59.手間のかかる依頼
受付嬢に渡された地図に記された依頼人のお宅へ。
店先には予想通り歯車を模したロートアイアン看板が掛かっていた。
「ごめんください」
市松を先頭に中へ。
狭い室内に工具やら機材やらが雑多に置かれた薄暗い工房だ。
「何じゃ?」
中に居たのは頭にタオルを巻いて、サングラスのように色の濃いゴーグルを嵌めた男性。
汚れたツナギを腕まくりして軍手をしている。
真っ白い髭と皺だらけの顔から老人だろうと思われるが、背筋の伸びたその姿勢から老いは感じられない。
「ギルドの依頼で参りました」
「そうか。そこに置いとくれ」
「こちらですわ」
市松がビー玉程の木の実をテーブルの上に置く。
老人はそれを手に取り顔を近づけじっくりと眺め、それから測りの様な物に乗せ……。
「おい、セレーネ」
「はーい」
突如として、声を上げる。
奥から現れたのは大きなニット帽をかぶった小学校低学年ぐらいの女の子。
「こいつらに三万払ってやれ」
「はーい」
シャリンと音がして、所持金が増える。
一人2,000G。
「もう下がってよいぞ」
「はーい!」
手を上げ元気に返事をし、スキップしながら戻っていく女の子。
「後学のためにお教えいただきたいのですが、その実は何に使うのですか?」
「これか?
……これはな、地中から吸い出した魔力を溜め込んだ木の実じゃ。
魔晶石を知っとるか?」
「ええ。採掘している所を見た事がありますわ」
「あれはな、かつて天より降り注いだ魔力の雨が地面の中で寄りかたまった物だと言われておる。
それを魔女の木が吸い上げ、こうして実の中へ蓄えた訳じゃ」
「そうなのですか」
「その魔晶石と同じ様に地面の下から採掘されるのが魔石じゃな。
こっちはもっと貴重で魔力の桁も違う。
お主、召喚士なら知っておろう」
「はい」
シロの元!
「それでな、この木の実からは魔力の溶け込んだ液体を抽出するのじゃ。純度の高い液体を。
木の実一つから抽出できるのはほんの一滴。
それを集めて集めて……たったコップ一杯分で……セレーネの命は救われると言うのに……あの火事さえなければもうじき終わっておったと言うのに……」
そう言う、重いのは要らないです。
◆
「なあ……手伝「手伝わない」
納品を終え、私達は工房を後にした。
最後尾から付いてくるカエデが口を開いたけれど、私は最後まで聞かずに被せる。
「手伝お「手伝わない!」
半日がかりで手に入った木の実一つから一滴。
それをコップ一杯分。
一体どれだけ時間がかかるか想像も出来ない。
「何でさ」
「そんな時間はない!」
「時間はあるさ。有り余るほど」
ああ。駄目だ。
妖怪猪突猛進ガールは手伝うと心に決めたらしい。
だけれど、ここに居るのはその頑固さを知っている幼馴染の私だけではない。
彼女のわがままに付き合う訳にはいかないのだ。
彼女のわがままに二人を付き合わせる訳にはいかないのだ。
だからこそ、私は心を鬼にし幼馴染に諦めさせなければならない。
「ドロップ率60%、レア出現率5%とすれば30体倒して一つ」
「夏休みの間には終わるのではないでしょうか?」
「……え?」
腕組みするクロちゃんと顎に指を当てる市松。
「リーダー。方針変わった?」
「変えて無い」
「なら、楽しみながら集めましょう。木の実」
二人とも、やる気かよ。
「……なんだよう。一人反対してた私が悪者みたいじゃん」
泣きそう。
そんな私を三人と一匹が生暖かい目で見ている。
「よし! じゃやるよ!」
「「「おー」」」
「ワン!」
四人で拳を突き上げた後にうなずき合い、踵を返す。
今しがた、出てきた機械屋さんの工房へと。
今度は、私が先頭で。
「こんにちは」
「ん? どうした? 忘れ物か?」
「ええ。
さっきの話、お手伝いするのを忘れてました」
「手伝いって……そんな事されても大した報酬は出せないぞ?」
「構いません」
そう答えた私の前に自動で仮想ウインドウが開く。
――――
【続・高濃縮魔力の実、求む】
セレーネを助けるためには高濃縮魔力の実が千個必要だ
報酬:-
【受理】【キャンセル】
――――
私は迷わず受理へ指を伸ばす。
嘘。一瞬躊躇った。
でも、受理。
「すまぬ。
本当にすまぬ」
そう言いながらお爺さんは深々と頭を下げた。
……千個かぁ……。
◆
「やると言っても、長々とやる気はないわよ。
その為のスキルがないか見に行きましょう」
「りょ」
私は半分後悔していた。
リーダーとしての強権を発動し、請けないとそう決断すべきだったのではないか。
だって、千個だよ?
二時間で一個しか手に入らなかったアイテムを。
一年以上かかるじゃん。
馬鹿なの?
「夏休み中には終わらせたいですわね」
来年の夏休みにならない?
「やってみたら意外とすぐ終わるさ」
根拠ゼロの楽観的観測が腹立たしい。
だけれど、そんな感情を微塵も表に出さずに抱きかかえたシロのほっぺをむにむにとする。
何もかも忘れてしまえる程の心地よさ。
中に何が入っているのだろう。
癒される。
むにむにむにむに。
よし。
癒された。




