表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
79/247

其の三〇 微睡と共に去りぬ

※明日も更新します


<>(^・.・^)<前回決着って言ったのにしなかった?


<>(^・.・^)<ゴメンネ!()

「──────負けた」

「はぁ、はぁ」

『………あっ、しょ、勝者───』




 意識が覚醒しないまま、脳に響く声が聞こえた。


「………お前」

「ん? ………誰だ、でいいのか?」


 呼び掛ける声の方を見るが、そこには靄があるのみ。

 雰囲気としては、此方の世界に来る直前に出会ったイザナミさんに似ている。

 姿が見えない、という点に限らず、持っている雰囲気そのものが似ている、と言うべきか。

 言葉の調子は俺とよく似ていた。


「さっきの戦い、よかった。おれの目、狂い、ない」

「お、おう? よくわからんが、ありがとう、でいいのか? いや、そうじゃなくてお前は誰だよ」


 靄に褒められてもどうかとは思うが、決して悪い気はしない。

 そして質問に答える気はないようで、これまた話を変える。


「これからも、頑張れ。おれ、手伝う」

「それは有難いけど。結局お前は何者なんだよ」

「おーい。そろそろ戻らなきゃ」

「また別の奴が出てきたなぁ!?」

「………んなぁー、んなぁーぉ」


 靄の向こう側から、どこか柔らかめな印象を受ける声が届いた。

 猫の鳴き真似をして誤魔化そうとしているようだが、時すでに遅し過ぎる。

 その声を受けて、靄がすぅっと薄くなっていく。


「じゃあな。うまく、おれ使え」

「使え、って………お前まさか【透───」

「ちょ、ちょっと、はやくしないとまずいよ!」

「ああ」


 俺の呼びかけを遮るように、二人目の声が靄に語り掛けた。

 それを受けて靄は完全に消え、後に残されたのは手を伸ばした俺だけ。

 伸ばしているうちに気が付いたが、俺の手は半透明で半分色がない。

 それが既に答えを示しているような気がした。




「───! ───!」


 耳から声が入ってきているのがわかる。

 全身が怠さに包まれたまま、指の一本も動かせないまま横たわっていた。

 感覚が麻痺しているのか、散々[火炎神]に殴られ蹴られした跡は痛まない。

 力が加わりにくいとは感じるが、それでも痛くはなかった。

 たった一回の試合で溜まるには重すぎる疲れ、それでもそれで立ち止まるわけにはいかないと思い踏ん張って瞳を開いた。

 最後に瞳に焼き付いた太陽光と火炎に比べたら、あからさまに人工的な明かりを目にした。


「ん………ぁ」

「トロ!」


 太もものあたりに、知っている柔らかな温かみを感じる。

 背中に差し込まれたクッションを支えに上半身を起こして見やると、俺の契約相手がうつぶせになっていた。

 じんわりと湿った感触もする。


「奏」

「トロぉ」


 だめだ、どうやら俺以上に精神に来ていたらしい、顔が乱れて冷静に話が出来そうにない。

 安心させる意も込めて、応援を感謝する気持ちも込めて、片手で頭を撫でた。

 不意に声が掛かる。


「………あの」

「え、あ、はい」


 不機嫌そうな声色、思わず身構える。

 声の主は背の高い男性で、白衣に身を包んで前髪で目が見えない上に黒い紙マスクで顔を覆っているから、声以外に様子を伺う術がない。

 雰囲気からは妖怪だということが感じ取れたが、どういう妖怪なのかは分からなかった。

 白衣を着ていて傷ついた俺の傍にいたことから、〈妖技場〉専属医師とかそんなところだろうか。

 手にだらしなく持っていた紙をすっと差し出す。


「これ」

「あ、どうも」


 喋るのが苦手なのだろうか、と勝手に想像しつつ受け取って目を通す。

 内容としては、彼は予想通り〈妖技場〉の医師メンバーの一人で俺の治療を担当したこと、治療には妖力が必要だったが俺自身の妖力が枯渇していたため奏の妖力を借りたことなどが書いてあった。

 傷自体は存在しなくなったが、身体の中身は回復しきっていないから、今日一日は安静に、ということだ。

 一通り読み通したところで、感謝を伝えようとすると、彼はもう扉に手をかけていた。


「あの、ありがとうございました!」

「………ん」


 後ろ手に手をひらひら、とさせながら通路へ出ていった。

 コミュニケーションは難しいかもしれないけど、少なくとも悪い人ではなさそうだ。




 泣き疲れたろう奏はそのまま眠っていた。

 これでは学校に戻って学園祭の準備を手伝うのは無理かもしれないな、と撫でながら思う。

 その手に残る【透鳳凰】の柄の感触を思い起こすが、振り抜いたその後の記憶は殆ど残っていない。

 限界まで身体と妖力を使い切った俺は、【透鳳凰】を握ったまま落ちていった。

 水に落ちたのか、草の間に倒れ込んだのかすら分からない。

 ≪斬時雨≫≪絶刀・火輪裂き≫が当たったのか当たってないのか、当たったとして[火炎神]がダウンしたのかしていないのかも、何も分からない。

 そうしているうちに数人分の足音が響き渡る。


「あぁ、ビズ、ドメ、黒原に………プロメテウス、か?」


 見慣れた顔ぶれに並ぶ、赤色を基調にした髪の女性の姿。

 片手を軽く上げて此方に白い歯を見せてきているが、〈妖技場〉の舞台の仕様上、自分の記憶に自信が持てない。

 この爽やかな雰囲気はついさっきまで戦っていた相手で間違いないはずだし、何処かで見た記憶がある。

 というか、ここまで様子が近いと流石に確信が持てる。


「よぉ、まぁた会ったなぁ」

「あぁ、やっぱり。あのときの」

「なーなー、で、シンミちゃんとはあの後どうなってんー?」

「だからそういうのじゃないんですって………」


 シンミにやたらと距離感近めに接していた、あの女性と同じ人物だ。

 色恋に持ってこようとするのが面倒だったから、できれば日常で関わりたくないな、と思っていたのに、こんなところで出会ってしまうとは。

 ………よく考えれば、あの時もルーキーを探しに来た、みたいなことを言っていたようないなかったような。

 だったらあの時点で気付いてもよかったのかも、とは思うが流石にそこまで察する力は俺にはない。

 あと、普通に喋るときは語尾を若干伸ばす癖があるんだな。


「えー、つまんねーのー」

「いやいや、俺には心に決めたフィアンセがいるんですから!」

「おねぇちゃん? 勝手にトロンおにいちゃんのマネしちゃだめだと思うよ?」

「え、嘘まじー!? なぁな、おっさんはなんか知らねーのかー!?」

「アー、まー知らねェこたァねェけどヨォ」

「………ちょっと静かにしてくれないか? 奏が起きる」


 わぁわぁ言っているところ悪いが、今日奏は朝早かったし眠そうだった。

 こういう時くらい、ゆっくり休ませてやってほしい。

 俺が言うと、今度はひそひそと話し始めた。

 どうあっても話題を変えるつもりはないらしい。


「なぁ、ところでお前の名前聞いてもいいか? 外でリングネームで呼び合うのも変だろう」

「んー? あー確かにな。アタシはサミハ、戦ってるとき言ったか? <ヒザマ>だよ」

「どうも。俺はトロン、<白九尾>」

「おう、まぁさっきドメから聞いたけどな」

「あっ」


 思わず両手で口を覆うドメの肩を掻き分けてきたサミハに手を差し伸べ、握手を交わした。

 思えば試合終了後の握手もしていなかった、礼儀を逸していたかな。


「あの、俺が無知なだけなんだけど。ヒザマ、ってどういう妖怪なんだ?」

「あー、まー知らねーよなー。ヒザマってのは沖縄のほうの妖怪で、火事を起こすって言われてる鳥だ。よくフェニックスって言われるけど、そんな大層なもんじゃねーよ」

「あっちにも〈妖技場〉あるんで、今度の遠征で行く機会があるかもですね! あっちの妖怪は全体的に本土のとは趣が違いますよ?」


 黒原の言葉に、そういえば〈妖技場〉は遠征があって、各地の舞台で闘技を披露する機会がある、という話を思い出した。

 沖縄、それに北海道あたりは独特の妖怪文化があると聞く、是非遠征の選手に選出されたいものだ。


「そういえば、俺は勝ったのか? 敗けたのか?」

「トロンさんは惜敗、って感じですかね? 超ジャンプの後は私には見えませんでしたけど、そこんとこサミハちゃんはどうです?」

「ギリギリで刀身叩いて逸らしたよ。あの位置からだと踏み込めねーだろーから奥へ避けたら、ふわっと近づいてくんだからたまげたぜ」


 そうか、敗けたか。

 悔しさはあれど、後悔はない、自分に出せる限りのことはやった。


「正直やられたかと思ったね。あーんな物騒なもんどこに隠してやがった? 妖術かなんかで引っ張ってきたんかー?」

「いや、それが俺にもよく………あ、そういえばあの後どこ行ったんだ?」

「あァ、知らねェのカ? あの後スタッフ総出で探しても見つからネー、備品でも私物でも問題だからどうしよウ、って大騒ぎだゾ」

「ぼくも一緒になって探したんですけどねぇ、あれだけ派手に動けば妖力のカスでも残ってておかしくないんですけど、文字通り影も形も………」

「ふむ………」


 【透鳳凰】があの場面で力を貸してくれた理由は、正直に言えばよく分からない。

 よっぽど切羽詰まった状況でもないと、俺に扱える代物ではないと思っていた。

 原始怪異という存在の得体の知れなさの片鱗を見た気がする、派手僧に情報提供した方がいいだろうか。


「取り敢えず、【透鳳凰】に関しちゃ心配しなくても大丈夫だろう」

「すきほうおう、ってあの刀の名前か? どんな業物だよありゃー、妖怪強化できる刀の鍛冶師なんて、オレぁ心当たり一個しかねーぞ」

「いや、その辺りはなんとも。貰い物だし」

「刀貰うっテ………どういう時代の話だヨ」

「そんなこと言ったって、貰ったものは貰ったんだから仕方ないだろ」


 ボリュームを抑えつつ話しているうちに、ふと足音がまた響いてきたのが狐の耳に聞こえる。

 先程来たこの集団が、ゆっくりと談笑しながら歩いてきた緩やかな足音だとすれば、今度は忙しく動く走る音。

 心なしか、二つの方向から同時に聞こえるような………?




「「お姉ちゃん(姐さん)ッ!?」」

「───静かに、して、くれ」


 黒髪の天狗と金髪の河童が扉の両隣から顔を出す。

 一拍遅れて天狗の後ろから青髪の雪女が顔だけひょっこりと見せてきた。

 ………ん?


「───()!?」

<>(^・.・^)<ここで明かされる真実

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ