69.砂漠の街
砂漠の中のオアシス。
キノトミはそんな街だった。
カラッと暑い。汗は出ないけど。
NPCの格好は古代エジプト風……なのかな?
「ありがと。
お陰で快適な旅路だったわ。
私達はとりあえずギルドに行くけど、貴方達はどうする?」
「ざっと店を見て、カノエトラへ戻ります」
「え? 今から戻るの?」
「ええ。ナインテイルが待ってるので」
そう言いながら視線をクロちゃんの方へ。
彼女の魔剣があれば本当に勝てるかもしれないし。
「挑むの?」
「ええ」
「おお! 朗報を待ってるぞ!」
「勝ったらいっぱい買い物してね?」
「はい」
そんな感じで零七組と別れて、石積みの建物が並ぶ街をぶらぶらと歩く。
他の街と同じように、店にはロートアイアンの看板がかかっている。
と言っても、武器防具に目ぼしい物はなく単に冷やかしただけ。
唯一買ったのはスキル。
【魔力感知】。
文字通り魔力を感知出来る見たいだけれど、この世界は基本的に生き物には魔力が宿っているらしい。
なので、光の無い暗闇の中でも敵を感知出来る。
熱を感知するサーマルスコープみたいなものだろう。
夜戦で必須。
夜戦で無くても必須。
サーマルスコープのお陰で私のキルスコアがちょっと上がったのだ。まあ、別ゲームの『レッドエデン』の話だけれど。
それと、【魔力吸収】。
敵を倒した時にわずかにMPが回復するみたい。
「またスキル増やすの?」
「便利そうじゃん。
そう言うクロちゃんだって何か買ったんでしょ?」
「魔力盾。
魔法防御技。
言っとくけど、私は必要最低限しか買ってないわよ」
「私もそうだよ?
魔力察知と魔力吸収、あと高速詠唱」
「魔力察知……ねぇ」
「敵の場所がわかる。超有用。
みんな買えばいいじゃん」
「近接には向きませんよ。
目に入る情報が増えて、五月蝿くなりますもの」
「そう言うもの?」
「そうね」
「それにしても、急に魔法関係のスキルが充実しましたわね」
言われて見れば確かに今までの店より魔法関係のスキルが多い。
「この先は魔法を使う敵が出るから準備をしろってことなんじゃないかしら」
「そうなんでしょうね」
「ま、私達は戻るんだけどね」
とりあえず、スキル三つ。
そう言えば、誰も攻撃魔法使わないな。
私達。
◆
「全体的にもそれほど多くないみたいですわよ」
カノエトラへの戻り道。
私はスキル屋で浮かんだ疑問を市松へぶつける。
「そうなの?」
「ええ。時間制限のある中でMP消費する攻撃手段は効率が良くありませんので」
「ヨシノの銃もそうだよな?」
「そうだけど……そんなに効率悪いかな?」
「ヨシノさんはMPポーションを湯水の如く使ってますもの」
それは大げさじゃないかい?
「お金を手に入れるために敵を倒す。そのためにお金を使ってMPポーションを買う。
そうやっていると、実入りが良くないと言う事もあるでしょう」
「ヨシノは遠慮なく使うよな」
「だって、中途半端な支出を躊躇っても意味ないもの」
今は富豪な訳だけど。
ナインテイルを倒したら今度こそちゃんと分配しよう。
「新しいスキルの調子はどうですか?」
「ん……控えめに言って最高」
【魔力感知】は想像した通りのスキルだった。
視界の中に、サーモグラフィーの様に魔力を持つものが浮かび上がる。
その情報を、視界の上に重ねる事、視界全体をその情報に切り替える事、そのどちらもメニュー操作から可能。
遠方のモンスターも、物陰に潜むモンスターも察知出来る。
その際、その魔力の嵩によって色が変わるから、漠然とした強さもわかる。
あと、味方の位置、魔力を含む素材の位置も。
つまり、結論としては超便利。
そして、その視界の中で一際眩い輝きを放つのが先頭を進むクロちゃん。
いや、正確にはクロちゃんの持つ剣。
「しかし……なんて言うか、雑に強いな」
私達から少し離れた先頭を行くクロちゃんの戦いぶりをカエデが評する。
実際、剣を一振りするだけで、大抵の敵が粒子へと変わって行く。
「悔しい?」
「強い仲間が出来て心強い」
「本音を言うと?」
「アタシも化け物みたいな刀が欲しいなぁ。天下五剣みたいな」
とりあえず、刀をチャキチャキ言わせるのやめなよ。
「漆黒の羽ばたき。
戦場を舞う黒の蝶。
その後に残るものは枯れた花園。
表情一つ変えず、一人戦場を走り抜ける。
何者にも遮られる事なく……あれこそ、黒死蝶シュヴァルツ・シュメッターリング」
市松はうっとりとした視線をクロちゃんへ向けている。
シバルツさんて何者なのだろう。
ちゃんと調べようかしら。
いや、知らない方が幸せと言う事もある。
うん。
やめておこう。




