60.生産職の集まり
クロちゃんの提案で、スキルショップで【ドロップ率向上】と【幸運】のスキルを全員が購入。
追加で三人がそれぞれスキルを選んでいるが私はスキルリストをひとしきり眺め、そっと閉じる。
「買わないのか?」
「うん。
今のところ、不便ないし」
無いことはないのだけれど、上げればキリがない。
直近の問題は銃の弾数。
でも、これはスキルと言うより銃と言う武器が持つ根本的な問題でありスキルで解決しそうにはない。
「あんまり無造作にスキル取ると成長遅くなるらしいし」
これは、クロちゃんから教えられた。
なので、料理とか考古学とか趣味的なスキルを取る人はあまりいないそう。
今更だよ。その情報。
「私、雑貨屋見てくるね。
終わったら来て」
「りょーかい」
シロを連れ、別の店に。
長丁場になるのは目に見えている。
なら、途中で気を休める為に軽食とお茶の葉を買っておこう。
◆
それから半日。
私達は木の実を求め、現れた猿を狩りながら森の奥深くへと進んでいった。
結果、高濃縮魔力の実を十個手に入れる。
新たに得たスキルの効果はあったということだ。
十個……。
魔力の実が300個強。
夏休みの間には終わるかも。
そこまで気力が持てば……。
◆
翌日。
私達は例のごとくロビーで待ち合わせ。
「デスペナ一時間。
その間に買い物すませてその後はずっと森の中を進みます。
それで、よろしいか?」
「ええ」
「頑張りましょう!」
「やるぞ!」
「では転送」
目の前に浮かぶ仮想ウインドウ。
その中の【全員で】の文字へと触れる。
◆
「クロちゃん。
レンナさんに連絡ってとった?」
「……まだよ」
「今から連絡してみようよ。どうせ暇だし」
街をぶらつきながら彼女へ提案。
昨日は街に戻る時間を惜しみ、ギリギリまで外に居たのでデスペナ状態からのスタート。
この後テントを買って向かう予定。
「……何て送れば良いのかしら?」
「『カノエトラまで来ました。近くにいたら会えませんか?』でいいんじゃない?」
「いきなり?」
「え?
うん。まあ、唐突だけど。
忙しければ諦めるし」
「……他には?」
「他? 他って?」
「他に、何を書けば良いの?」
「何もいらなくない?」
「それだと……失礼じゃないかしら?
変に思われない?」
「普通に喜ぶと思うよ?」
「そうかしら?」
と言いつつ仮想ウインドウを開きモジモジとするクロちゃん。
はよ、送れや。
「……送るわよ?」
「お願いしまーす」
「良いかしら?」
「うん」
「それじゃ……」
口を真一文字に結んだクロちゃんが恐る恐る仮想ウインドウに触れる。
「……お、送った……ひぃぃぃ!!」
「えっなに!?」
突然か細い悲鳴をあげるクロちゃん。
その原因は、クロちゃんを真後ろから抱きしめ肩に顔を乗せたレンナさん。
……全く気付かなかった。
「お久しぶりねー」
「あ、どもー」
「クロちゃんから連絡があるなんて、明日は槍でも降るんじゃないかしら?」
「わかるように近付いてくれないかしら!?」
槍は否定しないんだ。
「元気だった?
グアンナ倒したの貴女達?」
「だったらどうします?」
「そうね……もう、私達抜きじゃ生きていけないくらいに貢いでもらおうかしら?」
「それ、逆じゃないですか?」
「ふふふふ。
それくらいズブズブになりましょう?」
「それは嫌ですねー」
「あら、残念ねー」
「私を挟んで怪しいやり取りをしないでくれるかしら?」
「あら。
そしたら、みんな私達のクランホームへいらっしゃい。
すぐそこなの。
美味しいコーヒーを淹れるわよ」
「わーい。
お邪魔しまーす」
レンナさんは、クロちゃんを解放して皆を先導する様に歩き出す。
期せずして、狙い通りクランホームを見学する機会を得た。
罠の可能性もあるけれど、とって食われる訳ではないだろう。
「クラン、結成したのね?」
レンナさんの背にクロちゃんが質問を投げかける。
「ええ。零七組っていうの」
「ゼロナナグミ?」
「カノトウシのレンタル工房。
七番スペースで知り合った仲間だからゼロナナ組。
わかりやすいでしょ?」
「わかりやすいですね」
それ、本人たちにしか通用しないわかりやすさだと思ったけれど、私達のクラン名(仮)『ファスティ』も、由来は本人達にしかわからないしな。
「クランって、便利ですか?」
「ええ。便利よ。
私達は生産職の集まりだから、作業場があって共有倉庫で素材の融通が効く。
これだけで、家賃以上の価値はあると思ってるわ」
ふむ。
でも、私達、生産職の集まりじゃないしなぁ。
「クラン組むのかしら?」
「考えてはいるんですけど、お金掛かるんでどうしようかなって」
「確かに、普通にプレイする分にはそんなに利点ないかも知れないわね」
「やっぱりそうですか?」
「というのは一般的な意見。
私の考えはちょっと違うわ」
「どう違うんですか?」
「寝食を共にすると一体感が生まれるというか……うーん、ちょっと違うわね。
仮想のペルソナから仮面を一つ剥いでよりプリミティブな自分を出せるスペースに存在する安心感……」
「ちょっと、何言ってるかわかんないです」
「何で分かんないのよ?」
私の正直な感想に横からクロちゃんの突っ込み。
いやいやいや。横文字多いし。
「まあ、なんというか雰囲気みたいなものね。
見てもらえれば、何となく伝わるかしらね。
はい、着いた」
先頭を歩いていた彼女が立ち止まり振り返る。
その背後にレンガ造りの建物。
両開きの大きな扉が印象的。倉庫かな?
「おかえりなさい」
レンナさんへそう声を掛けたのは建物の前に置かれた簡素なテーブルに座る少年。
プレイヤーではなくNPCみたい。
「ただいま。売上は?」
「ゼロです」
「また?」
「またです」
「まあいいわ。頑張ってね」
「うん!」
レンナさんは少年のNPCとそんなやりとりを交わしてから建物の扉を開き、笑顔で振り返る。
「ようこそ。
零七組拠点・寅支部へ!」




