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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の一二 いずれ、壁

<>(^・.・^)<更新遅れて申し訳ございません事よ………

「さて」


 派手僧が去った後に立ち上がる。

 アイツの言ったことの全容は理解できなかったが、それでもアイツなりの誠意、みたいなものは感じた。

 ………言われなくてもそのつもりだし、その為に強くなるんだ、俺は。


「さとて………じゃあまぁ、ししょーもいなくなっちゃったし………」

「続き、行くか」


 今日の修業は一通り終わったとはいえ、軽く体を動かす程度ならばいいだろう。

 先ほどの派手僧の言葉に触発されたわけではないが、トイが来るまでに時間もあるしな。


「んにゃ-、それはやめようぜぃ。今日のメニューは終わったけども、トイちゃんの番もあるしねー」

「ジョギング、そこまでいかなくてもトイが来るまで時間あるしクールダウンはしておく方がいいだろ」

「それはそうねー、じゃあまずは身体伸ばそーか」


 言うや否や、シンミは片手でもう片方の手首を掴み、頭の上に伸ばして喉から声を漏らす。

 隣の俺も、片腕をもう一方の腕で抱えて肩の筋肉を伸ばす。

 ………動き終わってからしばらく経ってしまったが、それなりに効果はあるだろう。


「はー、動いた後の体操は身体に染みるねー」

「そうだな、ところで一個聞いていいか?」

「ん-?」


 応答なのかただ喉を鳴らしているだけなのか判然としない声で、シンミがこちらを向く。

 いや、そんなにたいしたことではないのだが。


「あぁ、その、お前って運動用の服とか持ってないのか? 俺ほどじゃないにせよ、お前も汗かくだろ」

「あー………まぁあるにはあるんだけどねぇー」


 そこらの服よりも通気性いいんだけどなー、と脇のあたりの匂いを確認しながらシンミが呟く。

 いや、汗のにおいが気になるわけではなく、正直に言うとそれは建前だ。

 何かといえば要するに、シンミの妖術は風を操り、発生させるソレ。

 それを伸ばす訓練である以上、当然シンミも自分の妖術を遺憾無く発揮し、時には模擬戦形式で直接相対してくれる時もある。

 そのときに何が起きるかと言えば。

 ………袴が捲れ上がり、シンミのソレが見えてしまうのだ、偶に。


「じゃあそれにしたらどうだ? 仕事服が汚れるだろ」

「まー、それもいーんだけど………あんまし気に入ってないってゆーか」

「はぁ………?」


 要領が掴めない。

 コイツの言い回しが回りくどいのはいつものこと、平常運転だが、にしたって今回はよく分からん。

 そうだ、と一言呟いてから、シンミが意地の悪い笑みを浮かべ、此方を向く。


「じゃー、一緒に買いに行っちゃうー………?」

「構わんが」


 流石に一月近く付き合いがあれば、ここでどういった行動に移るか想像が付く。

 コイツはまた、少年漫画によくあるパターンの何かをなぞろうとしたのだろう。

 自分も、少年漫画にこういった場面で出かける展開は見た記憶がないではないし、少年誌にだって恋愛をテーマにした作品は多数あると聞く。

 少年漫画好きなシンミのことだ、それらを参照して一言放った、というあたりだと見当がつく。

 尤も、当の本人は返答に泡を食った顔を晒しているのだが。


「え、あれぇ? いーの?」

「断る理由がないだろう」

「いや、まー、確かに、そうかもぉ、だけどさぁー………」


 自分から言っておいて歯切れが悪い。

 何なんだ一体。

 俺の怪訝な目つきに目もくれず、シンミは一人で引きつった笑みを明後日へと向けている。


「うぅーむ………トイちゃんに詰められそーな………」

「どういうことだ?」

「あっ」


 やっべ、と言ったような言わなかったような。


「それに関しては………ここでアタシが喋るのはフェアじゃない、かな!」

「そうか? じゃあ後で本人に聞いてみるか」

「………アタシが居なくなってからにしてねー」


 俺と運動用の服を買いに行くのが後ろめたいことなのだろうか。

 というか、動きやすい服を見た記憶がない、というのはトイの方にも言える。

 どうせなら全員で行った方が、互いにアドバイスができていいだろう、シンミとトイが。

 ………正直な話、俺は服飾のセンスに自信がない、と言うよりも服飾そのものに関心が無いからな。

 何を隠そう、制服以外のもので記憶に残っている服が存在しないほどだ。

 その点シンミやトイは、探偵事務所で洒落た服装をしているのを見た記憶がある。

 それに、俺が行くと言えば奏が付いて来る可能性もある。

 贔屓目かも知れないが、奏のファッションセンスはかなりのものだと思うので、仮に付いて来てくれるとなれば百人力だろう。


「じゃあ、行くのは確定でいいんだな? 日付はどうする?」

「今週末、とかかなー?」

「あー………」

「都合悪いー?」


 都合が悪いというか、悪くなるというか。

 シンミに聞いた上で決める積りだが、<妖技場>に出るのならば、最短では今週末だ。

 土曜と日曜の二日間続けて出場することにはならないだろうし、そうする気は流石に無いから、どちらかは空くだろうが。


「<妖技場>のスケジュール次第だな………」




「次の試合なら、土曜の昼前が最初だぜ?」




「!」


 春が終わりに近付いた、柔らかな風が木の葉を心地よく揺らす境内の、入り口。

 強すぎない日差しで形作られた木の陰、そこにハスキーな声を飛ばした見知らぬ誰かが立っていた。

 すらりと伸びた手足を無造作に揺らし、かといって体幹のしなやかさを感じさせる出で立ちである。

 その影は、此方に向かってゆっくりと歩き出した。


「黒原のヤツが言ってた期待の新人ってのを見に来たんだけどよぉ」


 陰から滑り出したシルエットを一言で表すなれば………情熱的。

 服装はライダージャケットにタンクトップ、脚を伸縮性の髙そうなスキニーで覆っている。

 アウトドアが好みなのか、顔は夏前だというのにやや日に焼けていた。

 ハスキーな声、と言ったが、体つきから察するに恐らく女性だろう。

 しかしこの声、聞き覚えが………?


「この辺にいるらしいから知らねぇかオマエに聞きに来てみりゃ、お出掛けの日取りを話し合ってると来たじゃねぇか?」

「………いやまぁ、そーだけど」

「いやぁ、オマエがなぁ!」


 俺が呆気にとられ、そして現れたコイツの声に似通ったソレを持つ相手に思い至ったとき、気が付けば直ぐそこまで迫られていた。

 俺よりもシンミに用がある様子、と言うよりもどうやら既知の間柄らしい。

 シンミの背中を笑いながら叩くところを見るに、かなり深い付き合いのようだ。


「正直アタシは安心したぜ、オマエにそういう相手が出来たなんてなぁ………」

「や、そーゆーんじゃないし」

「隠すなって水臭ぇ!」

「「いや、本当に違います」」


 流石に俺でも、この女性が何を言っているか大体は察しがついた為、思わず口を出してしまった。

 要するに、シンミと俺が恋仲にあると勘違いしているのだろう。

先程のシンミと同等か、それ以上の恋愛脳なのか、この女性は。

 シンミはともかく、俺は誰ともそういった仲には無いので、要らぬ誤解をそのままにしておくのはよくないだろう。

 無理矢理シンミと肩を組みに行っていた女性は、二方向からの否定を浴びせられて、きょとんとしている様子。


「え?」

「真実です」

「まーた一人で暴走してー」

「あっ、え………違うのか?」


 困った顔でキョロキョロしながら、一応の確認を求めてくる。

 釣り目も相まって男らしさを感じさせる容姿だが、この振る舞いはとてもそのようには思えず、ダル絡みする酔っぱらいのようにしか見えない。

 肩を組んだ腕はそのままに、その手で俺を指してくる。

 こら、人を指で指すな指で。

 あとシンミが見たことないくらいに疲れた顔をしている。


「じゃあ、コイツ誰?」

「この子は最(・)近(・)来(・)た(・)妖怪のトロン」

「初めまして、トロンと言います」


 軽く会釈をする。

 ふぅん、と呟いて目を細め、まじまじと此方を除いてくる。

 その目は値踏みをするかのようで、はたまた獲物を見据える猛獣の目のようにも感じられた。


「オマエさぁ、中々強ぇーじゃん?」

「は? ………いや、どういう意味で言ってくれてるのか分からないけど、俺はまだ───」

「あーいや、違う違う」


 手の平を此方に向けてひらひらと振り、ついでに口を横に開いて首も横に振る。


「力比べの話じゃねーんだわ、すまんすまん」

「はぁ」

「だってさ、オマエぶっちゃけ、今コイツにも負けんだろ?」

「それは、そうですけど」


 組んでいない方の手でシンミを指さす。

 ………先程からずっと嫌そうな顔してるな、シンミ。

 知り合いのようだったが、悪友とでもいうべき関係なのだろうか。

 一方的に肩を抱えられたシンミの様子に気が付かないまま、女性はシンミを指していた指を顎に当てる。


「だからな、アタシがオマエを見て思ったのは………なんつーか、芯の強さ(純真無垢)の話なンだよ」

「なるほど………」


 それならば心当たりはある。

 命の恩人で、身寄りのない自分を助けてくれた奏と奏の好きな人たちを守り抜く。

 誘拐事件以来、その思いは一層強くなったように思うし、現に今日だって訓練をしたところだ。

 だから、胸を張って言える。


「確かに、俺には譲れないものが出来ました」

「………いー目してんじゃねーの? 気に入った、今度アタシがいっちょ揉んでやるよ」

「はぁ………? どうも?」





 言いたいことだけ言って、俺とシンミが恋仲ではなかったことに不満を漏らしつつも、シンミに追われるようにして女性は去っていった。

 またしても名前を聞くのを忘れたし、そのままの流れでシンミが去ってトイとの鍛錬に入った。

 ………最後の台詞、シンミの胸を揉みながらだったから意味が変わってしまってたんだがなぁ………

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