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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の四三 想うが故に

「………トロ? トロだよね?」

「───」


 見知った相手、というには関係性の近すぎる相手が俺の目の前にいる。

 奏が何故こんな夜遅くに外へ出ているんだ………?

 潜入した美術館は区域で言えば綿貫邸の近くとは言い難く、しかも服装は普段とは違ってシックな雰囲気だ。

 何か並々ならぬ空気を感じ取り、これから俺はどのように振る舞うべきか考える。

 奏に何故ここにいるのかを聞いてもいいが、そうすると俺がここにいる理由も当然聞かれるはずだ。

 自分が答えられないのに同じ質問を一方的にするのは、狡いのではないか。

 他の相手ならまだしも、奏相手にそういうことはしたくないし、そもそもそんな質問をしたなら目の前の全身をスーツでぴっちりと覆った謎の男は貴女の契約相手ですよ、と教えているようなものだ。

 ………いや、今の俺は奏の契約妖怪であるだけでなく《宝石団》の一員なのだから、トットーを見ていないか聞くべきだ。


「奏、このあたりを背丈の低い、仮面をつけた女、若しくは燃える体毛の小動物を見なかったか?」

「みてないけど。それよりトロ、なんでこんな遅くにそとでてるの? なにそのかっこ?」

「………すまない、それには答えられない。奏のためなんだ」

「っ、なに、それぇ………!」


 本当に申し訳ないと思っているが、奏に余計な迷惑をかけるかもしれない。

 奏は眉を顰めて見るからに不機嫌そうになっているが、それなら俺だって物申したいことがある。


「奏こそこんな時間にこんな河川敷に何でいるんだ? 服だってパジャマとも普段着とも違う、隠し事でもしてるのか?」

「それは、っ」

「なんだ、奏だって言えないんじゃないか」

「~~~っ!」


 怒り心頭、という言葉がそっくりそのまま当てはまるかのような形相を見せる。

 いや、奏は俺に聞いてくるのに、奏自身は俺の質問には答えない、というのは狡いと思いはしたし、真摯じゃないだろうと感じてしまったのは確かだ。

 でもそれはお互い様だし、何より事情がある上奏の為だとはいえ、俺が先に失礼なことをした。

 それなのに非常に感じ悪い言い方をしてしまった、奏がそっぽを向いてしまったのも、冷静になればわかった。

 すぐさま謝ろうとして。


「ごめ………」

(クリスタル? 彼奴は見つかったかしら?)


 耳元の無線からアメジスト先輩の声が耳に届く。

 今は任務中、突然のアクシデントが続いてしまったため取り乱したが、人探しの最中だ。

 しかしあれからかなり時間が経ってしまった、いくらルビーさんに殴り飛ばされたとはいえ、釈迦の涙を破壊しない様に手心が加えられていた筈だから全く動けないということはないだろう。

 その状況で付近にいた奏の目撃情報を参考にするなら、既にかなり遠くへ行ってしまっている可能性が高い。


(いや、ごめん、申し訳ない。良いわけじゃないが予想外の事態があって。それに目撃情報を得たけど、それを参考にするともう近くには居ないと思う)

(申し訳ないでござる、何分闖入者だった故、GPSを付けるよう指示するのを忘れてしまい………拙者の仕事はナビゲートとサポートなのに)

(いや、それはこの際仕方がないだろう。それに釈迦の涙を盗んでいったのが例の盗人なら、返しに来るのだろう?)

(マ、そん時に事情を話すなり拘束するなりしテ、オレ達が奪い返せばいい話ではあるしナァ。てなわけだかラ、クリスタル、一旦美術館まで戻レ、待ち伏せに作戦を切り替えル)


 口々にメンバーが励ましてくれ、ボスのビズが作戦の方向性を修正する。

 流石は対象の感情や気分の動きがわかるビズ、こういった際に動揺を鎮める術に長けているのだろう。

 新しい方針は合理的だし俺も異論はない、となれば俺はその指示に従って、早期の返却に備えて早急に引き返すべきなのだが。


「ふん」


 目の前でへそを曲げている彼女を放っても置けない。

 ………仕方ない。


「すまん奏、もう行かなきゃ」

「えっ、はなしはまだ終わってな」

「帰ったら聞く!」

「ちょっと!」


 振り返り、駆け出す。

 背中に制止の声が掛かるが、今は早く戻るべきだ、少なくともかなり重く深い話になるから、腰を据える必要がある。

 家で二人で落ち着ける場所で仕切り直すべきだ、という判断だった。

 草を掻き分け、コンクリートを踏みしめ、電柱を足掛かりに美術館周辺まで戻っていく。

 指定された場所に向かうと、美術館周辺の路地裏にルビーさんとアメジスト先輩が控えていた。


「戻ったわね」

「………はい」

「そう気を落とすな。お前の働きは完璧だった、追跡が叶わなかったのは自覚している通りエメラルドが悪い」

(そうでござるそうでござる、クリスタル殿は凄かったでござるよ、本当に!)

(兎も角オマエラ、一旦彼奴が戻るまでゆっくりしとケ)


 励ましを掛けてくれる仲間たちにはにかみ笑いで返すが、気を落としているように見えたならそれは別の原因だ。

 勿論自分の仕事ぶりを誇っているわけではないが、それ以上に奏と出会ってしまったこと、謝らなければいけないのにそのまま放り出して走ってきてしまったことが気にかかって仕方がない。

 ………その後、待ち続けたものの結局トットーは現れず解散となるまで、頭の中の大部分をその心配が占め続けた。




 着替えをして、今日の自分の動きを反省しながら、ひっそりと静まった綿貫邸まで舞い戻った。

 田光さんの協力の下で庭園へと入り、綿貫邸の中に内在する奏の暮らす家の玄関に立った。

 息を整えるため、一つ深呼吸。

 そうして洗いざらい話す覚悟を決め、玄関の戸に手を掛けた。


「………ただいまー………」


 外から見ている限りだと真っ暗で明かりは点いていなかったが、取り敢えず玄関の時点では見かけ通り真っ暗であった。

 靴を脱いで仕舞ったが、見ると先程奏が履いていた靴が奥にあった。

 服装と同じくシックな雰囲気のソレで、似合ってはいたのだがどうにも単に見慣れていない故に違和感はあった。


「………奏って何なんだろう」


 決して悪い意味で言っている訳ではない。

 ただ、俺から見えている奏の像は、果たして実像なのか否か分からなくなてしまった。

 見た目だけでない、目の前で隠し事をしている素振りをされてしまっては、嫌が応にも不安は募る。

 不安を抱きやすい俺はそれを知っているからこそ、奏でも同じなのかもしれない、と想像するのも容易い。

 ………だから俺は正直でいようと思っていたのに、奏の為と嘯いて、結局は俺の気持ち自体にも蓋をしていたのかもしれないな。


「………謝らないと、な。あと話さないと」


 考え事をしながら寝支度を整え、気が付くと布団に入っていた。

 天井を見上げ、初めて奏に家に入れてもらった時のことを思い出す。

 ………初心に帰らないとな。




 そう思っていたのに。


「………」

「───」


 それから俺と奏の間には、驚くほど口数が少なくなってしまった。

 俺から話しかけようとしたこともあったが、奏は文化祭の準備が佳境に入ってきているため出発は早く帰りは遅い。

 そのため家にいる間、基本的にずっと何かしら動いていて、食事も済ませると同時に食器を片付けて自室へと戻ったりクラスの人と通話会議を始めてしまう。

 俺と奏は契約しているのだから念話で思いを伝えることも可能ではあるのだが、こういったことは面と向かって話すべきだろう。

 訓練に向かうたびに師匠たちに相談をしているのだが、その都度早く謝れ、話し合えと言われるばかり。

 《宝石団》にも見つかってしまったと話したため、その役割と先日の作戦について話す権利は与えられている。

 そう悩んでいながら切り出すに切り出せないまま、一週間が過ぎようとしていた。


「………これ」

「あ」


 そんな日、朝食の後に奏が机の上に一片の紙を置いた。

 文脈を汲み取るに、俺へのメッセージだろうか。

 手に取って見ると、そこには今日の午後、奏の学校に来るようにという指示が書かれていた。

 一瞬何のことか理解が追い付かず、片付けるべき食器を置きっぱなしにして暫く考え込んでしまった………が、一つの可能性に思い至る。


「【ベストパートナーコンテスト】」


 確か毎年行われるコンテスト、カップルや契約妖怪と契約主のコンビ等の一心同体さを競い合う催しらしい。

 恐らくそのリハーサルが行われるのだろう。

 ………この状態でそんなコンテストに出るとか、大丈夫なのだろうか。


「はぁ」


 不安と焦りと重圧感、その他諸々を口から一斉に吐き出そうとため息を吐くが、胸がすくことはない。

 まぁ出ること自体はいい、奏が出場を決めたのに俺が足を引っ張ってしまう方が嫌だ。

 一週間悩ませ続けの頭に更に悩みの種を一つ加え、何はともあれ食器を洗い、身支度を整えて訓練に向かった。

 今日は初めてサミハに師事を請う日、〈妖技場〉のトップツーである故に忙しく、中々都合を合わせられないらしい。

 だから一回一回を大切に訓練していかなければ。

 気を引き締めるために、靴ひもを結んだ後に顔を平手で打ち、玄関から外へ出た。


「───全く。お二人とも子供ですね」


 閉めた扉から声が響き渡った気がした。

<>(^・.・^)<ギスり散らかしてますねぇ


<>(^・.・^)<このあとどうなっちゃうのやら

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