潜入
一時間後、私達はまた小舟に乗り、海を西側に遠回りしていた。オールを漕ぐゴンゾウの背後で座っているナカマが
「このまま岸沿いに西に回り込んだら砂浜があるからそこから上陸しよう」
などと何も見ずに言ってくる。ゴブミツが不思議そうに
「おめーら漂流者は、向こうの世界で何を見てるゴブ?」
「……うーん……ネットって言ってもわかんないよね。聞いたら色々教えてくれる板があるんだよ」
「すげーゴブ!じゃあエリザベスもヘンタースンシも?」
「もちろん見てる。ってかこの世界広大すぎてガイドや地図がないと無理だと思う」
ゴンゾウが笑いながら
「今はとっととヘンタースンシを暗殺するだけやわ。ルフィナちゃん大丈夫か?」
「う、うん……ナカマ、これ人殺しじゃないんだよね?」
ナカマは真顔で
「うん。僕ら憑依者は仮の身体を操作してるだけだからね。大丈夫だよ。ヘンタースンシは自作キャラだから、この世界の人の身体では無いし」
「分かった!頑張る!」
私はようやく決意が固まった。
ファーゴ市からかなり離れた砂浜から私とナカマだけ、エリザベスから貰ったリュックを背負って上陸する。ゴンゾウとゴブミツは小舟と荷物を守る役目だ。この作戦が成功したら、私達はすぐにここから逃げて、もうファーゴ市に戻ることはない。ちなみに小舟を軽くするため、積み荷の殆どはファーゴ市で換金してお金はナカマとゴンゾウが半分ずつ持っている。
砂浜の先の上り坂を進み、そして小さな森を抜けるとヘンタースンシが岩山の上に建てた砦の建物と木柵が見えていた。砦頂上付近の大きすぎる旗には「ババア討伐軍」と赤い文字で書かれているのがよく見える。これからあそこに潜入するのだ。私達はエリザベスがくれた服に着替え始めた。
2人とも「バニーガール」というウサギ耳バンドを被り、際どい黒い水着のような露出が多い服を着た格好になった。ナカマは若い女の可愛らしい声で
「どう?違和感ない?」
「ないよ。私、似合ってる?」
グルっと回ってナカマに見せる。お尻は殆ど丸見えで白いウサギの尻尾が付いている。正直恥ずかしい……身体の形が丸わかりだ。ナカマは頷いて
「早めに終わらせよう」
そう言いながらエリザベスから貰った薄皮を顔に被せると、凄い美人になった。私も同じ薄皮を顔に被るとすぐに肌に吸い込まれる。ナカマは私の顔を見て
「ヘンタースンシはそういう趣味かあ……エリザベスさんよく調べてるなあ」
感心した表情になる。
岩山の麓で白いイワジャシンの花を見つけたので摘んで胸に差しておく。
「迷わないんだよ」
「助かるよ。迷っている暇はないからね」
ナカマはそびえ立つヘンタースンシの砦を見上げた。
砦まで複雑な道中で、兵士も多く居たが、全員全くやる気が無く、私たちを見ると
「……武器ないな。よしとーれー」
などと適当に通してくれた。ナカマが小声で
「軍隊パーティーだけど、お金で適当に集めてて忠誠度が低いからヘンタースンシを守る気がないみたいだ」
「よくわからないけど、助かるね」
頷きあって、私達はあっさり砦内へと入った。砦内では焚き火を囲んで裸の女の子達が踊っていたり、金ピカの戦士が寝転んでいたり、若い男女がグルっと囲んで座り、カード賭博を楽しんでいたりとゆるい雰囲気だった。ナカマは苦笑いして
「ヘンタースンシの配信視聴者だね。賑やかしで来てる人だらけみたいだ」
そう言いながら、「ババア討伐軍」の旗が頂上に立っている二階建ての建物の開きっぱなしの扉に入っていく。
すごい強そうな黒い悪魔や、真っ白な天子が入ってすぐの所に座って雑談していたが、ナカマが近寄って
「スンシ様のファンガール勢ですー」
媚びた声を出すとチラッと見て、悪魔の方が
「2階で寝てる。一時間後に爆撃イベントだから、それまでにしてよ」
「ありがとー」
私達は急いで階段を上がっていく。




