39.ヒントかな?
目論見通り、カエデが消えていった。
「さて、何分持つかな」
「昨日のヨシノさんが30秒くらいでしたっけ」
「ねえ。いい加減何が起きるか教えてくれない?」
「それは、ねえ?」
「ええ、自分の目で確かめるべきですわ」
「フフフ」
「ウフフ」
何故か息ぴったりの私と市松。
対するクロちゃんは口をへの字にする。
次はクロちゃんの番だからね。
「出口まで最短で帰るわよ。
マッピングは有るのよね?」
「もち」
クロちゃんはマッピングのスキルで既にこの遺跡の一部を地図化している。
帰ることを優先するため全部は埋めてないのだが、出口までの道はわかる。
一分経たずしてカエデから戻ったとの連絡を受け、私達は帰り道を急ぐ。
先頭を行くのは市松。
クラスが聖職者なのでアンデッドと相性が良いのか、それとも、メイスを振るう度に骸骨が骨片を飛び散らせながら砕け散って行くのが楽しいのか。
まるでダンスでも踊るような軽やかな足取りで進んでいく。
優雅な微笑みと共に。
「ドン引きよね」
完全にトランス状態の市松を眺めながらクロちゃんがボソリと言う。
「高笑い上げてないだけ良いんじゃない?」
瞳孔の開いた目で薄ら笑いを浮かべた女が鈍器で骸骨を殴っている。
正直に表現するならば、そんな感じだ。
私は笑みを浮かべながら刀を振り回す友人に心当たりがあるのであんな光景にも耐性がある。
「ねえ。そっちには何が有るの?」
進行方向からは外れた道を指差す。
「小部屋ね。
行き止まり」
「ふーん。
ちょっと覗いて良い?」
「カエデさんが待ってるわよ?」
「アイツは食ってれば時間潰せるから」
「……市松さんを置いては行けないわ。
見たいなら一人で行ってきなさい。
すぐ戻ってくるのよ」
「りょ!
シロ、行くよ!」
行く手を遮る骸骨を撃ち倒し、通路の先の小部屋へと。
何も無いと言われてもなんとなくマップは埋めておきたいのだ。
すぐに、小部屋へと行き着いた。
祭壇があった部屋より随分と小さく、何も置かれていない。
何も無い……いや! 壁の一部が崩れている。
採掘ポイント……ではない。
表面を全体的に薄く削ったような……。
何故か気になった私はその壁を丹念に観察する。
「……絵?」
削られていない壁にわずかに残った痕跡。
色あせたインクの痕。
でも全体像は壊されていてわからない。
変な落書きをされたから……消した?
そんな訳ない。
遺跡の壁画と言えば、なんかすごい価値があるはずだ。考古学的に。
それともあれか?
この先に隠し部屋があるのか?
『クロちゃん、市松。
ちょっと来てくれる?』
ここで穴を掘り出すと時間がかかる。
ひとまず二人と相談しよう。
「どうしたのよ?」
「ここ、見て」
程なくしてやってきた二人へ私が見つけた何かの痕跡を見せる。
「これが、何?」
「何だろうな? と思って」
「これだけ壊されていると何もわかりませんわね」
「見られたら不都合な何か……そんな物が描かれていた?」
「或いは、この先に何か隠されている。
だから壁を壊した」
「それは、無いんじゃない?」
「どうして?」
「それなら途中で諦めるのは不自然だもの」
「あ、そうか」
私なら、壁を削っただけでは諦めずどこまでも壁を掘り進めて行くだろう。
「つまり、壁画を壊したのか」
「何が書かれてたのかしらね」
「『最近の若者は』とか言う愚痴だったり」
「どの道、答えはわからないわ。
行きましょう」
「そだね」
「……直せないでしょうか?」
「ん?」
立ち去ろうとした、私とクロちゃんを市松が引き止める。
「直す?」
「ヨシノさんのスキルで」
「あー!」
気付かなかった!
出来るかな。
私は鉱石を一つ取り出し、それを左手に握りながら右手を壁へとかざす。
「リペア」
かざした手の先で光を放ち、崩れた石積みの壁が直っていく。
そしてあぶり出しの様にそこに描かれていた模様が浮かび上がる。
鉄鉱石一つで、ちょうど手の平と同じくらいの面積が修復された。
「文字?」
「象形文字の様な……」
「読めませんわね」
そこに描かれていた紋様を三人が顔を近づけ食い入るように見つめる。
「もっと直してみよう」
私は再び鉱石を取り出す
「待って」
だけれどクロちゃんから静止がかかった。
「何?」
「読めないのなら、直しても意味ないわ。
むしろ、このままにしておくべきよ」
「でも、何が書いてあるか気になるじゃん」
「順序の話。
読めるようになってから直すのよ。
今直しちゃうと、他の誰かに見られないとも限らないでしょ?」
「あ、なるほど」
「一回、街へ戻りましょう。カエデさんも待っていることだし」
クロちゃんは抜け目がないなぁ。
そして、市松は意外な所に良く気付く。
この二人が仲間で良かった。




