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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の六 善意ってむつかしいね

「あー………………美味いですねーコレ。何処のお茶です? よかったら教えて下さいよぉ」

「分かりません、母のおみやげ、ですので」

「ははぁー、おかーさん、中々良いセンスしてらっしゃいますねー。ちなみに今はどこに?」

「ええっと、北米のほうにいっている、とか」

「アメリカですかぁ、いいですねぇ。あっちの(妖技場)はあっちで、興行色、ってゆうかギャンブル色が強いですけどぉ、その分盛り上がりはハンパないですから」

「へぇ、そうなんですね」

「そうなんですよぉ! いやぁ、以前向こうで親善試合をすることになりまして! そん時にうちのドメちゃん連れてったら、あの子ったら会場も試合相手もぼろっかすにしちゃって! 地元民はみんな相手選手に賭けてたんで、賞金ハンパじゃなかったっすねえー!」

「………………」


 家に招き入れて、かれこれ三十分。

 私と彼女――――――黒原さん――――――だけの家はとても静か、にはならなかった。

 入れた以上はお茶でも出さねば、と思ってお茶菓子と一緒に紅茶を出したら、殆ど五分置きくらいに話を始めてきた。

 お茶とお菓子があればあんまり話さなくてもだいじょうぶ、とお母さんに言われてたけど、どうやら相手によるようだ。

 今後の社交界での交流において役に立つこと間違いなしなことを学べた………………たいへん不本意だけど。

 彼女は本題を切り出さないまま。


「おっ、そう言えば、最近やってるあのドラマ、ご存知です? ほら、あの人気漫画のドラマ化な癖にクオリティバカみたいに低くて炎上してるヤツ!」

「それってほんとうに人気なんですか?」

「正直人によりけりですねー。私なんかは、ドメちゃんと一緒に、原作とは違うものとして割り切って見てますけど。ぶっちゃけ主演の女の子がかぁわいいんですよぉコレがッ!」

「………………へぇ」

「いやね? 正直私、その子のことは最近まで別に好きじゃなかったんですよ。なーんか鼻につくなぁ、って思ってたくらい。でもですね! 前の大河で抜擢されて、超がつくほどの熱演見せられたら、誰だって堕ちるわっ! って感じじゃないですか!?」

「やばい。めんどくさい」

「え? なんです? どうしました? 私の顔になにか付いてます?」

「あぁいや、気にしないでください」


 口に出てた。

 なんと言うか、この人からは『面倒くさいタイプのヲタク』、ッテ感じがぷんぷんする。

 ちょっとでも共感したら容赦なく同意を求めてきそうな、ハイエナじみた凶暴性。

 それでもって、それがひゃくぱーせんと『いいモノだから薦めたい』って善意なのがうっとうしい。

 正直、私だけじゃ手に余る。

 しょうがない。

 初めての連絡でこんなことを伝えるのは気に食わないし、トロにも失礼だけど。


 《トロ、いますぐかえってきて――――――!》



 白九尾:トロン


「あ、トロン様、今お帰りですか――――――」

「すいません田光さん、後で事情は話しますので!」


 制御しきれない勢いのままに門を飛び越え、そのまま自分を風で押し流して方向を微調整。

 ちょうど玄関の前に落ちるように意識しながら、左手をポケットに突っ込む。

 急げ、急げッ!


「………………着いたッ!」


 花園や野外ステージを飛び越え、俺は奏宅の玄関に辿り着いた。

 ポケットから取り出した合鍵を使って玄関を開け、靴を適当に脱ぎ捨ててリビングへ。

 もし、奏がいなかったら。

 もし、奏が倒れていたら。

 もし………………この家が、俺との思い出の詰まった場所でなく、辛い記憶の場所になってしまったら。

 悪寒を振り切るようにして廊下を抜け、リビングの扉を開けた。


「奏ッ!」


 結果から言えば、奏はそこにいた。

 なにやら茶色のボブヘアの女性と談笑しているように見える。

 予想していた光景と違ったことに、安堵していいやら困惑すればいいやら肩を竦めればいいのか。

 俺が入ってきたことに気が付き、二人は俺の方を向く。

 その奏の顔は、今にも泣き出しそうなほどに限界を迎えた顔だった。

 その顔を見て流石に我に返った俺は、椅子に座った奏に駆け寄る。


「トロ………………!」

「奏、奏ッ! 大丈夫か、怪我はないか!?」

「あれぇ? どうしたんです、体調悪かったんですか? さっきまで楽しそうにおしゃべりしてましたよね?」

「………………あ、そういうにんしきなんだ………………がくり」

「奏? 奏ッ!?」


 疲れ切った表情で首をカクン、と曲げる奏を、俺は腕で包み込むように支える。

 正直何が起こったのかは全く分からないが、状況から察せられる犯人は、確定的に明らか。

 俺はありったけの警戒心と憎悪を込めた眼で、座っていたもう一人の女を睨めつける。


「お前………………ッ」

「へ、えぇ!? いやいやいやぁ、私じゃないですよぉ!? 私は私で、さっきまで綿貫さんとお話してただけですからぁ!?」

「五月蝿い」


 問答無用、という意を込めて、女が掴んでいたティーカップの柄ごと女の手を凍らせる。

 ぎょっ、というのが正しい表情をして、女が喚き出す。


「ちょおっ!? 何してるんですかっ! 私は何もしてませんて!」

「お前以外居ないだろう」

「やべぇっ、この人ドメちゃんとは違うタイプのバーサーカーだった! おいおいおい、いいのかトロンさん! 私になにかしたらドメちゃんが黙ってないぞぉ! あ、でもあの子のことだから、『二十七話とおんなじだぁ』って言って恍惚とする可能性も微レ存?」

「………………」

「わぁっ、ちょっと待って、待ってぇ!? 私はただ、貴方に用があって来ただけなんですよ!」

「お前………………」

「あぁ、分かってくれました?」

「もしかして、ナサニエルの復讐に………………?」

「あっこれダメなやつだ」


 何やら口走っているが、これ以上手を出すと、あいつ(ナサニエル)のようなヤツを呼び寄せそうで面倒だ。

 さて、どうするか。

 正直、今すぐお引取り願いたいが、なにやら用があるとかなんとか言っていた。

 ………………一応聞いておくか?


「なぁ、お前が言っていた、俺への用事とは、何なんだ?」

「あぁ、それはですねー」


 右手が凍り付けられているのに不敵な笑みを浮かべ、自信満々に女は言う。


「トロンさんに、是非とも血で血を洗って欲しいんですっ!」

「よし。帰れ」

「うぅわ、やっぱり? ちょっと狙って言った節はある、どころか節しかありませんけど! なぜかって? 面白そうだったからねっ!」

「氷は融いてやる。その代わりすぐに出ていけ」

「えー、つーめーたーいー。今の私の右手よりつーめーたーいー。トロンさん、ソークールだね?」

「コイツ………………ッ!」


 人の話を聞かない手合いだったか。

 コイツを追い払うには、敷地の門から外に出ていく必要があるが、奏を一人残して家を出るわけにいかない………………

 こんなところで立地面積の広さが仇になるとは。

 どうしたら………………!


「………………トロン様。何か事情がある、とのことでしたが、何かお有りでしょうか?」

「………………田光さん」


 リビングの扉の側に立っていたのは、綿貫家の門番を務めている田光さんだった。

 俺が思い切り冷静を欠いていたせいもあるだろうが、凄い気配の無さで、全く気が付かなかった。

 そう言えば、急ぐあまり玄関の鍵を掛け忘れていたんだったか。

 今回は知り合い………………いや、()()()()()()()()だったから良かったものの、危ないところだった。

 今後、戸締まりには気を付けないと。


「田光さん、門の方はいいんですか?」

「そのくらい、すぐに代わりを頼むことはできます。それよりもこちらの方が重大だと判断し、こうして参上致しました」

「成程」

「あのぅ、門番さぁん………………」


 弱々しく声を上げる女。

 上目遣いで田光さんを見上げる彼女を、田光さんは俺よりも冷たい目で見下ろした。


「あら。黒原様、まだ居たのですか。すぐに要件は終わる、とのことでしたからお通しさせて頂きましたのに」

「いやね? 私だって早めに帰ろーとは思ってたんだけどさ。そもそもトロンさん居ないわ、帰って来たら来たでなんか物騒で怖いしー。説明しても聞いちゃくれないんだよぉ」

「………………ソレ、貴女がおっしゃいます?」

「えー? 何、なんか言ったー?」

「いえ。何でもございません」


 何だか見知った間柄のように話す二人。

 俺は取り残されて、ただ二人を見ているだけになった。

 しかし、一つだけ気付いたことがある。


「あの、田光さん」

「はい? 何です、トロン様」

「田光さんが、ソイツを入れたんですか?」

「ええ。この方はそれなりの身分証明が出来ましたし、戦闘能力もトロン様程はありません。私の判断で、入れても差し支えない、としてお入れしましたが、些か軽率だったようです」

「成程………………」


 つまり、この人はちゃんと正規の手順を踏んで、ここに来ていたことになる。

 冷静な田光さんの折り紙付きで、だ。

 流石にスパイだのなんだのを疑いだしたらキリがないのでしないが、まぁ仮にそうだとしても潰せばいい。

 つまり、コイツ――――――黒原は、現段階では全く危険のない人物。

 本当に只のお客様だった、と言う訳らしい。

 ………………仕方が無いので、右手の氷は融かしてやった。

 奏からの連絡では、明らかにコイツは害ある者だったのだけれど。

 まぁ、全ては、奏が目覚めたあとに本人から聞けばいいか。

<>(^・.・^)<この辺で鼠にパスー

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