26.2つ目の街、到着
神官チックな格好の市松は、我々の期待を裏切る事なく回復魔法の使い手だった。
いや、それだけではなく。
「ほらほらほら、ですわ!」
ネットの情報通り、廃遺跡の奥に居たのは【アイアンラット】。
全長五メートル近い巨大なネズミ。
その体は石の様に、歯は鉄の様に硬いと言う。
へっぽこな私の矢なんて、刺さりもしない。
補助魔法で皆をサポートする傍ら、その動きを観察してにわか司令塔として指示を出すのみ。
「市松! 飛び上がる。
離れて!」
メイスをネズミのわき腹に振り下ろした市松がはっとした様に大きくバックステップ。
直後、アイアンラットはその巨体を垂直に跳ね上げる。
長い尻尾をしならせ地面スレスレを刈り、人の腕程もあるその先端がカエデへと迫る。
「カエデ、避けて!」
だが、カエデは退がらず逆に一歩踏み込んで行く。
「はあっ!」
短く発し、刀を袈裟斬りに振り下ろすカエデ。
アイアンネズミの悲鳴と共に、斬り飛ばされた尻尾の先が粒子となり消えていく。
垂直に飛んだネズミ本体の落下点であるその場所から素早く移動するカエデ。
それと入れ替わる様に走り込むシロ。
落ちてきたネズミの鼻先をカチあげる様にジャンプし体当たり。
縦に半回転し、背中から着地したネズミの腹へ振り下ろされる市松のメイス。
それは、ただひたすらに殴りつけているだけ。
そもそも近接向きの職業では無いので与えるダメージが少ないらしい。
でも、そんな事はお構いなしとばかりにメイスを叩きつける。何度も何度も。笑顔で。ドエス。
なんか嫌な事でもあったのかな?
そうだよね。
そうに違いない。
結果、市松と言う回復手段を得た私達は、私と言う役立たずを引き連れながらもボス討伐を果たし、次の街へとたどり着くのだった。
カエデが大量に買ったスキルのお陰かほとんど被弾しなかったので、市松が居なくてもたどり着けた様な気がしないでもない。
と言うか、清楚で上品なクラスメイトに真逆の顔を見せつけられた私は心の整理がついてなかったりする。
◆
2つ目の街『ヒノトウシ』。
最初の街、『キノエネ』と同じく入り口には大きな鳥居。
その鳥居をくぐり抜け、大勢の人が出てきた。
私達は、通りから一歩外れその行列を見送る。
「大名行列?」
「全員、プレイヤーですわね」
「そうなの?」
「こんなに?」
私とカエデはコンタクト設定を制限しているのでNPCの集団にしか見えない。
「どこ行くんだろう?」
「何人居るんだろう?」
「ざっと……二百人ほどでしょうか」
「うわぁ」
「そんなに居たんだ」
「結構居ますよ?」
「私達、コンタクト制限しちゃってるし」
「あら、そうなのですか。
私も一番はじめは友人に会うために利用しましたけれど、今は使っておりませんの」
「利点が感じられないんだよね」
「あら。
見ず知らずの方との交流も、楽しみのひとつではありません?」
「ヨシノの格好を見て、交流を持とうと思うのはヤバい輩だと思う」
「泣くよ?」
はっきり言うなよ。
こんな半裸が街を歩いてたら、普通は白い目で見てみぬ振りをするか、それとも下心バリバリで近づいてくるかの二択なのは自覚しているんだから。
「……?」
だけど、横で市松が顎に手を当て小首を傾げる。
「その格好、何かポリシーがあってなさっているのではないのですか?」
いやいやいや。
「この半裸にポリシー?」
「半裸言うな」
「今年のパリコレで発表された、ピエイラのオマージュかと思っておりましたわ」
わお。
図らずして時代の最先端を取り入れていたわけね。
流石、私。
「でも、あちらはもう少し胸の紐の位置が下でしたわね」
いや、それ、丸出しじゃん?
時代の最先端ってわからないわ。
「……服、着るか」
「改めて決意する事じゃないだろ」
「そのままでも素敵だと思いますわ」
……市松はどこまで本気なんだろう?
我々の前を通り過ぎる一団を見送りながらそんな無駄話。
いいもん。
私だって、今通り過ぎた人みたいに白くてカッコいい鎧とか買ってやるんだから。
◆
「何か、どっと疲れた。
悪いけど、アタシは今日はもうリタイアさせてもらう」
街に入るなりそう言ってカエデは早々に宿へ引っ込んで行ってしまった。
「どうしたんだろう?」
「急にスキルを沢山買ったからではないでしょうか?」
「そうなの?」
「まれに、そう言う症状が出るらしいですわ。
フルダイブ頭痛と言われてますわね」
「えっ。大丈夫かな」
「大抵は一晩寝れば治るそうですわ」
「ふーん」
「ヨシノさんは、どういたしますの?」
「まずは武器屋かなぁ」
「わたくしもご一緒しても?」
「もちろん!」




