64.新装備!
今日の予定。
高濃縮魔力の実を納品して、スッキリとした気分で次の街へ行く。
以上。
「こんにちは!」
「いらっしゃい……」
元気よく零七組クランホームの扉を開けた私達を、レンナさんの死人見たいな顔が迎える。
「大丈夫……?」
目の下のクマが濃い。
「大丈ばないわ。
死にそう」
「クロさん。
騙されてはダメですわよ。
あれはメイクです」
しかし、クロちゃんは騙せても市松は騙せない。
「さあ!
高濃縮魔力の実。
足揃えて納品してもらおうか!」
「リオネル、持ってきて」
「うん」
三文芝居を諦めNPCの売り子を呼ぶレンナさん。
提示された『高濃縮魔力の実おまけつき』と言う項目を……。
「おまけ?」
「ウチのクランの好意。
合成だけでこれだけの素材を受け取るのは暴利だって言うのよね。
おかしいと思わない?
合成に苦労してるのは私だけなのよ?」
「何が入ってるんです?」
「それは見てのお楽しみ。
あ、そう言うことだからリオネル、分割して個別に清算してね」
「わかったよ。お姉ちゃん」
お姉ちゃんと呼ばれ、一瞬だらしない笑顔を見せるレンナさん。
いや、私は突っ込まない。何も見ていない。他人の性癖など聞いたところで何も得るものはないのだから。
「じゃ、アタシから」
「はい。高濃縮魔力の実と、刀に具足です」
「刀!?」
「えっと、説明を預かってるわ。
霊刀・ソシノマル」
「祖師野丸。
源義平が祖師野村でその地を荒らす狒々を討ち取り、自らの代わりとしてその地へ納めたとされる神剣。刃渡り二尺七寸五分で安綱の作だと言う……」
カエデが、めっちゃ早口だ。
「……そ、そうね。
現実はそんな感じなのかしら?
一応、性能的には魔力剣で、魔物、獣特攻がついてるわ。
タイガーエイプの肝を素材に使ったら出来たそう。
あと、具足も同じくタイガーエイプの骨と毛皮製ね」
「着てみる!」
仮想ウインドウを操作するとカエデの装備が一瞬で変わる。
「おお!」
具足と言いつつ、その身に纏うのは袖と呼ばれる肩の部分と草摺と呼ばれる腰当て。そして、小さめの胸当て。
髪に合わせてか朱色に染められた小札と対照的に首元には真っ白な毛皮。
「……お腹、守らなくて平気なの?」
ご満悦のカエデにクロちゃんが困惑顔で問う。
「いや、動きづらくなるからこれくらいで良いんだよ!」
おヘソ、丸出しじゃん。
まあ、私が言えた格好では無いけど。
「素材の特性を生かして防御より回避に重心を置いたみたい」
「それにしても、お腹……」
「クロちゃん。
ビキニアーマーでタンクが成り立つ世界よ?
鎧の面積なんて文字通り飾りでしかないのよ」
そうレンナさんに言われ、何故か私を見てから溜息を吐くクロちゃん。
何が言いたいの?
「どう? 気に入った?」
「おう!」
「刀振り回すなら、人のいないとこでやってね」
「おう!!」
返事をするなり、早速部屋の隅で素振りを始めるカエデ。
「では、次はわたくしが」
と、市松が進み出る。
「はい。高濃縮魔力の実とメイスと服です」
「まあ」
「タイガーエイプの素材で作った神官服だそうよ。
魔力と物理攻撃よりにステータスボーナスがついたみたいね。
その分、メイスは物理に特化させたって言ってたけど、良かったのかしら?」
「素敵ですわ」
さっそく着替えた市松。
その場でくるりと一回転。
黒のワンピース。下は少し膝丈で先が広がったラッフルスカートに黒タイツ。
赤で編み込まれた模様が血のよう。
そして、背中がバックリと空いている。
そんな露出の多い神官、いないと思う。
まあ、私が言えた格好では無いけど。
「さすがは、マールさんですわ!」
マールさんは零七組の服飾職人。
市松と意気投合している。
そして、部屋の隅でメイスの素振り。
銀色に光るメイスは今まで使っていた物より少し柄と打撃部分が長くなった。
つまり、より凶悪に……。
「次は私が!」
「はい。高濃縮魔力の実と、グローブと首輪です」
「グローブ?」
仮想ウインドウに提示されたアイテムを受け取る。
【手部アクセサリー】タクティカルグローブ
タイガーエイプの革で作られたグローブ。
滑りにくく、登攀や木登りにも使える。
「銃はね、まだ作れないし、時間もないからそれくらいで我慢してね」
「いいえ、全然嬉しいです!」
これで、肌色の面積が少し減ったぞ!
いや、喜ぶべきはそこではない。
「もう一つはシロちゃんに」
「え?」
「嫌がるかも知れないけど」
それは、赤い首輪。
シロにピッタリだろう。
【首部アクセサリー】わんこの首輪
タイガーエイプの革で作られた首輪。
野性味あふれる感じがする。
「シロ」
「ワン?」
「着ける?」
「ワン?」
首を傾げるワンコ。
この子は、私の言葉がわかっててわざとやってるんじゃなかろうか。
最近そんな気がしてきた。
なぜならカエデには『ワン?』でなく『ワン!』と答えるのだから。
まあ良いや。
しゃがみこんでシロと目線を合わせる。
そして、舌出しっぱなしの顔の前に首輪を出して、もう一度じっくりと見せる。
「着けるよ」
「ワン」
よし。
メニューを操作し、ワンコに首輪を装着。
「ワン?」
首を傾げるシロ。
「似合う似合う。よし、カエデに見せてこい」
「ワン!」
頭をわしゃわしゃと撫でた後に、リリース。
カエデの方へ元気に走っていくシロ。
立ち上がってレンナさんへ向き直り、頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「良いのよ。良かったわ。嫌がられなくて」
完全に飼い犬になったのだけれど、野性味ってなんだろう。
「次は私……ね」
「クロちゃんは特別よ」
「……ビキニアーマーなら返品するわよ?」
顔を歪めながら言うクロちゃんに、レンナさんがにこりと笑い、更にクロちゃんが顔を歪める。
「はい。高濃縮魔力の実と、剣です」
男の子にそう言われ、ほうっとため息を吐くクロちゃん。
「ビキニアーマーじゃなくて残念って思ってるでしょ?」
「思ってないわよ!」
「私は推したのよ?」
「推さなくていいわよ! そんなの着ないわよ!?」
「「残念」」
「何が残念なのよ!?」
君だけ一人、露出が少ないのだよ。格段に。
「まあ、クロちゃん、戦い方がオーソドックスだから、店売りの方がクセがなくて使いやすいのよね」
「流石はクロちゃん」
「褒められてないわよね?」
褒めてるよ。
戦い方がねじ曲がってるとか言われるより良いでしょ?
私をジト目で睨んでから仮想ウインドウを開くクロちゃん。
「…………魔剣……アンサラー……これって!?」
黒い刀身の細身の剣。なんか、オーラみたいなのが見える。
「それが、『朽ちた剣』の再生品よ。大当たりね」
「なに……この性能……」
剣を立て、まじまじと見つめるクロちゃん。
瞳孔が開きかけている。
「強いの?」
「さっきの刀。あれがおもちゃに見えるくらいの性能よ」
「えぇ……」
なんでいきなりそんな強武器を手に入れているのか。
実はいきなりではないのである。
朽ちた剣。
それは、チュートリアルのアイテムリストにあった物らしい。
なんの役にも立たぬアイテム。
だったのだけれど、タイガーエイプの超レアドロップアイテム『蟠桃』と零七組の力によって、生まれ変わった。
「ユウが言ってたけど、まだまだ強化で強くなるだろうって。
だからちょいちょい見せに来いって」
「素振りは向こうでやってね」
「やらないわ。素振りじゃ、物足りないもの!」
嗚呼……また一人、戦いの申し子が……。
この先が思いやられる。
だって、この三人を止めるブレーキは私だよ?
ちら、と視線を部屋の隅へ向ける。
刀を振ってその振り心地を堪能するカエデ……ではなく、その足元で舌を出している首輪を巻かれたワンコ。
可愛い。
癒される。
最高だな。
私は気を取り直し、レンナさんへ顔を向ける。
「なんか、逆にすいません」
こんなにプレゼントもらっちゃって。
「良いのよ。
それで、ひとつ、お願いがあるのよね」
「嵌めやがったな!」
くそう。
ここで断ったらみんながもらったおまけを返さざるを得ない。心情的に。
汚ねぇよ!
やる事がぁ!
「何をお望みですか?」
「私達、零七組をキノエネまで連れて行ってほしいの」
「え? それは、パーティを組んで、と言うことですか?」
「そう。
私達も、自分の身は自分で守れるくらいの強さはあるわよ。
でも、ボスを倒すには少し足りないと思うの。そこで、貴女達の力を借りたいのよ。
二パーティでのレイドね。ウチの連中も渡した装備品の性能を見たいって言ってるし」
「いつですか?」
「いつが良いかしら?」
「……今日はどうですか? このアイテムを納品してくるので、その後すぐに」
「良いわよ」
「途中で全滅しても文句なしですからね?」
「わかってるわよ」
まあ、次の街へ行こうとは思っていたのだから問題はない。
念の為、私は陣魔法を控えよう。




