其の二九 集大成
<>(^・.・^)<連続投稿最終話!
『さぁさぁいよいよバトルも大詰め! [M・F]の牙は[火炎神]まで届くのかぁ!?』
「ぶつけてこい! 受け止めて跳ね返してやらァ!」
「おぉおあぁっ!」
全力で、重くて速い踏み込みが人工的な芝生に沈む。
俺の出せる全開の全力で、打ち倒すべき相手へと突き進む。
奏といると心と体が安らぐことはある、師匠らといると緊張はしないで済む、他の人といると感情が揺り動かされることもある。
だが、これほどまでに高揚した気分で、醒め切った視界は初めてかもしれない。
対戦相手の気持ちいいまでの爽やかさ、レベルが違い過ぎて笑うしかないことや、一瞬にして体力を消耗してしまい重くなりつつある体、試合前に奏と交わした約束なんかが要因なのだろうか。
いずれにせよ俺が今わかるのは、俺が最高に乗ってるってことだ。
『うおぉぉぉ!? [M・F]、ココに来て素晴らしい加速! これは舞台の結界の効果がなければ我々見えなくなっちゃうぞぉ!?』
「いいねぇいーねぇ!」
「歯ぁ、食い縛って、ください、よ!」
観客の声援もまたフルスロットル、みなこの後の試合で声が枯れないといいのだけど。
風を使う妖術の都合上、一歩を大きく踏み出す走り方になってしまうから、方向転換はかなり難しい。
そして少しでも制御を間違えてしまえば体幹が大きく乱されて、[火炎神]に一撃喰らわせるどころの話ではなくなってしまう。
勿論試合開始からすぐの頃合いから、風の扱いには細心の注意を払っていたが、ここまで全力で風を用いて動作補助をするとなると、注力しているのは脚だけとはいえ格段にその難易度は跳ね上がる。
(………シンミ、お前の訓練すげぇ役に立ってるよ)
何時だかの、風で木の葉を浮かせ続ける特訓が鮮烈に印象に残っているが、それ以外にも当時の俺には理解はできない訓練ばかりだった。
最初の頃にシンミが俺を連れて空を飛んでくれた、アレが一つの原動力ともなって理解はできずとも全力で励んできた。
しかし今になってわかる、絶えず動き続ける物体に寄り添うように風を吹かせ続ける、その難しさと意義。
俺は本当に良い師匠を持ったみたいだ。
「オマエのその動き………ん? オマ、あ、いや」
「? 食い縛れ、って、言いました、よね!」
木々の陰に身を隠しながら前進して、もう一度踏ん張りを促し、俺は右腕でラリアットを繰り出す。
そのままの勢いで後ろの水たまりに叩き落す目算だ。
[火炎神]もそれを分かっているのか、煌々と燃える両の腕で傾いた十字架を首の前に構える。
先程受け止める、と宣言したからには俺の一撃を耐えるハラなのか、あるいはそれすらブラフにするのか。
直撃する直前に構えを解いて腕を掴んで捻じ伏せたり、姿勢を低くして通り過ぎた後に自由に料理したりと、色々と考えられる。
だが、この時点では少なくとも俺の策の方が優位だ。
「ふんっ!」
「! ぬ、あぁっ!?」
『[M・F]の腕が空を切ったかと思えば! その回転のまま回し蹴り、[火炎神]の足元を掬ったぁっ!』
一足一刀の間に到達しないくらいのタイミングで、見せつけていたラリアットの構えから態と拳に空を切らせた。
そのまま回転した勢いで右足を軸にし、左足の踵で[火炎神]の足を蹴り抜いた。
『歯を食いしばる』と言ったりラリアットの構えを見せたりと、この一撃を喰らわせるための根回しを丁寧に行った。
そして、軸足が必要な回し蹴りをするだけではどう足掻いても届かない間合いも、風の力を使って身体全体を押し出せば話は別。
届くはずのない間合いと、上段を匂わせる言動、観客の盛り上がりを高めるための受け止める宣言、この三つのうち一つが欠ければ[火炎神]相手でも通用しなかった筈だ。
………言ってしまえば、ここまでしてもこれ以降はまともに通用しないのだろう、観客の盛り上がりを含めて、良くも悪くもこの場限りの一手だ。
そしてふと思い出す、ついこの前行ったトイとの戦闘訓練。
あの時は俺がアイツの誘導に乗っかった形だった。
あれから自分でシミュレーションしたりトイに相手を揺さぶるコツを聞いたりしたのだ。
(トイとの一戦がなかったら、俺はここで択に負けてただろうな)
ここに来ているらしい二人目の師匠に向けて、心の中で感謝を伝える。
ぐらりと体勢を崩した[火炎神]の燃え盛る身体を両腕で抱え込んで、そのままの勢いで場外へと跳んでいく。
偶々か何らかの戦術があったのか、リングの外縁に近い場所でやり合っていたのが功を奏した、幸いにも程なくして水の湛えてある場外へと飛び込んだ。
ジュッ、という音がすると同時に一体となった水柱が立つ。
『こ、これはぁ! あの[火炎神]を水中へと引き摺り込んだぁ! もはや完全に[M・F]のペース、どういうルーキーだよコイツぅ!?』
歓喜と驚きがないまぜになった歓声が水中に鈍く響く。
当然俺のコスチュームには撥水機能があるが、髪の毛も尻尾も水を重く吸うから、しっかりと抱きついていれば沈んでいく。
トルフェ戦での仕込みをする余裕はないが、それでもこのスーツの御陰で狙ったことは出来そうだ。
俺は[火炎神]との接触面から氷を広げ、再び氷像を象っていく。
水中ともなれば、いくら[火炎神]と言えどもその炎の力は削がれる筈だ。
更に腕を腹部にキツく回して、飛び込む前から空気量を減らす意識もした。
現時点で暴れ出さないのが不気味だが、もし殴ったり蹴ったりして抜け出そうとしたら、先に息が尽きるのは恐らく向こうの方だ。
───その時、[火炎神]の身体が眩しく輝き出したかと思うと。
俺たちの周囲が一瞬にして膨張した、その次の瞬間。
暗く静まった水面が、重い音を立てて赤白く爆発した。
「ぐ、っつぁ」
『ぬおぉぉぉ! 結界越しでも感じるこの迫力、そして熱量! これが[火炎神]の本領発揮、戦神両翼の実力だぁっ!』
文字通り爆発的な温度上昇で、唐突に水蒸気と化した水分が困惑したまま雨となって降り注ぐ。
ギャラリーもまた、感嘆の吐息を漏らすもの、呆然として口を開くもの、興奮のあまり言葉が出てこないものに大別され、その時は〈妖技場〉が静寂に包まれていた。
俺の身体を這っていた氷も全て溶け、発生した波に揉まれるように水面に揺れる。
周りを見渡すと、何時の間にか[火炎神]の姿がなくなっていた。
焦りと驚愕を抱えつつ敵影を探している俺に、上空から声が掛かった。
「───いやいや、オマエ中々筋いいじゃねーか。肝、冷やしたぜ?」
向くと、背中から燃える一対の翼を生やした[火炎神]が、太陽の光を受けて照り輝いていた。
そうだ、考えてみれば[火炎神]は入場時に宙に浮かび上がった。
あれが演出ではなくて個人の能力だったとしたら、俺との戦いではそれをセーブしていたことになる。
此方が全力を出しても向こうはそうでもなかったと考え至り、悔しい気持ちと同時に、最早笑うしかないという気になってくる。
片手で後頭部を掻いている相手を睨めつけた。
「冷やすのは得意な方で。貴方は一緒には凍ってくれなかったみたいですけど」
「わぁるかったなぁ、付き合ってやれなくてよ。ルーキーにここまでやられちゃ負けても良かったんだけどよぉ、オマエそーゆーの嫌いだろ」
「───お気遣いどうも」
片手で日除けしながら、精一杯応答した。
ここで返事をしないのは、恐らく無礼に当たる。
黒原も観客も、依然として呆気に取られているのか、俺たちの問答に水を差すまいとしているのか、まだ何も口にしない。
炎翼をはためかせて上下に揺れながら、[火炎神]は胸の前で拳を突き合わせ、首を回す。
「んじゃま。せめて全力で叩き潰してやるよ」
「───我は<ヒザマ>[火炎神]。情熱の炎で覇道を照らすもの」
「───我は<白九尾>[M・F]。九つの尾で未来を掴み取るもの」
にやり、と。
俺も[火炎神]も、この爽やかで泥臭い戦いの締め括りに相応しい顔をしているはずだ。
[火炎神]は腕を大きく開き、その周囲からふつふつと炎が湧き上がるのが見て取れる。
やがてそれは増幅し、勢いを増し、輝きを募らせてゆく。
そのまま一対の手を胸の前に構え、此方に向けて銃口を定めた。
「手向けだ。≪炎帝・昇陽告げる火醒魅鳥≫」
太陽と見紛うがごとき閃光が視界を埋める。
防御しようにも、そもそも妖力が底を突きかけていた上に、俺の出力量では打ち勝ても逸らせもできないという確信があった。
先程の爆発まがいの蒸発を見せられた後では、最早これまで。
───右手に抜き身の刀が収まっていると気が付くまでは、本気でそう思っていた。
刀身が透き通るように美しく、柄の先端には水晶体が取り付けられている刀。
何あろう、【透鳳凰】が、何時の間にか俺の拳のうちに握られていたのだ。
迫り来る煮えたぎるような情熱を体現した炎の奔流、そして顔の大きさほどまでに体積を広げた水晶玉を淡く輝かせる【透鳳凰】。
───お前はそこで止まっていいのか? と聞かれた気がした。
考えている間はない。
俺自身は[火炎神]に返せる刃はないかもしれない。
何も確信はなく、失うものはないとはいえこれは博打に近い。
でも、俺はまだ諦められなかった。
最後まで戦い抜くと、奏に誓ったのだ、試合を放棄しての敗北だけは、やってはならなかった。
水上で、頭上から降る炎に発揮できる剣術など習得もせず、そもそも存在もせず。
故に、俺はただ振りかぶり。
「≪斬時雨≫、≪火輪裂き≫」
水晶が一層強く輝いた【透鳳凰】を振り抜いて霧散した火柱のその先に見えたのは、目を見開き此方を見据える[火炎神]。
右手で握ったままの【透鳳凰】を左腰に持ち、左手を軽く添える。
太陽の輝きとはまた違う、一瞬で燃え尽きる儚さを携えた水晶が、再び光り出す。
「───フウッ」
「な、に」
先程の爆発が、周囲を無差別に破壊するモノだったとすれば。
此度の爆発は噴射器の如く無駄のなく、<白九尾>を一匹宙に浮かせるには十分な推進力を生み出すものだった。
居合の姿勢で目前まで辿り着いた俺は、やや仰け反る[火炎神]に討神の一刀を見舞う。
予想不可能、対処不可能、回避不可能、制御不可能。
俺も[火炎神]も観客も、誰もが息を吞んだ。
「───≪斬時雨≫、≪絶刀・火輪裂き≫」
<>(^・.・^)<というわけで[火炎神]戦でした
<>(^・.・^)<真の結末はまた来週!




