其の一五 兄弟姉妹の友達特有の最初の距離感掴みづらいヤツ
<>(^・.・^)<大体隔週ペースで行けそうな予感です
二人との訓練が終わった俺は、昨日の一件があったことから、奏の通う高校に来ていた。
あのような不測の事態を防ぐため、校外に出た時に守れるようにだ。
正直な話、奏から高校生活に関する話はあまり聞かない。
その為、大財閥の令嬢が通う高校ともなればさぞ大きい、お嬢様高校だろう、若しくはお嬢様と御曹司が通う由緒正しい名門校だろう、と考えていた。
俺のような中学生あがりの妖怪が気軽に来られない場所だとばかり思っていたのだが。
「………普通だ」
思わずその言葉が飛び出るほどには普通であった。
大きすぎずアーチなどが付いているわけでもない校門。
花壇はあるもののこちらも大きすぎず、学生たちが軍手や帽子をつけて手入れしている様子が見て取れる。
そして校舎も、趣あるほど歴史を積み重ねた、という雰囲気でもなく、最先端の建築技術が結集された、という風貌でもない。
「先生さよならー───」
「………イーチ、ニー、ファイオー!………」
「───この後どこ行く~?」
今俺は校門前で腕を組み壁に寄りかかって立っているわけだが、様々な生徒がめいめいに喋りながら出入りしたり、校庭で部活動に励む様子が耳から入ってくる。
言葉遣いも、所謂お嬢様言葉は聞こえず、至って通常の学生らしい口調だ。
いや、それはそれで俺にとって敷居が高くないので助かりはするのだが。
時折、明らかに中高生よりも大きな躯体をしているモノや、人間には通常付いていない部分が複数箇所付いているモノ、さらには肉体は人間と大差ないが制服を着用していないモノなどが学生の傍らにいるのを見かける。
彼らはおそらくみな妖怪、そばにいる生徒と契約しているのだろう。
以前奏や兜さんから、基本的にこの地域では義務教育終了と同時に妖怪と契約する、という話を聞いた。
俺も奏と契約するにあたりそのあたりの話を一通り聞いた。
契約した妖怪は主人を守る義務があるがそれは努力義務であること、守れなかった場合には罰則があるものの重すぎはしないこと、主人側には妖力を提供する努力義務が課せられていること。
要するに『契約』というシステムは、契約しないと妖力を完全に維持するのが難しい妖怪と、妖怪という人間を凌駕する種族が存在する世界で生きる人間が、互いに助け合うのを推進する制度のようだ。
実際俺自身も、奏と契約してからというもの、使える妖力量が増えたような気がしている。
日々の鍛錬で最大妖力量・出力量が上がっているとはいえ、それは筋肉トレーニングと同じく段々と、ゆっくりと上がっていくものだ。
妖怪には常に主人に付き従う必要はないということだが、コミュニケーションを円滑にするためにそれなりに長い期間一緒にいるのが基本のようだ。
俺もその例に従い、訓練のない時間は奏の高校に来よう、という目的もあるのだが。
「………遅いな」
校門に着いて、そして学生たちが校門から外に出始めて、部活動の声が聞こえ始めてからそれなりに経つのだが、奏はまだ出てこない。
赤銅色のがしゃどくろや揺らめいた炎のような毛並みを持つ狸が出てくるのだから、人型の白い九尾の狐程度珍しくはない………と思うのだが、先程からやたらと視線を集めている。
抜けたと思っていたマイナス思考が働き、自分が何か粗相をしたのかと思ってしまう。
故に可能ならば、早く出てきてほしいのだが。
契約した妖怪と人間同士が使える念会話でその旨を伝えてみたはいいものの、他のことに集中していると分からない、あるいは聞こえていても忘れてしまうこともあるらしいしな。
「………トロ」
そう思っていたころ、聞き覚えしかない声が聴力の髙い狐の耳に入る。
待ち兼ねた、というほどでもないが、それなりに時間が掛かったな。
関係者以外立ち入り禁止の立て板に躊躇して中には入れなかったが、待ち人が来たのならいいだろう。
壁から背中を離し、ゆっくりと校門を過ぎると、奏は同級生とみられる女子生徒と共にこちらに歩いて来ていた。
「奏、遅かったな」
「うん。ごめんね、ちょっといろいろあって」
肩から下げるタイプの鞄を持ち制服に身を包んだ奏と向かい合う。
口ぶりからするに事情があったのだろう。
問い詰めるほどではないけれど、奏の高校生活のことも聞いてみたい。
家に帰ったらまた聞いてみるか。
「あのぉー、すんません、おにーさん、奏っちの契約妖怪っすか~?」
俺と奏が他愛もない話をしていると、奏の傍に立ってこちらの様子をうかがっていた女生徒が声をかけてきた。
普段眠そうな、言い方を変えれば気怠げな印象を受ける奏とは対照的に、後ろで結わえた短めの髪が溌溂とした雰囲気を醸し出している。
奏と比べると流石に身長が高いように見えるが、高校生としては平均よりもやや小さいかな、という程度だろう。
二人よりも年齢としては下なのに「おにーさん」と呼ばれるのはややむず痒いようななんと言うべきか。
興味津々といった様子でこちらを覗き込む様子にたじろいだ俺を気遣ってくれたのか、奏が二人の間に入って口を開く。
「トロ、こっちはわたしの同級生のつるちゃん。つるちゃん、こっちはわたしの妖怪、トロ」
「なるほど、トロさんこんちわ! アタシ、奏っちのクラスメイトで友達やらせてもらってます、鶴田由茉っす!」
「お、おう。俺は奏と契約してる妖怪で、トロン。〈白九尾〉だ。よろしく」
軽く紹介してもらった後、自分の方からも自己紹介をする。
歯を見せて笑って手を差し伸べてきているのに気が付き、俺の方は一拍遅れて手を出す。
握手を交わす二人の傍ら、奏はというとやや嬉しそうな、照れくさそうな顔で頬を淡い朱色に染めていた。
華奢な外見とは裏腹にかなり強めに握ってきたその手を、ほどいてそのまま顎の下に移し、見定める視線を俺に向けてくる。
………この学校の人たち、俺に特異なものを見る視線を送りがちじゃないか?
ひとしきり全身を隈なくじろじろと眺めた後、鶴田さんはにやりとして奏の顔を下から見上げる。
「へー? 奏っち、おにーさん結構かっこいいじゃん?」
「そう。トロはかっこういいんだよ」
「………照れるな」
二人してそう言われると照れるな。
外見に関してはあまり気にしたことがなかったし、狐の要素が色濃く反映されている顔が格好いいと言われると確かにそうだろう、とは思う。
犬や狼、狐などの動物の顔はすらっとした流線型。
俺でも美しいと感じることはある。
「………あ、ところでおにーさん、ちょっと耳貸してもらっていいっすか?」
「ん? あぁ………」
俺が一人で色々と考えている間、奏と鶴田さんが色々と話していたようだが、鶴田さんの方がこちらに寄って、両手で口の横を覆った。
ちらりと奏を窺うと、瞳を閉じてゆっくりと頷いたため、安心して俺は少しかがんだ。
………奏の意に反すること、嫌がることはしたくない。
「鶴田さん、俺になにか用か?」
「つるちゃんでいいです」
「あ、あぁ、つるちゃん、何か話したいことでもあるのか?」
「………おにーさん、奏っちのこと、よろしくお願いしますね?」
不意に耳がピクリと動いた。
話の流れ上出てくる言葉とは思えず、俺はつるちゃんの方を向いた。
彼女は先程のフレッシュな雰囲気とは一風変わって柔和な表情をしている。
再びこちらにもう一段階寄ってきたため、屈み直して続きを待つ。
「………奏っち、あなたと出会って変わったらしいんですよ」
「え?」
「奏っち、入学式の日は結構暗めってゆーか、物静か? な感じだったんですよ」
それには俺にも心当たりがある。
俺がこちらの世界にやってきた日、奏は一人で公園のブランコを漕いでいた。
その様子は今にして思えば寂し気なようにも見えたし、一人で暗くなった時に公園にいる時点で何かしら本人的に思う所があったのだろう。
そしてその時に偶々通りがかって、そのまま奏の家に転がり込み今は契約まで果たしているのが、〈白九尾〉たる俺、トロンな訳だが。
「アタシちょっとおせっかいなところがあるってゆーか、奏っちに不思議と引き込まれちゃって、その日ずっと気にかけてたんすよ。でもその次の日からなんか、急にちょっと明るくなって」
「そうだったのか………」
俺の目線からでは、当然ながら俺から見た奏の姿しか見えていないし、俺と出会う前の奏については殆ど何も知らないと言っても過言ではない。
兜さんからそれとなく、「奏にとって必要」と言われたような記憶があるが、その真意は今までよくわからなかったけれど。
………そのあたりの奏の心境は、つるちゃんの方が見えていたということだろう。
「で、それとなーく聞いてみたら、『昨日変な狐さんに出会った』って」
「変な狐、か。いやまぁ確かにそうだけども」
「そこでアタシはピーンと来たんすよ! おにーさんと出会って、奏っちは変わったんだって!」
「………だといいな」
奏は今や、俺がこの命を生きる目標の一つだ。
右も左も分からない自分を拾ってくれて、住む家・食べるもの・着る服のすべてを与えてくれたのが、綿貫奏その人。
故に俺はその恩に応えるべく、そして一方的な思い入れのため、奏を守れるように強くなろうと決めたのだ。
「ぜったいそうっす! ………だから、奏っちの笑顔を守るためにも、おにーさんには頑張ってもらわないとなー、って」
「応。俺は最初からそのつもりだよ」
「本当ですか? 約束ですよ?」
「あぁ。神に誓って約束する」
俺の中では居ると分かっているものを引き合いにして、誠意を示す。
つるちゃんはそれを察したのかそうでないのか分からないが、耳元に直接囁きかけるくらいの距離にまで近づいてきた。
「──────友達を泣かせるヤツ、アタシゼッテー許さねぇから。そのつもりで」
「………………応」
余りに凄みの利いた声に、既に一回泣かせてしまっている、とは口が裂けても言えなかった。
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