開幕 ある日のこと
<>(^・.・^)<二章スタート
<>(^・.・^)<その前に、もう用語解説に追加したので、そちらもよろしくっ!
その日、彼は山にいた。
理由は簡単、なんか面白そうだったから。
正確に言えば、事件の予感がしたからである。
背中に愛用の大斧を背負い、普段から愛用している服に見を包み、夜の山を駆ける。
まぁ、その様子は、駆けると言うよりも、跳ねると言う方が正しかったやもしれない。
「………………いないなー」
寂しさと心細さから、ぼそっと呟く。
彼は正義感に満ち溢れた人間であり、正義観に誇りを持つ人間である。
然し、それと恐怖を打ち消せるかは別問題だった。
幾ら彼が強いとは言え、姿の見えないおばけに出会うのはゴメンだ。
夜の山の冷えた空気、刺すような気配、何処からと無く聴こえてくる物音に、彼の年相応の心は音を上げた。
「ここで待ち合わせなんだけどなぁ」
一方で、此処から逃げ出すという選択肢は、彼の脳内には浮かばなかった。
つい先程も、狐耳の少年と、大男の仕合を目の当たりにしたところ。
正直、どちらも彼の敵たる器ではないが、あれ以上の強者がいる可能性もゼロじゃない。
というか、もう割とそんな気配がしている。
風にのって漂ってきた、強者独特の気配から察するに、一人、二人、三人。
感じたことのある妖力が混ざっているので、恐らくそのうちの二人は見知った妖怪だ。
[氷雪遅退 ブリザイド]と[暴風形砲 憂郎菩呂統]だ、間違いない。
ただ、残りの一人に心当たりはない。
誰かも分からない、敵かも分からない、どんな目的かも分からない、どんな必殺技を使うかも分からない。
だからこそ、この場での待ち合わせを早く済ませ、待ち合わせ相手には早く安全な場所に行ってほしいのだ。
然し、彼の恐怖心はかなり軋みを上げている。
「あ、ごめーん、待ったー?」
「………………! 待っt………………全然、待ってない! もうちょっと、遅くても良かったぞ!」
「そっかぁ、ごめんごめん」
たったったっ、と音がしそうな走り方で少年に近づくのは、一人の女性。
ぬいぐるみを改良した鞄を背負った彼女は、少年の待ち合わせ相手であった。
そんな彼女だが、暗い夜の森を足元を見ずに駆け抜けられる位の能力は持ち合わせている。
いや、正確には順序が逆だ。
彼女が此処で少年の待ち合わせ相手たりうるのは、そうしたことができるから。
というか、それくらいのことが出来る相手じゃないと、この少年は契約しなかった訳だが。
「いや、さっき川の方に歩いてたら、急にドメちゃんから連絡来たからびっくりしたよぉ! 急いで急いでって言うもんだから、洗おうと思ってた水筒、置いて来ちゃったのよ?」
「あ、ごめんなさい………………でも、僕は『ドメちゃん』じゃない!」
「あぁ、此処でもそう呼んじゃいけないの?」
『ドメちゃんのルール分かんないなぁ』と心の中で彼女は呟く。
少年(以降ドメ)は、謎のポリシーを持つ人間だった。
普段の仕事で使う名前と、本名とを使い分ける。
それ位なら別に彼女の方も対応できるのだが、趣味………………いや、彼の生きる意味の為にも、ドメはリングネームを使いたがる。
ドメの奥底で形成された大事な人格の欠片。
それくらい彼女もとっくに察しているからこそ、その使い分けをやめろとは言えなかった。
そんなドメを可愛らしく思う彼女の前で、ドメは、
「そうさ、このぼ………………オレは、弱きを助け、強きをクジく! 明日の笑顔を守るため! どこに居ようとカけつける!」
長々とした口上を始めた。
さて、この状況を整理しよう。
少年は今、見知らぬ敵の居る(かも知れない)戦場にいる。
そしてそんな戦場から、早く呼び出した彼女を返したいと思っている。
だからこそ彼女を急かして、この場に呼んだのだ。
口上を垂れている場合ではないことくらいは、誰が見ても明瞭だろう。
然し、彼女の方は、こんなことしている場合ではない、と思っている訳でもなく。
「………………(によによ)」
によによしていた。
その四文字を一言で表すなら、『かわいいなぁ』といったところだろうか。
一言一言全力で叫びながら、くるりと回ったりびしっとポーズを決めたりするドメ。
小動物か自分の子供を見る親のような、そんな生暖かい目で、彼女はドメを見守っていた。
「本当のセイギのシッコウシャ! 誰が呼んだかそのスガタ! 人呼んで[仮免ライダー二輪丸]とは、ぼ、オレのコトだ!」
「おぉー!(ぱちぱち)」
とまぁ、ドメの口上が終わった。
最後まで聞けば、何をモチーフにしているかは瞭然。
ちびっ子や一部の大人に大人気、特撮番組『仮免ライダー二輪丸』の主人公の決め台詞。
この『仮免ライダー』シリーズでは珍しく、変身シーンに口上が付くのだが、ドメはそれをえらく気に入っていた。
因みに、制作会社に許可を取った上で、彼はそれをリングネームに使っていた。
「さて、トツゼン呼んでスまなかった、黒原小豆ジョシ。キミをここに呼んだのは、ソウキュウに見せたい物があったからなのさ」
「ソウキュウに? ファ○ナー? それともそれがア○ガールになっちゃう話?」
「え、えっと、たぶん、ちがうと思う」
「あぁ、ごめん、話の腰折っちゃって。続けて、[二輪丸]」
「う、うむ! そうだな、この[二輪丸]が小豆ジョシに伝えたいのはだな!」
流石に扱いに馴れている。
『ちょろいなぁ』と思いながら、彼女(以降小豆)はこうして話の腰を折るのを、半ば趣味にしている。
その度にドメが可愛い反応を見せるので、ついついいじりたくなるのだ。
純真であるが故に、ドメが小豆の趣味の話のネタに付いてこられない事は残念だったが。
自信満々に胸を張ったドメが取り出したのは、一つの携帯電話。
保護者の小豆が保護者設定を施したソレである。
「? これがなに? 何か壊れちゃった?」
「ふっふっふっ、ちっちっちっ」
「どうしたの?」
不敵に笑うドメの姿に、小豆は困惑する。
ドメがこういう喋り方をするのは珍しくないので、小豆に通訳は難しくないが、今回は特別だ。
前提情報がほぼないので、察しようがない。
「実は、ジョシに見せたいものがあるのさ」
「見せたいもの?」
「さっき撮ったドウガなのだがな………………」
そうして、ドメは小豆に一本の動画を見せた。
無許可で録画したので、ドメにそれをアップロードする気はないが、知人に見せるだけならいいだろう、との判断だ。
その動画は、とある戦いの様子。
極限まで気配を消して近付き、ドメが先程撮ったもの。
全体像を俯瞰したり、拳のやり取りに寄ったりと、やたら上手い撮影アングルは、日々の弛まぬ訓練によって自然と身に付いたものだ。
周りの虫の声に邪魔されながら、アニメの戦闘作画のお手本のようなそれを、小豆はじっくりと見ていた。
そして、次第にその眉間に皺が寄り、最後の決着のシーンに辿り着くと、小豆は顎に手を当て下を向いてしまった。
もしや機嫌を損ねてしまったかと、おどおどと慌てるドメ。
しばらくして、小豆はグイッと顔を上げ、ドメの手を取って言った。
「ドメちゃんっ!」
「は、はいっ!」
「これ………………めっちゃいいじゃん!」
そう、小豆はこの動画にちょっとしたパワーを感じていた。
動きは分かりやすく、途中までは初心者が見ても目で追える範囲のスピード。
その途中からのも、編集して調整すれば、十分に見られる範囲だ。
加えて、一方の動きの良さ。
小豆は仕事柄、この街近辺の実力者の顔は一通りマークしているが、このような少年は見かけたことが無かった。
彼の、何処か見覚えのある戦闘スタイル、一個一個の技術の根本に、見知った強者の顔が浮かぶ。
「ドメちゃん、このヒト知り合い!? このヒト、今どこにいるか分かる!?」
「え、えっと」
小豆の強者を見る目は確実だ(と本人は思っている)。
動画の少年は、今はまだ目の前のドメや他の実力者には敵わないが、それでももし、その実力者に教えを受けていたら?
そうだとしたら、まず間違いなくこの少年は強くなる。
故に、今このタイミングで目を掛けておく。
何故なら、それは彼女の儲けになるから。
単純に、この少年と知り合いたいという気持ちもある。
「まぁいいわ。ドメちゃん、今日は帰ろう。明日から、仕事の合間に聞き込みよ!」
「え、あ、うん………………ちょ、ちょっと待ってよ!」
ずんずんと歩き出す小豆。
その背中を追うドメ。
二人の姿はやがてその場からは見えなくなり、静寂が訪れる。
「………………」
樹上に、その二人を見ていた者が、一人。
鬼の面を被ったそれは、二人を見届けると………………興味を失ったように飛び去っていった。
――――――運命が、また少し捻れていく。
<>(^・.・^)<用語解説についてですが
<>(^・.・^)<これから質問が来たりしたときに更新しようと思います
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