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ため息と祈り

大広間に、暖かな光が差し込んでいた。

3日後は、卒業式。ルーク達が、この学園を巣立つ日がやってくる。

カトリーナとセレナは、在校生代表として、大広間の設営を仕切っていた。


「セレナ、東側の柱の灯石、少し色が悪いわよ」

「待ってください……これ、魔力コントロール難しくて……こうですか?」

「……いいわね、落ち着いた光になったわ」


カトリーナの指示に従い、セレナが柱に取り付けた灯石にそっと魔力を流すと、ふわりと、温かみのある金色の光がそこから滲み出す。式典では定番の魔道具だが、配置と色味の調整には繊細な感覚が必要だった。


「……綺麗ですね」

「えぇ……少し、ルーク様の髪の色に似てるわ」


セレナとカトリーナは、顔を見合わせて微笑んだ。


レオナルドの起こした事件は、学園長とアレンの配慮により、表面上は大ごとにならずに収束した。

それぞれの未来に影を落とした部分もあったがーーいい面も、少しだけあった。


「それにしても、あなたが模範生に選ばれるなんてね。候補者じゃない人間から選ばれるのは、異例だそうよ」

「……私も、驚いています。魔法の腕が必要な立場と聞いていますし、正直、自信がありません」

「私を差し置いて、満場一致であなたの名前が上がったそうよ。レオナルドの一件で、一番冷静に行動していたのは、あなたじゃない。私は、模範生として一緒にやってくれるのがセレナで、安心しているわ」

「……ありがとうございます」


次期模範生は、カトリーナとセレナの2人に決定した。

カトリーナは、一度闇魔法にかかりつつも、自力で立ち上がり、レオナルドと対峙されたことが評価された。

セレナは、魔法の腕に課題はあるが、ナイル国での立ち回り、レオナルドの一件での冷静な対処能力が買われた、となっているが、事実は少し異なる。実際はーー口封じだ。学園の“仕掛け“を知ったセレナに、そのことを口外しないよう、模範生の地位を用意した。そのことに気づいているのは、セレナだけである。


(正直……口止め料としては不十分ですが、甘んじて受け入れましょう)


セレナは一瞬商人の顔をすると、すぐにやわらかく笑い、カトリーナの方を見た。


「2人で、頑張りましょうね!」

「そうね……リディアも選ばれたらよかったのだけど」


セレナと同時に、リディアも候補に上がった。

レオナルドを倒したことを評価する人と、闇魔法を使える才能を危険視する勢力に分かれ、結果、模範生としての適正なし、と判断されたらしい。


「でもリディアさん、落ち込んでませんでしたね」

「そうね……あの子、なんだか雰囲気が変わったわ。地に足がついた、というか ……」

「今も勉強ですか?」

「ええ。フィリア様が卒業する前に、って色々教わっているみたい。ずっと、淡々と勉強してるわ」


リディアは、レオナルドの一件から、変わった。

レオナルドと、何か話したようだが、その詳細は、カトリーナにも、セレナにも教えてくれなかった。

だが、真剣な顔で「私、魔法だけじゃない、いろんなこと頑張るよ。じゃないと、立派な魔法使いにはなれないから」と言っていたのが、カトリーナには印象的だった。


「ルークさん、もうすぐ卒業なのに…..」

「あの2人、くっついたはずなのに、あんまり一緒にいるところ見ないものね」

「リディアさんが頑張ってるのを、ルークさんは少し離れて見守ってる感じですよ」

「それじゃ、前と何も変わらないじゃない」


2人は再度顔を見合わせて、思わずため息をついた。


ーーーーーー


「リディア様、そこ違います。先ほどの問題の応用ですわ」

「え、それってどの問題のこと言っています?」

「ここは、フロント解析を使ってください。シグマ解析だと、このグラフは読み解けませんわ」

「……全然わからないんですけど」


昔だったらペンを投げ出すタイミングで、リディアはグッと堪え、魔法経済学の教科書を必死でめくった。それを、フィリアは優しげに見守っている。


「成長されましたね」

「……まだ、全然です」

「そんなことありません。前は、魔法以外あまり興味を持ってないように見えましたが…..苦手なことも、一つずつ積み上げている姿は、ご立派だと思います」


フィリアの心からの言葉が、リディアには嬉しかった。

フィリアと接した時間は短かったが、リディアにとって彼女は、憧れの“お姉さん“だった。


「フィリアさん、覚えてますか?保健室で、初めて話した時のこと。私、あの時フィリアさんに言われたこと、一生、忘れません」

「懐かしいですね、もう2ヶ月も前でしょうか……私、何か言いましたっけ?」

「『立派な魔法使いというのは魔法が上手な人ではありません。魔法を通じて、人々を救い、助けられる人です』って言われて、私、頑張ろうと思ったんです。頑張った、つもりだったんです。でも、私は、魔法以外のことをおそろかにしていたから……色々、考えも足りなくて、いろんな人に迷惑をかけた。私、もっとちゃんとした人になりたいんです。だからーー魔法局に卒業の条件を言われたからじゃない、自分の意思で、魔法も、それ以外のことも、がんばるつもりです」

「……本当に、立派になりましたね、応援してます」


フィリアはあと少しで卒業してしまう。それが、悲しかった。

どうして、この人ともっと早く出会えなかったのだろう。

いや、フィリアは模範生として活躍していた。自分が、魔法に、自分のことに夢中で、リディアはフィリアの存在に気づけなかったのだ。


「……フィリアさんが卒業しちゃうの、寂しいです」

「そう言っていただけて、嬉しいです……こちらに戻ってくる時は、ご連絡します」


フィリアは、治療師として活動をするらしい。

基本は病院勤務だが、戦争や魔獣討伐など、大きな戦いがあるときは、前線に駆り出されることが多い立場だ。卒業後はすぐに、実習と称して、魔法局の魔獣討伐チームに組み入れられると聞いている。


「怪我、しないでくださいね……」

「怪我しても自分で治せるので、大丈夫ですよ」


にこやかに笑うその笑顔も、しばらくは見れなくなる。


「寂しい……」

「リディア様は、手のかかる妹みたいですね……ところで、最近ずっと私と一緒にいますが、ルーク様とは別れを惜しまなくていいのですか?」

「……だってルーク、最近いないんですよ。アレンさんに魔法の修行をつけてもらうって言って……」

「あら?でも、リディア様を迎えに来たみたいですよ、ホラ」


フィリアの指さす方を見れば、ルーク手を振って近づいてくる。


「よっ!リディア、勉強、順調か?フィリア嬢の説明はわかりやすいだろう」

「……ルーク」

「何だよ、そんな顔して。俺がいなくて、寂しかった?」

「……うん」


いつもだったら強がりを言うリディアの素直な言葉に不意をつかれて、ルークは耳を赤くする。そんなルークを、フィリアは胡乱げに見つめていた。


「ちょっと、そこのカップル。いちゃつくならよそでやってくれませんか?」

「いや、いちゃついてない」

「いちゃついてます……というか、こんなに可愛い彼女をほっぽって、アレン様と何を修行してるんですか?」


その質問に、ルークが困ったような顔を見せた。


「光魔法を、少々……」

「何でまた。ルーク様、光魔法もお得意ですよね」

「そうだけど、兄さんほど精緻には使えない、それじゃだめだと思ったんだ」


ルークの顔には、覚悟があった。ルークもまた、レオナルドの一件で変わった。今までは、才能のない自分を受け入れ、その中で努力してきた。だが、その枠組みから越えようとしたことは、なかった。

天才の兄を一歩引いてみていた、そのレベルには到達出来ないし、する必要もないと思っていた。


「今後、レオナルドほどじゃなくても、俺より強い人間と対峙することもあるかもしれない。そう言う時、才能がないから、なんて言い訳は通用しない……俺は、もっと強くならないといけない」


ルークは、チラリとリディアを見た。リディアは、2人の会話には興味がないのか、はたまた、いちゃついてると言われたことに対する照れ隠しか、フィリアに教わった問題を唸りながら解いている。

その姿が、ルークには微笑ましかった。

リディアは、変わろうとしている。

そんなリディアを支えるなら、ルーク自身も力をつけないといけない。ルークの原動力はそこにあった。


「やってらんねー」

「……フィリア嬢、今、なんかすごく粗暴な発言が…..」

「何のことです?ルーク様の聞き間違いでは?……言いたいことはわかりますが、魔法局に就職したら、しばらくリディア様と会えないのでしょう?だったら、デートでもしたらどうですか?」


その言葉に、うんうん唸っていたリディアの肩がぴくりと上がる。


「いや、リディア今勉強で忙しそうだし」

「……何寝ぼけたこと言ってるんですか、カフェにいく時間くらい、リディア様にだってありますよ、ねぇ?」


顔を赤らめながら、リディアはこくり、と頷いた。

その姿にフィリアはほっこりし、ルークは再度照れた。


「あ、そう、か……?じゃあ、どっか行くか?……ちょうど、話したいこともあったんだ」

「うん」


ルークのことを見ないまま、リディアは照れくさそうに片付けを始める。

その姿を見て、フィリアはルークにそっと近づき、耳打ちした。


「ちょっと。リディア様、すごく乙女なんですけど……もしかして、ずっとこんな感じ何ですか?」

「魔法の話とかになると元通りだけど……スイッチ入るとずっとこんな感じ。正直、会話が続かない」

「それ、は……ルーク様も大変ですね??」


無言でルークが頷いている。悲壮感がややあるが、それでも、その表情は緩んでいる。


(バカップルめ……何が悲しくて、失恋したのにこんなものを見せられてるのかしら)


フィリアは、2人を見て、大きくため息をついた。

リディアは、フィリアを見て不思議そうに首を傾げている。


(でも、まぁ……2人とも幸せそうで、よかったわ)


フィリアは、この2人の出会いを知らない。それでも、ルークがリディアに出会って変わったことを、知っている。

レオナルドのことで、ルークとリディアの心にはきっと影が落ちただろう。これから、苦労だって多いと思う。

それでも、どうかこの2人の未来が明るいものでありますように。

フィリアは、そう願った。

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