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40.一人だけ逃げようとか許されない

「遅かったじゃん」

「ごめんごめん」

「これ、一時間一人だと暇だな」

「そうね。時間は有効的に使うべきよ。

 無意味な突撃はやめましょう」


 次はクロちゃんの番なのだが、当の本人がそんな事を言い出した。


「いやいや。

 敵の姿を確認するのは大事だよ。

 勝たないといけないんだから」

「それはそうだけれど……」

「ははーん。怖いんだな?

 しょうがないな。一緒に行ってやるよ」


 と、カエデが優しく言うけれど、どう見てもその顔は煽ってるよね?


「怖くなんかないわよ!

 良いわ! 行くわよ!

 市松さん、服お願い!」

「はい。かしこまりました」

「私、その間にスキル見てくる」

「あ、アタシも行くよ」


 ◆


「で、何してたの? 一時間」

「カフェに行って、定食屋に行って、屋台に寄って……」

「食ってばっかりかよ」


 予想はしてたけど。


「だって、ステータス異常で外に行けないし」


 まあ、そりゃそうだ。


 などと話しているうちにスキル屋に到着。

 カエデはシロと外で待っているとのこと。


 私はスキルリストの中から考古学を選んで購入。

 考古学とか全然興味無いのに。

 と言うか、このスキルに限らず効果が謎なスキルがいくつかあるのよね。

 これで文字が読めるのと良いけれど。

 古代人の愚痴が書かれて無いことを祈る。


「お待たせ。あ、また食ってる」

「いや、シロが欲しそうだったからさ」

「シロを悪者にするな。うまい?」


 尻尾をパタパタと振って答えるワンコ。

 しゃがんでその背を撫でる。

 今度、ブラシを買ってブラッシングをしよう。

 死に戻った時にでも。


 ◆


「ただいま」

「おかえりなさい」

「お、かわいいじゃん」

「……あまりジロジロ見ないでくれる?」


 シーツ一枚が市松の手でワンピースに変わる。

 すごい。

 胸の上でねじって巻いてボリュームを出しているのがかわいい。

 でも、クロちゃんは腕組みをしている。


「その腕どかしてよく見せてよ」

「嫌よ」


 なんでさ。


「いいじゃん。減るもんじゃなし」

「セクハラよ?」


 クロちゃんは、腕組みをしているのではなく、まるで胸を抑えるように隠しているみたい。

 ははん?


「……クロちゃん。胸が無いなんて誰も気にしないよ?」

「そんな事! 気にしてないわよ!!」


 おおう、図星だったか。

 顔を真赤にして怒鳴り返されてしまった。


「大体、アバターにバストなんて邪魔な飾り以外の何物でも無いじゃない」

「にしても、真っ平らすぎないか?」

「平らじゃない! 出てる! ちゃんと!」

「まあ、所詮はアバターですものね。動きやすい方が良いですわよね」

「そう考えてたのに、市松さんに言われると、とても惨めなのは何故?」

「わかる」

「なんですの?」


 市松というか、西七辻お嬢様は現実でも豊かな胸をお持ちだからなぁ。


 ◆


 修復した壁から浮かび上がった物は血を流し横たわる人々と、それらを見下ろす巨大な牛頭の獣人。

 そして、物語の一節。


 そう。

 ここに描かれているのは物語の一節なのだ。

 他にもありそう。

 おそらく続きが。


 修理と考古学スキルのおかげで蘇った壁画から情報を得ることは出来た。

 でも、この情報が有益なのはまだわからない。


「さ、クロちゃんが寂しがってるから急いで戻ろう」


 ここから頑張って一時間。

 侍カエデが張り切ってるからもう少し早いかな。

 その前に、復元した壁画を壊さないと。

 他の誰かに見られる前に。

 私はピッケルを壁へと打ち付ける。


 ◆


 壁を壊し、急いで戻って一時間。


「よし。

 全員が餌食になった所で作戦を練り直そう!」


 出来ればロビーが良かったのだけれど、カエデが何か食べたいと言い、それにシロも呼べないからレストランの個室になった。


「壁画は多分まだありますわよね。

 それを皆さんで探すのが良いのでは?」


 市松がもなかを食べながら提案。

 和菓子、好きなのかな。


「いえ。

 グアンナの攻略、行動パターンの分析と突破の糸口を探した方が良いわ。

 例えば、召喚は出来るのか、とか」


 私を見ながらそう言ったのはクロちゃん。

 食べているのはコーンフレーク。

 コーンフレーク?

 なんで?


「召喚は試してないね。

 でも、試さないよ?」

「え、どうして?」

「シロを殺される為に呼び出すなんて出来ないよ」

「え、そんな理由?」

「そんな?

 ちょっと、シロ。こっちおいで」


 カエデの足元で肉を分けてもらっていたシロを呼んで抱きかかえる。

 顔をクロちゃんの方に向け。


「こんなに可愛いシロに死ねと?」

「え、いや……」

「ほら、シロ。つぶらな瞳で見つめるんだ」


 抱えられたまま小さく首を傾げるワンコ。


「うう……」

「クロアゲハさんの負けですわね」

「よし。勝った!」

「何の勝負なのよ。

 でも、わんちゃんを犬死にさせる訳にはいかないわね。確かに」

「犬だけにか?」


 カエデがニヤリと笑う。


「流してくれないかしら? 自分でも言った後にしまったと思ったんだから」

「……ああ、犬と犬」


 ぼんと手を合わせる市松。


「気付くの遅いわよ。それに、わざわざ繰り返さなくてもいいのよ」


 恥ずかしいのがスプーンをコーンフレークに何度も突き立てるクロちゃん。


「あのさ、クロちゃん」

「何?」

「シロは狼だからね?」

「どう見ても柴犬じゃない!」


 私も本当は犬じゃないかと思ってるんだけど、狼なのよね。


「カエデの意見は?」

「アタシ?

 あの牛をぶん殴りたい」


 聞くまでも無かった。


「じゃ、クロちゃんとカエデがグアンナに挑む。

 その間、私と市松で壁画を探す。

 それでどう?」

「それでいいわ」

「異議なし」

「よろしくおねがいします」


 出口は見えないけれど、それでも着実に前に進んでいる。

 みんなの顔を見ると自然とそう思えた。


 ◆


 カエデとクロちゃんがグアンナに挑み、三分経たず返り討ちとされる一方で、私と市松は二つ壁画を見つけた。


 対グアンナへ具体策のないまま時間だけが過ぎていく。

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