其の一三 雪女、事故に弱い(重要)
<>(^・.・^)<お待たせしたんじゃよ
トイとの訓練は、基礎技量を底上げするシンミの鍛錬よりも実戦形式に重きを置いている。
普段は特に縛りを設けず、互いに全力を尽くす………訳ではなく、俺が全力でも軽くトイにあしらわれてしまう。
ナサニエルと戦った時は偶々、山の中という普段俺が戦っているようなフィールドで、シンミやトイを参考にした絡め手が上手く嵌まり、相手にも隙があったからこそ、ぼろぼろになりながらもようやく目標を達成できた。
しかし言うまでもなく、フィールドへの慣れは俺よりもトイの方が上、遠距離・中距離・近距離のすべてに対応できるトイの妖術、決して自分のペースを崩さず淡々と相手を追い詰める戦闘スタイル、すべてが俺よりも高い水準だ。
ゆえに、俺がどれだけ全力で挑んだとしても、二、三発を当てるのが関の山。
最初のテストで何とか一発決めたことを考えれば、短い期間で成長したと言えるのだろうか………。
それはともかくとして、今回は昨日迎えたばかりの透鳳凰を扱う訓練の為、俺の方から剣術での戦いを申し込んだ。
「う、おっ。つっ!?」
「ほい、ほ、い」
普段からトイは氷で作り出した長物を振り回す印象があり、恐らく剣の扱いにも長けているだろう、という想定だ。
勿論透鳳凰そのものを使うわけではなく、互いにトイが作り出した全く同型の刃を潰した氷柱を用いて開始した。
トイの場合、自分で作り出した氷柱だから簡単に長さや形、太さなどをいじれてしまうため、それは今回は無し、先に相手に三回有効打を決めた方の勝ちにした。
戦いにおいてずるいも何もないものだが、今回はとりあえず刀というものの振るい方を体で掴む為、双方妖術の使用は無しにした。
妖力を用いて身体の一部を強化するのは妖術ではない、という取り決めで、俺は全力を尽くして身体強化と剣を握った両手に意識を集中させているのだが。
「ふ、っ、たぁ」
「なっ、たっ」
一向に一本取れる気配がない。
普段の習熟の違いもあるだろうが、にしたって全く追い付けない。
此方の一挙手一投足を文字通り全て先回りして潰してくる上に、体のギリギリでしか受け止められないような一刀を間髪入れずに繰り出してくる。
そしてそれらの対応に追われて攻めの手が雑になった所を突く形で、既に二回食らってしまった。
何とか一回でも返したい………のだが、その焦りからドツボに嵌まってもいけないので、努めて冷静にトイの動きを観察しようとする。
冷や汗をかき、少しづつ押されて後退を続けながら、一つ気が付いた。
袈裟、逆袈裟、上段、中段、横薙ぎといった数々の方向からの攻撃を繰り返してくるのだが、そのうち一か所、攻撃が来にくい方向がある。
向かって右の脇腹付近、恐らくそこがトイの弱点、というか扱い上発生する穴だろう。
であれば、多分そこに剣を持ってくる動きが得意でない、筈。
もしそうだとするならば、トイの体幹に対して、その穴と対角線上にある地点まで通るような一太刀を受け流し、その流れで穴を突く。
「………!」
来た、向かって右から左下への袈裟切り。
軌道上に太刀を置き、相手の力と勢いをそのまま受け流して一歩詰める。
同時に氷柱を右脇に構え、二歩。
トイも俺の狙いに気が付いたようで、袈裟斬りの方向を少しずらし、受けるためにやや後ろへ動いたころに、三歩。
そうした動きを許さないために、というか少しでも注意を逸らすため、踏み出した足でトイの靴を土に押し付ける。
「………おぉっ!」
構えからの横薙ぎを一つ。
確かに感触はあった。
氷柱を握ったはずの両の掌を伝わるものが。
「これ、で、さん、かい」
どさりと音を立て、数々の斬撃を受け細かな傷がびっしりと付いた氷柱が土の上に落ちる。
簡潔に言えば、俺は握っていた氷柱を取り落としてしまった。
最後の動きは俺の太刀を受けるためではなく、俺の攻撃を殺すと同時に自分の勝利条件を同時に達成するためのソレだったわけだ。
………してやられた、というかなんというか。
自分の作り出した氷柱の硬度に信頼を置いているからこそ、あそこで身体能力を強化させた俺の一刀を受けるのではなく、発生させないようにした。
「………あぁ、負けた。完敗だ」
「う、ん。でも、最、後の、は、よかった、よ?」
張り続けた緊張が一気に途切れ、俺は足の力を失って転がった。
仰向けになった俺の上から、あまり傷のついていない氷柱を土に差し、トイが声をかける。
日差しを遮るように顔をのぞかせる彼女よりも、俺はその氷柱に目が行った。
………同じ時間だけ同じ立ち合いをして、なぜここまでの差が出るんだ?
「それはありがたいが………正直まだまだだな。上手く剣を扱える気がしない」
「うー、ん………それは、確かに、ね」
「色々と調べてみはしたんだが、中々見たままに動けないな」
「それはね、そう、だ、ね」
上半身を起こしながら言葉を交わす。
昨日の夜に、今後透鳳凰を扱う可能性を考えて、様々な剣術について調べてみはしたのだ。
見るからに日本刀の見た目をしているために、日本刀の剣術について調べたのだが………その数の多さに圧倒されてしまった。
長い歴史を重ねて出来上がったものが剣術の流派というもので、それは無駄を削ぎ落し合理を突き詰めた型の筈だ。
だからこそそれに沿った剣裁きをすべきだと思ってはいるのだが。
「そもそも、自分にどんな型が合っているのかすらも分からないんだ」
「そ、れ、は」
瞳を閉じて静かに頷くトイの額に、汗が一滴も垂れていないことに気が付き、自分との間にある壁を痛感した。
少しづつ妖力出量が上がっている、とシンミとトイの双方から言われているし、風の操作も良くなって、氷の扱いにも慣れてきた、とも評されている。
俺の持つ妖術のうち、高炎のみは自主練習しかできず、洗練されているとは言えないものの、残り二つの妖術と基礎的な体術は伸びてきている。
ここ一か月近くの間での成長量を自覚しているだけに、師匠たちとの差に打ちのめされるような気分があるが………
まぁ、ここで止まっていい権利はない、よな。
「………確、かに、そう。わ、たし、も、そう、だ、った」
「そうなのか? その割には、今日も迷いがないしブレがないような気がしたが」
トイの告白に対して、俺は少々面食らった。
的確に滑らかな動きで攻撃を挟んでくる彼女の氷柱捌きは、何か特定の流派を扱っているものと思わせるに十分だった。
そのトイも、かつては模索した段階があった、というらしい。
少しだけやる気が出ると同時に、それからどう流れるような剣術、あるいは棒術を身に着けたのかを知りたく思う。
「だったら、どこでどう習得したんだ? 可能なら教えてくれないか?」
「んー………いい、よ」
「本当か!」
思わず立ち上がると、まつ毛の一本一本が見えそうな距離で、肩をぴくりと震わせたトイと目が合った。
ほんのり頬を赤らめてトイは目をそらし、口からあぅ、えぁ、と言った声にならない声を漏らす。
………あー、流石に近すぎたが、驚かせてしまったようだ。
「………すまん、近すぎた」
「………ん」
春も半ばを過ぎつつある頃、空は晴れているというのに微妙な雰囲気が漂う。
俺もやや気まずくなり、目線を落として気が付いた。
「トイ、すまん」
「ん? な、に?」
「お前の靴、踏んでしまった」
人差し指でトイの足元を指さすと、釣られて視線を伸ばしたトイの口が開く。
立ち合いの最終盤、トイの動きを制限しつつ注意を逸らすため、俺は靴を踏んだ。
そこまで気にする余裕がなかったとはいえ、振り返ってみると少しやりすぎたか。
トイもシンミ同様、会うときは基本的にワンピースにおしゃれな細身のマニッシュシューズ。
以前から言おうとしていたが、トイが運動用の服を持っているのを見た試しがない。
その中でも、俺の覚えている限り、今日トイが履いているものを見る機会が最も多い。
「あ、ぁ」
「すまん………それ、お気に入りなんだろ」
「そう、だ、けど………そろそ、ろ、新し、いの、ほしい、な、って、思って、た、とこ、ろ」
「そうか………すまん」
優しいトイのことだ、恐らく俺を気遣ってのものだろう。
そう思って、俺が頭を下げると、トイが少々上ずった声で言う。
「や、違、くて。ほんと、に」
「………本当か?」
「う、ん。そろそ、ろ、夏、よう、の、新しい、の。見に、行かな、きゃ、って。だか、ら、気に、しない、で」
「そうか、だったらいいんだが………俺に出来ることがあったら可能な限りで応えるから、何でも言ってみてくれ」
「………んー、と」
俺がゆっくり顔を上げると、トイは片手を顎に当て、右上と左上に視線を動かす。
その間に俺が、この天気でも溶けない氷柱二本を回収しているうちに、トイは言いたいことが決まったようで。
「じゃ、あ。今度、お買い、物、一緒、に、来て、くれ、る?」
「お前も?」
「………え」
………思わず漏れ出た一言が、史上最もドスの効いた声を引き出してしまった。
何? 何なんだ?
<>(^・.・^)<………これで恋愛感情じゃない(本人の弁)からなぁ……
<>(^・.・^)<御意見、ご感想お待ちしておりまする




