其の四四 アドバイザーズ
<>(^・.・^)<明日もこのくらいの時間に〜!
「───ふーん、下らねぇことで頭使ってんなぁ」
「手厳しいが過ぎませんか?」
焔の妖術の扱い方の軽いレクチャーを受け〈妖技場〉の空き舞台を借り切って直接戦闘を重ねまくる、というサミハのスパルタ特訓を乗り越え、クールダウン中に奏との諸々を相談した。
最初は「あんときべそかいてたお嬢ちゃんか」くらいの認識で軽く話を聞こう、というくらいだったが、次第に喧嘩をしたという件になり、表情が変わりつつあった。
そして聞き終わっての一言目がこれであった。
「見た感じじゃ仲よさそーだったじゃねぇか。それがなんだっていきなり喧嘩なんてしてんだぁ?」
「返す言葉もないですけど、そこまで言うならアドバイスくれてもいいじゃないすか」
「んなこと言われてもなー」
スポーツ飲料を喉に流し込みながらしゃがみ込む俺の隣で、日差しを一身に受け首にタオルをかけたサミハが吐き捨てるように言う。
喧嘩が嫌いなのか、単に俺の態度、或いは俺の戦闘スキルが合格点に足りないのかは分からないが、あからさまに不機嫌だ。
この人は確かに隠し事をするタイプではないから今回の喧嘩の原因は作らないだろうし、感情が見えやすいから隠し事にそもそも向いてないと思う。
だったら何かアドバイスをくれないか、と思い言葉を返したのだが。
「アタシも昔はよくシンミちゃんと喧嘩したけど、最近は全然んなことねーし」
「あー、姉妹喧嘩ってことっすか」
「そー。プリンを食べたとか食べてないとか、録画消したとか消してないとか、漫画どっかに持ってったとか持ってってないとかなー」
「ごく一般的な喧嘩のもとだ………」
微笑ましさすらある。
そういうテーマになると、言い方は悪いが俺の置かれた状況と比べたら聊かスケールが小さいような気もする。
だからといって見下している訳ではないんだが。
「じゃあそういうとき、どうやって仲直りしてたんです?」
「覚えてねーよ、んな昔の話」
「それもそうですか………」
「そもそも進んで仲直りしたかどうかすら怪しーぞ。ガキの頃とか気付いたら仲直ってる、なんてザラだろ」
確かに、それはなんとなく想像がつく。
子供は案外根に持つが、雨降って地固まるがごとく喧嘩を繰り返すのが最早正常とまで言える。
もう絶交、口も利かないと決意したものの、次の日学校の帰りに一緒に遊んだり、同じおやつを食べたりしたら案外するりと元鞘に納まるものだ。
「アタシは仲直りの方法とかわかんねーけどよ、まー強いて言うなら一緒に飯食うとかか?」
「あ、それ毎日してますね」
「………じゃーメールで話したいって言うとか」
「一応念話は出来るんですけど、なんか返事なくて」
「………………んじゃ何か贈り物するとか」
「それも考えたんですが、一大財閥の令嬢相手に何を贈ればいいのやら………」
自分で答えながら、状況的に詰んでいないか、と苦笑いがこみ上げてくる。
ペットボトルのスポーツ飲料をあおって全て飲み干し、空になったソレを鞄の近くに置く。
クールダウンが終わったため、これから俺はもう着替えをして荷物を纏め、奏の学校に向かうことになるのだが。
傍らで仁王立ちしているサミハは動こうとしない。
「サミハ?」
「───残念だが、アタシが少年に闘い教えんの、今日限りかもな」
「え」
日差しのある舞台から踵を返し、入場口の方へと戻っていくサミハ。
立ち上がって背中を追いかける。
「ちょっ、どういうことですか!? 忙しいけど都合作って面倒見てくれるって」
「言ったけどな。そりゃあんときの少年を見ての判断だ。今の少年は逃げ腰過ぎてつまんねー」
「なっ」
「少年が自分と向き合ったら、もっかい様子見てやっからそれまで頑張れ。あー、一応言っとくとやっぱスジはいいぜ」
一瞬だけ足を止め、それから吐き捨てるように言って手をひらひらと振りながら通路の奥へと去っていった。
向こうは女子更衣室に繋がっている、俺は追いかけることが出来ずにその場で立ち尽くした。
自分が悪いのは自覚していた、のだが。
ここまで明け透けに直接、刺すような物言いで言われると心に来る。
疲れと脱力感からか足腰の張りが消え、思わず腰を下ろしてそのまま仰向けになった。
初夏の日差しが目に痛んで仕方がない、手に持つタオルで目を覆った。
「………何なんだ、俺」
やるせない思いが向かう先は自分の存在価値。
先日のサミハ相手にも勝てない上、《宝石団》の任務も碌にこなせず、契約相手であり命の恩人とも言える奏に対して隠し事をしたかと思えば、どう考えても俺が悪いのに詰るような言い方までしてしまう。
「はぁ」
澄み渡る空と吹き抜ける疾風とは裏腹に、いつまでも心の奥で何かが腐敗していた。
それから数十分が経ち、気が付くと俺は〈妖技場〉スタッフに声をかけられた。
既に申請された時間を超過しているのに、記録されている人数が退出していないため様子を見に来たら、俺が仰向けになっていたわけだ。
暫く何も考えずにいたら軽く眠りに落ちていたのか、記憶が殆どない。
いくら何でも約束まで反故にするのは倫理から外れている、早く向かわねば。
「よい、しょ」
着替えを済ませ鞄を背負い、〈妖技場〉を後にした。
歩きながら、今度こそ奏に謝ろうと決意する。
サミハに焚き付けられたから、だけではなく俺がそうするべきだと思ったから。
四の五の言ってないで素直に言ってしまえばいい。
頭では理解しているのだけれども、いざ対面すると。
「あ………」
「ん」
言葉を口にしようとした瞬間に、届けるべき相手は振り返って校門の向こうへ行ってしまう。
顎で向かう先を示しながら、こちらの様子を顧みることもない。
普段の奏だったら前にも後ろにも立たず、横にいたはずなのに。
寂しさと悔しさと、そうまでそっちが強情なら付き合ってやろう、という憤りがないまぜになって、どういう顔をすればいいのか分からない。
とはいえ学校の入り口で突っ立っているわけにもいかない、周りの視線を気にしながら敷地へと入った。
「おぉ………」
活気にむせ返る雰囲気を受けて、思わず感嘆が心から漏れた。
材料らしきダンボールを運ぶ男子生徒、ダンスの振り付けを練習している女子生徒、それらを横目に練習に励む部活動。
各所から木材を切る音、ペンキの匂いも感じられ、部外者である俺も心がやや弾む。
珍しい景色の連続で辺りを見回しながら歩いていると、前方を通っている奏が立ち止まった。
「うおっ」
「あ、おにーさん!」
装飾でおしゃれになった体育館の中では様々な生徒がステージのリハーサルを行っていた。
ステージだけでなく音響機材も体育館内に効果的に配置されているようで、音楽を流したりマイクで喋ったりしてチェックしている。
そんな中、委員会の腕章を付けたつるちゃんが駆け寄ってきた。
駆けてきた方を見ると、先程まで学内では滅多に見なかった妖怪が幾つもいる。
「あ、ちょっと待っててくださ~い! おにーさん、ちょっと」
「?」
「? 何だ」
既に待機していた参加者たちに一言断って、つるちゃんが俺の腕を取る。
奏も不思議そうな顔をしているし俺だけを連れていくという事は、これからの段取りについての話ではないことは確かだ。
体育館の端から外へ出て、中庭との接点のあたりに連れられた。
「………ふう」
「え、何なんだ? 俺つるちゃんに何かしたか?」
雰囲気から重々しいものを感じ取って思わず確認した。
体育館特有の横にスライドする扉をガチャンと閉め、つるちゃんが瞳を光らせ、重厚な声で俺に言った。
「奏っち、表情暗かったっすよ? アタシ言ったっすよね?」
「うん。それは俺が悪いと思ってる」
「ふ~ん………説明してくんないっすか? 答え次第じゃアタシ、おにーさんのこと許せないっすよ?」
確かに以前、奏を傷付けたら許さない、とつるちゃんは言っていた。
だから開き直るではないが、俺の知らない奏の側面を見ているつるちゃんを無碍には出来ないし、彼女の意見ならサミハのソレよりも受け入れやすい。
そうして、一部始終を語った。
「───何となく事情は分かったっすけど。でも正直、どっちもどっち、じゃないっすか………?」
「いや、多分俺が悪い」
「あ、一個アドバイスすると、女の子に対して多分俺が悪い、って言わない方がいいっすよ」
有益なアドバイスを貰ったが、正直意外だ。
てっきりつるちゃんは奏の肩を持つものだと思っていた。
それをこうして双方の意見をきっちり聞いているのだから、この子は結構優秀なのかもしれない。
「意外だな、つるちゃんは奏の味方かと」
「いや、基本はそうっすけどね? でもおにーさんも奏っちも、どっちも隠し事してたんすよね? だったらどっちもどっちっすよ」
「………そうか」
こういうふうにしっかり考えている相手なら、と思って相談をする。
「なぁ、どうやって仲直りすればいいかな。なるべく早く謝ろうとは思っているんだが」
「う~ん、まぁ謝るのも大事っすけど、誠意見せる流れじゃないと逆効果っすね。いきなり言い逃げみたいにされても狡いって思われるだけっすよ」
「じゃあどうすれば………」
頭を抱える俺に、つるちゃんが明るい調子で言った。
「そんなの簡単っすよ!【ベストパートナーコンテスト】優勝すれば、お互いがお互いを考えてるのを伝えあえるっす!」
「簡単に言うなぁ」
「………おにーさんならできるっすよね?」
「───任せろ」
<>(^・.・^)<今章、要するにそういうクライマックスです
<>(^・.・^)<(バトルよりはヒューマンドラマ的な)




