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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第三篇

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第百二十頁 ペルソナガーべ 壱

「おい、さっきは大丈夫だったか?」


 ムラへ帰る途中、先頭で棒を担ぐ男がクウヤに話しかけた。


「はい。すいませんでした」


「別に謝んなくてもいいさ。怪我しなくてよかったよ」


 そう言う男は明るく笑っていた。


「あの、さっきだれが助けてくれたんですか?」


 クウヤは尋ねた。

 目を瞑っている間の出来事だったため、クウヤはなぜ猪が木の下にいたのか経緯を知らなかった。


「ああ、オズワルドだよ。アイツのタックルに敵うやつはいない。レオンハルトさんでもぶっ飛ぶんじゃねえか?モロに食らったらって話だけどさ。ハッハー……」


 男は上機嫌に笑った。


「えっ?レオンハルトさんも?」


 クウヤは驚いた。

 実力的なことは一切無視しても、レオンハルトがぶっ飛ぶがまるで浮かんでこない。


「ああ。なんてったって、オズワルドは『衝突ツザーマンシュトーツ』のペルソナガーべを賜っているからな」


「つ……つざ……?」


 眉間に皺を寄せ、聞こえた文字をつぶやく。


「ぶつかった時の威力を調節できるんだってよ。ただでさえデカい体だ。あれ以上の衝撃なんて……ぶつかられたらたまったもんじゃねえぞ。見たことはねえけどさ、多分本気出したらこの猪だって跡形もなくなってたんじゃねえか?」


「……」


 爆散した猪を想像すると言葉が出なくなった。


「マジで狩り向きのペルソナガーべは羨ましいよな〜……俺なんか『シュタープ』だぞ。荷物持ちしかできない」


「確かに羨ましいよな。俺も『ザイル』だからなー」


 先頭の男のすぐ後ろで棒を担いでいる男が話した。

 その後、二人で「俺たち万年荷物持ち!ウェイ!」と拳を突き合わせた。


 すると猪の後ろで棒を担いでいる男も会話に参加した。


「全然いいじゃないですか!お二人のペルソナガーべは超便利ですよ!俺なんて『身長ケルパーグレーセ』ですよ。日常生活ですら役に立たない!」


「いやいや、お前のおかげで皆で同じ肩の高さで獲物運べてるんだ。お前いなかったら俺は荷物持ちにすらなれてないよ」


 最後尾の男がフォローした。


「神よ!なぜ、俺には『悲鳴シュライ』を授けたのですか?狩りにおいても役に立ったことがほとんどございません……おまけにちんちくりんで……」


 男は嘆いた。

 それに先頭の男が反応した。


「いや、お前のおかげで娘の命が助かったんだ。役に立たないなんてことはない!」


「ありましたね。そんなこと。お嬢さん、木登りしてたら降りられなくなったんでしたっけ?」


 後ろから二番目の男が確認をとる。


「そうだ。あの時、娘の悲鳴をキャッチしてくれたから助けられたんだ。感謝してる」


「それだけですよ……」


「いやお前は娘の命の恩人だ!」


「そんな……へへへ」


 満更でもない様子だった。

 クウヤには会話の内容はほとんど分からなかったが、能力が日常に溶け込んでいるらしいことはなんとなく理解できた気がした。


 

 同じ頃、ビゼーとライナーも会話をしていた。


「さっきはありがとうございます。クウヤのこと」


「いやいやこちらこそ申し訳ない。無理に狩りに連れ出してしまったようだし……クウヤくんはどうして狩りができないのか、ビゼーくんは知ってる?」


「多分、動物が好きだからじゃないですか?前そう言ってたんで。アイツの亡くなったお母さんが動物好きだったらしいんです。だから生きている動物は殺せないんだと思います」


「動物を殺さないなら外では肉を食べないの?」


「いや、食用動物を殺していいのは食肉加工施設だけだったと思います、たしか。殺すのもそこで仕事してる人だけだと思うんで。俺も詳しくは知らないんです」


「シセツ……シゴト……?」


「あぁ……肉を取ってくれる人がいるんですよ。その人たち頼みってことです」


「そうなんだ。じゃあ肉はその人たちに譲ってもらうんだね?」


「まぁ……はい、そんなとこです」


 お金という概念を持ち出すとややこしくなることは目に見えていた。


「自分たちで狩らなくても肉が食べられるのか……それはいいね。でも狩りをしなくてもよくなったら俺たちは何をすればいいんだろう?」


「……」


 その答えを言って良いのか悪いのか考えているうちに、ビゼーは別の質問を思い出した。


「そういえばライナーさん、話は変わるんですけどさっきの猪はどうしてクウヤを狙ったんですかね?周りに他の人もたくさんいましたよね?」


「ああ、多分クウヤくんのオドが多いからじゃないかな?」


「多い?」


「多分、ムラの人たちと比較しても多いと思う。ただ父さんが言っているようにオドの使い方はまだまだ拙いね」


 ビゼーは、生気の強さが胎児レベルだとレオンハルトに罵られたことを思い出した。


「……多いのに弱いんですか?」


「オドが多いのと強いのは違うよ。オドの多さは才能だけど、強さは努力なんだ」


「はぁ……」


 理解が追いつかず、生返事をする。

 

「クウヤくんはオドが多いけど強くない。強くないと言っても君よりは強いよ」


「うっ……」


 突然言葉のナイフで急所を刺された。

 

「ただ……」


 ライナーはいつものにこやかな表情で厳しいことを言ったかと思うと、真剣な面持ちになった。


「君のオドの少なさは異常だ。今、顔を合わせていても君のオドをほとんど感じない。正直びっくりしてるよ。三十年生きてきて、こんなにもオドが少ない人は見たことがない」


 ビゼーはアダン(エ)にも似たようなことを言われたことを思い出した。

 通常、能力者の生気濃度は十パーセント程度のところ、ビゼーのそれは十パーセントを下回っていた。

 ライナーの言う『オドの多さ』は生気濃度のことだと確信した。

 同時に『オドの強さ』というのはアダン(エ)の研究では定義されていない別の指標なのかもしれないと悟った。


「どう説明すれば分かるかな…………君たちのオドはホワ〜ってしてるんだよ。ムラの人たちはピリッとしてる感じ?」


 やはりアダン(エ)から教わったこととライナーの説明に一致する説明がない。

 ビゼーには「オドの強さ」の感覚が分からなかったが、話を先に進める。


「それって、クウヤが猪に狙われたのと関係があるんですか?」


「オドが多くて弱い。その上、オドがダダ漏れになっている。考えてみれば狙われるのは当然だった。外は平和なんじゃないかな?だから君たちのオドには緊張感がないんだよ。それで狙われたってことだと思う」


「なるほど。さっきの猪視点で見ると、クウヤの生気の多さに気づいて、弱さを感じてロックオン。後は漏れ出している方向に向かえばソイツがいるって感じですか?」


「そうだと思う。狩りを長年してると、何人か犠牲になった人を見ることになるんだけど、ほとんどはオドが弱い人だったからね」


「その条件に加えてアイツは動物を殺せない。足手纏いにしかならないですね」


「言い方は悪いけどそうなるね。これでも狙われてしまうのは承知の上で連れて来たんだよ。何かあったら守るつもりでね。オドを強くするには実践も並行してやった方がいい。でも心の問題があるのなら狩りはさせられない。冗談抜きに命を落としかねないから。食料を取りに行って自分が食料になるんじゃ本末転倒だ」


 ビゼーが思っていたよりもずっと多くのことをライナーは考えていた。

 おさの息子というだけはある。

 

 ここまで聞いて、ビゼーは新たな疑問が湧いた。


「狩りが生気を……オドを強くするための実践なら女性たちはどうしてるんですか?」


「それが不思議なもので、子を授かると自然に強くなるみたいなんだよ。『自分の命に変えても、何が何でも守り抜いてやる』っていう強い覚悟があるからかな?女性は強いよ」


 そう述べたライナーの顔には羨望のような不安のような表情が浮かんでいた。

 この説明は深く腑に落ちた。

 オドの()()とは覚悟や余裕に近いものなのかもしれない。


「さあ、次の狩場についたよ。ここには狼がいる。君のオドも漏れてるから狙われるかもしれない。気を引き締めて。無事に取って帰るよ!」


「はい!」


 ライナーはビゼーに狩りの再開を告げた。


「さあ皆!死なないようにだけ注意して!昨日、父さんが覇気結界オド・ドームを張った影響で狼も気が立ってるかもしれないから、いつもより気合い入れて!」


「おう!」


 男たちは自らを鼓舞しながら狩場せんじょうへ踏み込んだ。

次回 ペルソナガーべ 弐

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