銃床を振り抜いた。


 これ以上無いくらいのタイミングでカウンターが決まり、体勢を崩すミュルバン。

 下がりながらメニューを操作。

 手早く地図を開き、森から抜ける最短ルートを頭に叩き込み再び走り出す。


 一拍遅れ、背後から迫る足音。

 チラと振り返り、相手の速度と私の速度、そして、残りの距離を頭の中で計算する。


 ……森の中からは抜け出せる。

 多分、その直後に捕まる。


 ……森の中からは抜け出せる。

 そして、その直後に捕まる。


「ええい!」


 今、考えても仕方ない。

 竹の間を縫って走る。全力で。


 迫るミュルバンを背中に感じながら必死に逃げ……抜けた!

 飛び出すと同時に目に飛び込んで来たのは小さな白い山。


「伏せて!」


 上から落ちてきた声。

 その出処を見上げ……。


 白い山と思ったのは大きな白い獣・ナインテイルだった。

 そして、その頭の上に乗ったクロちゃんとウサ耳娘。


 え?


 事態の飲み込めぬ私めがけ、ナインテイルが尾を振るのが見えた。

 直後、正面から迫る真っ赤な炎が私を包み込んだ。


 ◇


「死ぬかと思った」

「大げさだな」

「大げさじゃないよ!」


 ナインテイルの放った攻撃は私をすり抜け背後のミュルバンを包み込んで粒子に変えた。

 その過程で私も周囲360度をぐるりと炎に包まれると言うなかなかな体験をした訳だけど。


 ミュルバンの他にも数人林を抜けてきた追手がいたけれど、全てナインテイルによって殺された。

 そして、今私たちは、湖のほとりに立つウサ耳娘を見守っている。


「解」


 両手を前にかざし、静かにウサ耳娘セレーネが呟く。

 その直後、湖の上に黄色い光が走り大きな魔法陣を描く。


 何が起きるのか。

 固唾を飲んで見守る私たちの前で湖が割れ、ぽっかりと空いた空間の下からせり上がって来る……機関車!?


「空を渡る船、はごろもじゃ」


 お爺さんが嬉しそうな声を上げる。


「空を……」

「渡る?」

「左様。行き先は……」


 静かに右手を真上に上げるお爺さん。

 真っ直ぐに伸ばされた人差し指のはるか先に輝くのは、真円の……。


「月!?」

「左様。月の都、ミズノトウとこの地をつなぐ架け橋じゃ!」

「ミズノトウ……四番目の街ですわ」

「お主等が集めた魔力の実より抽出した魔力の液体こそがこの船を動かす燃料」


 そう繋がってくるわけか。


「さあ、参ろうぞ。

 我が都、ミズノトウへ」


 ウサ耳娘が振り返り笑う。



 ◇



 クエストは、明らかになっていなかった四番目の街『月の都・ミズノトウ』へとつながるルートだった。

 クエスト「セレーネの帰還」は大成功におわり、私たちは月へ向かい空を駆け上る機関車に乗った。

 そして私たちは、プレイヤーが誰一人として足を踏み入れたことのない世界、月への一番乗りを果たす。




しばし、書き溜めに入ります。

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[良い点] 更新に感謝! [一言] 『銀河◎道9○9』だ!\(^o^)/
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