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70.ナインテイル討伐

 主にクロちゃんの活躍により、私達はカノエトラへ苦もなく帰還する。

 そして、道具屋で入念に準備をする。

 賞金首、ナインテイルに挑む為に。




「聞いた話だと、この辺なのだけれど」


 私達の目の前には大きな湖が広がっている。

 背後には森。


「……何か来るみたい」


 シロが全身の毛を逆立てて警戒している。

 私は腰を下ろし、そんなシロを撫でながら皆へ警戒を促す。


 湖の湖面に、ゆっくりと波紋が広がる。

 ひとつ、ふたつ、みっつ……。


 四つ目で、それを作り出した物が姿を現わす。


 十メートル以上ある、巨大な獣。

 目を細め、静かに私達を見下ろす狐。




【ナインテイル】

 守護者

 この先へは通さない





「散開!」


 狐が静かに湖面を蹴って跳ねた。

 それと同時に、私達も地を蹴る。


 四方へ広がり、それぞれに武器を構えた私達の中心へ降り立ったナインテイル。


 直後、私の視界は白一色へと変わる。

 サーモグラフィーで爆発の高温を映したみたいに完全に白飛びした世界。

 魔力感知が捉えた、私の許容範囲を超えた魔力。


 銃口を向けながらメニュー操作し、視界を切り替える。

 ナインテイルの九本ある尾が扇状に広がり、その体を中心として青白い炎が辺りを埋め尽くさんと瞬く間に燃え広がっていく。

 逃れる術すらなく、炎に捕らえられた五つのアバターはあっさりと蒸発した。




 四人は、カノエトラの中心部に立っていた。

 死に戻り。

 ナインテイルに対し、攻撃ひとつまともに当てる事すら出来ず私達は敗北したのだ。


「いやいやいや」

「何が起きたんだ?」

「一筋縄では行きませんわね」

「根底から強さのバランス可笑しくないかしら?」

「……とりあえず、お茶でも飲んで冷静になろう」


 デスペナが解消するまで休憩。

 シロのさっきの反応は警戒ではなく、恐怖だったのかな。

 そのシロも、私達と同じ様に死んでいる。

 再召喚までは三十分。


 ◆


「どうするよ?」


 山盛りの唐揚げをつつくカエデ。

 怒りを食欲へ転化しても何ら問題のないこの世界はある一定の層には夢の国。


「どうって……どうしようもないんじゃないかしら?

 少なくとも現時点では」

「クロさあ、お前もう二つも賞「ん、んん!」


 迂闊に口を滑らせかけたカエデに咳払い一つ。

 私達の倒した賞金首は、クロちゃんが前のパーティで行ったヒッペ討伐のみ。

 どこで誰が聞いてるかわからないからね。


「ヒッペを倒した時は違うわよ。

 ナインテイルは、人を集めればなんとかなるってレベルじゃないわ」

「じゃ、ヨシノの遠距離射撃だ」

「私の豆鉄砲じゃ何発当てても無理だよ。

 と言うかね、魔力察知を取った私には奴の強さが恐ろしい程にわかる。

 クロちゃんの剣がマッチ棒だとしたら、ナインテイルは太陽。それぐらいの差があるよ」

「……そんなに?」

「ごめん。ちょっと盛った」


 でも、軽く恐怖を感じる様な魔力だった。

 私の攻撃か一発二発当たったところでどうにかなるものではないのは確か。


「もしかしたら、ヒッペ、グアンナ、トカゲ座と立て続けに倒され、強化されたのかもしれませんね」

「それは考えられるわね。

 もしくは……ギミック系。

 倒すためにはスキルか専用クラスが必要とか」

「そういえば、九尾を倒すのは陰陽師でしたわね」


 陰陽師か。

 確か、そんなクラスがクラスチェンジ候補になったと言っていた奴がいたよね。

 お前だよ。

 リスみたいに唐揚げを頬張っているお前。


「鉄砲で撃たれるのも大抵狐よね」


 ごん……。


「やたら強いのはわかった。有効な対応策も浮かばない。

 周知の存在であるナインテイルにあまり時間は割きたくない。

 なので、一旦は見送りだね。

 有効策が手に入ったら考えよう。

 他のプレイヤーも暫くは倒せないだろうし」


 こそこそと他人から隠れて攻略を続けたグアンナの時とは状況が違う。

 執着すべきでない。


 ◆


 一度ログアウトして、私はシャワーを浴び、軽食を食べ日付が変わってから再ログイン。

 既にロビーには全員揃っていた。

 私が一番最後だ。


「今日、部活は?」


 一番忙しいそうなカエデにまずは確認。


「午後から」

「ええっ? 最長で朝四時までかかるかもしれないけど平気なの?」


 クロちゃんが心配そうな顔をするけど、多分、大丈夫じゃないかな。

 カエデの体力は底なしだし。


「まあ、大丈夫っしょ。

 西七辻さんは?」

「私は明日はお休みです」


 私は帰宅部なので問題なし。

 残るは……。


「いいんちょ、予定は?」

「無いわよ」


 私と一緒か。


「じゃ、プールとか行かない?」

「……えっ?」

「小学生だらけの市民プールだけど……て、いいんちょ、どこに住んでるだっけ?」


 連日暑いし、引きこもりがちなので外に出る口実が欲しかったのだ。

 このところ、このゲームとレッドエデンだけで毎日が過ぎて行く。少しヤバいのでは? と、危機感を覚え出したのだ。


「そこは女子らしくナイトプールじゃねーの?」

「紅葉から女子という単語が飛び出てくるとか、明日はアルマゲドンが降ってくるか?」

「えっと……」

「あ、カエデみたいに体力バカじゃないもんね。

 明日は無理か」

「夜ならいけるんじゃね?」

「夜のプール?」

「ナイトプール」

「ナイトプールは泳ぐところじゃないじゃん」

「そうなの?」

「え? 知らなかったの?」

「暗闇で集中力が増すからトレーニングにちょうどいいかなって」

「君の世界の女子ってみんな脳筋なの?」


 ナイトプールはガチで泳ぐんじゃなくて、チャラく水と戯れるところだよ。

 そして、君にはそんなプールより太陽が照りつける塩素キツめの市民プールの方が似合う。


「よろしければ、行きつけのプールへご招待しますけれど?」


 にこやかな笑顔で市松お嬢様が言った。


「市松が言うとプールサイドにフルーツ山盛りのカクテルグラスしか思い浮かばないわね」

「それは、アタシの知ってるプールじゃないな」


 世の中には何種類のプールが存在しているのだろう。


「まあ、明日はしんどいだろうけど、今度みんなで行こうよ。

 せっかくだから。

 ね?」

「え、ええ……」


 クロちゃんが曖昧に頷く。

 ログイン前の他愛もない話。


 本当にプールに行けるかわからないけど、夏の間にもう一度くらいリアルで集合したいな。

 そんな事を考えながらロビーからゲーム世界へ。カノエトラの宿屋で一時間ぶりのワンコが出迎える。

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