其の一四 〈妖技場〉の怪物
<>(^・.・^)<お 待 た せ
俺がもと話したところ、途端にトイの目が薄くなった。
普段から眠そうな目をしているのに、数段凄みが増したように思われる。
「も、って………どう、いう、こ、と?」
「いや、この前にやってたシンミとの訓練が落ち着いたあたりで、そういう話になったんだ」
そこから、俺はシンミとの一幕をかいつまんで説明した。
俺が普段からシンミの服装を心配していたこと、そしてシンミの方から誘ってきたこと、さらに俺がそれを了承したこと。
突如として謎の女性が現れなあなあになったように思ったが、あの後シンミから念を押されたため、一方の都合が悪くならない限り、予定が流れる事態にはならなさそうだ。
「ふー、ん………」
「何、だ?」
事情を話しても一向にトイの瞳が和らぐことはなく、どころかやや唇が歪んできているような気がする。
時期としては夏服を仕入れるのにちょうどよいし、トイもまた新しい服か何かが欲しかったのだろうか。
………いや、こうなると、トイがシンミに嫉妬、あるいは羨んでいるのだろう。
それはわかるのだが、どうして、がわからない。
言ってはなんだが、シンミと俺が、彼女が運動に使うための服を調達に出かけるだけのこと。
「………なぁ。どうして不機嫌そうなんだ? トイも一緒に来るか………?」
「い、や。だったら、キミ、と、二人、で、いく」
「お、おぉ………そうか」
目をのぞき込もうとしても、トイはやや目線を逸らし、目を合わせてくれようとしない。
と思ったら、息を一つ吐いて瞼を閉じ、「弟子君、は、悪く、ない」と呟いてこちらを見てくれた。
「………ごめ、ん。ちょっ、と、大人気、なかった、ね」
「あぁ、いや………こっちこそ気を悪くしたのなら申し訳ない」
「謝ら、ない、で。話は、後で、シンミちゃん、に、聞、く」
「おおう。お手柔らかにしてやってくれ」
開き直ったように首をやや傾けてほほ笑むが、表情には(暗黒微笑)と付きそうだった。
シンミ、大丈夫かな………
「だったら、トイも一緒に来るか? 俺よりも女性のシンミがいた方がい」
「それと、これ、は、別」
「そうか?」
「そ、う。それ、に、シンミちゃん、と、は、服の、趣味、が合わな、い」
「あー………確かにな」
あまり見たことはないが、確かにそういう印象がある。
どことなく所謂ボーイッシュなイメージがあるというか、フェミニンなものを身にまとっている印象があまりない。
恐らく少年漫画が好きな彼女の性格からそういう好みだと推測できる、普段目にする巫女服は本来彼女の趣味とは合致しないくらいだろう。
それに対して、トイは普段からワンピースを着ているのをよく見る。
二人の好みは反対に近いようだし、トイによれば同時に買い物に行って意見が衝突し、結果所長こと西園寺さんに一任したこともあったらしい。
探偵事務所が仲良しという付属情報を得たところで。
「じゃあ、いつがいい? 今週末なら空いてるが」
「んー………また、考え、とく」
「了解」
これでとりあえずは安心だ………あ。
「………あー、今週末、とは言ったけど、俺〈妖技場〉に出ようと思ってるから、スケジュールは厳しいかもしれん」
「そう、な、の? 急、だ、ね?」
「実は───」
そこから俺は、俺が黒原に勧誘されるまでのあれこれを話した。
突然家まで押しかけてきた話をしたとき、トイの顔が先ほどとは違うような、呆れのような表情に移った。
それから、俺が今後の成長のために出ようかと思っていること、シンミには一度相談して背中を押されたことなど、関係していると思った事柄は全て話した。
「う、ん。わた、し、も賛成」
「そうか、ありがとう」
「今、弟子君、の、足りない、もの、が、少なく、と、も、一つ、わかる、はず」
「なるほどな、俺もそれを目的の一つにして頑張ってくるよ」
トイからも賛成をもらえ、何よりだ。
師匠二人からこう言ってもらえるのなら、きっと俺にとってプラスになるだろう。
しかし、今のトイの言動に一つ気になることが。
「なぁ、トイ。『少なくとも一つ』、ってどういうことだ? 何か心当たりがあるってことか?」
「あ、れ? 〈戦神両翼〉、知ら、な、い?」
「………〈戦神両翼〉? いや、知らないな」
「ん、っと、ね………一回、日陰、行かな、い?」
「あー、確かに。日差しそれなりにあるからな」
それから俺たちは大きめの木の陰に移動した。
春が中盤を過ぎ夏に近付いてきたこの頃、少しづつだが日中の日差しがきつくなってきている。
草がそこまで生い茂っていないところを選んで腰を下ろし、膝を抱えてトイは〈戦神両翼〉について話し始めた。
「〈戦神両翼〉、って、いう、の、は、この街の、〈妖技場〉、の、ツー、トッ、プ」
「ツートップ。というと妖怪の中でも強いヤツが集まる〈妖技場〉の中でも頂点に立つ二人、っていうことか」
「んー………まぁ、この街、の中の、はなし、だけ、ど、ね」
トイは誤解なきよう、と補足するが、それでも十分にすごい存在だと思う。
シンミやトイといった、俺よりも数段強い妖怪がいる街でトップを張る妖怪、それも二人。
勿論俺のように〈妖技場〉に出ていない妖怪はいるだろうし、全てを〈妖技場〉で測るのは間違っているとは思うが。
「すごいヤツがいるんだな………で、その〈戦神両翼〉と俺の弱点になんの関係があるんだ?」
「〈戦神両翼〉、の、右翼、が、〈プロメテウス〉って、いう、ん、だけ、ど。プロちゃん、は、炎の、妖怪、な、の」
「………! なるほど!」
そういうことか。
俺は今、シンミとトイという、それぞれ風と氷の上位互換に師事している。
それに対し、俺が〈白九尾〉として保有している妖術は高風、高氷、そして───高炎。
「その〈プロメテウス〉って奴と手合わせできれば、俺の炎の活かし方がもっとわかるかもしれない、ってことか!」
「そ、う。でも、ね。ちょっと、問題、が、あっ、て」
「問題?」
「う、ん。プロちゃん、ね………気に入った、子、としか、戦って、くれ、ない、の」
「………え?」
気に入った、子?
となるとなんだ? その〈プロメテウス〉に気に入られないと、弟子入りさせてもらえない、っていうことか?
………いや、よく考えれば当たり前だな。
シンミやトイが協力的過ぎただけで、師事を請う、っていうのは本来こういうことの筈だ。
なら、どうすれば気に入ってもらえるかを対策するまでだ。
「じゃあ、〈プロメテウス〉に気に入られるには、どうすればいいんだ?」
「ん-、と、ね。確か………強い子、って、言ってた、か、な?」
「それ、矛盾してないか?」
『気に入った子としか戦わない』、と言ってる癖に『気に入るのは強い子』、って………。
戦わないとそんなこと分からないだろうに。
「その、あたり、は、わかん、な、い………」
トイはどこかしゅんとした様子で下を向く。
決して彼女が悪いわけではないから、顔を上げるように促した。
「兎も角ありがとう。〈妖技場〉に出る決心もついたし、〈プロメテウス〉って奴に会いたくもなった」
「う、ん。どうい、たし、まし、て」
俺たちはしばらくそのままゆっくりした後、先程の模擬戦の感想戦に移った。
トイは、俺には攻め気が足りない、と話した。
曰く、自分の見た型に自分を沿わせようという意識が強すぎて、その場に応じた柔軟な動きができていないとのこと。
剣術に関してはこれからどう成長していくのか分からないし、トイ自身も指南できるほどではないと付け加えもしてくれたが。
それでも練習試合を受けてくれたのは感謝だし、トイが乗り越えるべき壁なのは変わらない。
同じ得物を使っておきながら決着時に損傷具合に差が出たという事実や息の荒さからするに、依然としてトイは俺よりも強いわけだからな。
………いつもお世話になっているわけだから、シンミも含め師匠たちには何か俺から形として感謝を送ろう、と心に決め、トイとの訓練も無事に終えた。
<>(^・.・^)<次回シーン転換入ります~
<>(^・.・^)<御意見、御感想お待ちしてます~