誰か嘘だと言って!!
「では、5人ずつ分かれてディスカッションをして下さい。」
政治経済の授業でグループでディスカッションをすることになったミナミだが、問題は5人ということだ。
タクマ達のグループは4人なので、セルジュールとミナミを加えると6人になりオーバーしてしまう。
3人グループに入れてもらえれば理想なのだが、ミナミはもちろん、セルジュールも交友関係は広くない。
「俺、あっちのグループに入れてもらうから、ミナミとセルジュールさんは俺らのグループと一緒にやりなよ」
すかさず、タクマがミナミにそう声を掛けてきた。
さすがタクマ。
相変わらずの気の利かせようである。
だが――。
「ミナミ嬢、良かったら俺たちと一緒にやらないか」
まさかのランフォースがミナミに声をかけてきたのだ。
――え?どうしてランフォース様が私に??
「そっちのグループは6人だろ?こっちは4人だ。ミナミ嬢が来てくれたらお互い丁度いいのでは?」
至極当然の様にランフォースが言う。
――いやいや!単純な数合わせでははかれませんから!あなた達とディスカッションするんですよ!!
そこまで考えて、ミナミは逆にこの幼馴染グループに入れる者は誰がいるだろうと思った。
しいていうならタクマかミナミのどちらかくらいではないか。
いつもタクマを犠牲にさせるのも悪いと思ったミナミは「……私で良ければ」と、渋々返事をするのだった。
周囲は羨望と同情の入り混じった視線でミナミを送り出すのだった。
「ミナミ!お前なら大丈夫だ!」
そうガッツポーズを見せるタクマに今からでも代わってやろうかと思うミナミであった。
「承諾してくれて感謝する。以前から元平民であるミナミ嬢が政治に対してどんな意見を持っているか聞きたかったんだ」
ミナミは少し驚いて、ランフォースを見上げる。
そんな風に思ってくれていたとは。
「あっ、悪く捉えないでくれ。貴重であり、興味があると言いたいのだ」
慌てて訂正するランフォースに、この人は本当に真面目で正義感のある人なんだと感じた。
「わかってます。どこかの皇太子様とは同じ元平民だとおっしゃっても意味合いが違いますわ」
冗談交じりでミナミが言う。
「いや、同じだろう。恐らくリュークは君を蔑む意味合いでその言葉を使った事は一度もないだろうさ。まあ、からかう事はあったかもしれないがな」
そう言って、穏やかな笑顔をミナミに向ける。
――天然たらし!!
「そうですかねえ?」
ミナミはおどけてみせるが、本当はとっくの昔に気づいていた。
避暑地に行くときに”元平民が”と言ったのは、貴族になりたての私が恥をかいてしまわないかと思ってだって事。
そもそも、リュークリオンは私を蔑んだりしたことはないってこと。
「ミナミを連れて来た。これで5人だ」
「え?タクマじゃなかったのか??」
リュークリオンが驚いたようにランフォースに問いただす。
「……途中で気が変わった。何か問題あるか?」
「別に……ない」
――私じゃ不満だってこと?!
歓迎されるとは思ってなかったが、こうも明らかに拒否反応を示されてショックを受けるミナミだった。
正直、ミナミと顔を合わせるのは少し気まずかった。
こっちの勝手な心境でミナミを不快にさせるのは良くないとはわかっていたが。
どうしても感情が上手くコントロールできない。
こんなことは初めてだった。
だが、ディスカッションで無駄にタクマに攻撃してしまうより、ましかもしれないとリュークリオンは思うのだった。
ランフォースも、最初はタクマを誘おうと思った。
他の者もそう思っていた様だったし、それが一番無難だとも思った。
だが、ふとミナミの政治経済についての意見を聞いてみたいと思った。
ミナミならありえないような事でも、臆することなく言うだろうと思ったから。
だが、これは予想以上だった。
「ですから!なんでもかんでも上から押しつけるのではなく!もっと民の意見を聞くべきだと言っているのです!」
「いちいち聞いていたら進むべきものも進まないだろう。いつまでたっても現状は良くならない」
「ですが……!」
先ほどから、ミナミとリュークの独壇場だ。
セシリオも、パトリオットさえ二人を止めることができないでいる。
「大体、民に聞いたところで民自身が本当に必要なモノの答えを知っているとは限らないであろう」
「というと?」
「例えば、不作で麦がとれなかったとしよう。民に何が欲しいかと聞いてみるとする。すると民は何と言うだろうか?税金を下げる事や、物資の配給などを望むのではないか?」
「それの何がいけないの?」
「だが本当に民に必要なのは果たしてそうなのか?それも確かに必要だ。だが、それは一時的な対策であって、根本の問題は解決していない。なぜ不作になったのか?冷害なら冷害に強い品種の開発やその対策が必要だし、水路や道具の改良も必要であろう。そんな事は民に聞いても答えんぞ」
「……確かにそうかもしれませんが。でもそれは、民に教育を施していないからでは?!」
リュークリオンはハッとする。
教育は貴族、または貴族相当の者達だけがすればいい、というのが従来の考え方だ。
貴族は民を導き守るもの。
民は守られるもの。
その対価として、働いて税などを納める。
そこに揺るぎはないし、あってはならないというのが常だ。
「私は幸い教会の孤児院で育ちましたから、シスターに文字の読み書きや世の中の事を教えてもらいました。しかしながら、市井では読み書きもできない子ども達は沢山いました。それでもみんなそうだから、それが普通ですが、本当にこのままでいいのですか?!」
「ミナミさん、その辺で……」
パトリオットが止めに入る。
流石にこれ以上言うと、国の在り方そのものを疑問視していることになりかねない。
だが、ミナミにはパトリオットの声はまったく耳に入っていなかった。
「一部の貴族や王族だけが中心とした社会では何も変わって行かないじゃないですか!!」
「そこまで!!今日のディスカッションはこれで終了です!!」
先生は慌てて、ミナミをとめに入る。
――いくらなんでも不敬すぎる!まさにその中心の人物のご子息たちになんてことを言うんだ!
先生は冷汗をダラダラ流しながら、皇太子であるリュークリオンの方を見る。
だが、次の瞬間、リュークリオンは腹を抱えて笑う。
「ははっ!いや、まさかここまでとはなっ!」
教室内にハテナが飛んだ。
一瞬、何が起こったのか、皆が理解できなかった。
「……確かに今のままでは権力が偏り過ぎている。特権階級だけで政治を行っていては、いつか国に限界が来るだろう」
「東の大陸では民主主義といって、血筋ではなく、民が選んで王を決めるという国もあるらしい。もちろん、こんなこと、国民には知らせていないがな」
教室がざわつく。
そんな国があると知れば、それを旗印に不満を持ったものがクーデターを企てかねない。
なぜ、皇太子がこの場でこんな事を話すのか。
皆が真意を計りかねていた。
「そう、構えないでくれ。私はただ、純粋にディスカッションしたかっただけさ」
「ミナミ、君のいう事も一理あるな。確かに、ゆくゆくは教育を平民にも広げ、多くの国民から忌憚なき意見を吸い上げる、そしてそれを国づくりに役立てることが必要であろう。だが……」
「時期ではありませんね」
ミナミは真剣な顔で続ける。
「今の民の知識では意見を聞いたところで、リュークリオン様のおっしゃる通り、本当に必要な事が自分達自身にもわかっていない事でしょう」
リュークリオンは頷く。
「そもそも、中央でも様々な者の意見を聞くことが難しくなっている。まずはそこから変えていかなくてはなるまい」
「……水は上から下へ流れますものね」
「だが、人は何かを欲する事よりも、失う事を嫌う。特権を手にした者にそれを手放させるには、相当の時間と労力が必要だろう。もちろん、王族を含めての話だ。」
ミナミは背筋がゾクっとした。
ここまでの話をするつもりはなかったのに。
リュークリオンは残念王子なんかじゃない。
しっかりとこの国の未来を考えている。
――そんなところも好きだ。
「いや、想像以上だよ。ミナミさん!君って本当に魅力的な子だね。君の固定観念にとらわれない考えは僕たちにとって本当に参考になるよ」
パトリオットが心底おもしろいと言ったようににこっと笑う。
前世では常識である知識を交えていっただけなのに、そこまで言われるとなんだかバツが悪い。
「まずは僕たちから変わらないといけなさそうだね」
セシリオが微笑む。
ランフォースも無言で頷く。
「では皆さん、席に戻って!では来週の課題ですが……」
先生は本来ならまとめに入るところを強引に来週の課題の話に振り切ろうとする。
いくら政治経済の授業でも、王族の統治の件にまでは首を突っ込むつもりはないのだろう。
「ミナミ、授業以外でもお前の話をまた聞かせてくれないか」
そう微笑みかけるリュークリオンに「……もちろんです」と少し顔を赤らめながら答えるミナミだった。
「ミナミさん、さっきのディスカッションは凄かったわね」
授業が終わって、セルジュールがミナミにそう声をかけた。
あんなことを皇太子に言えるなんて、しかも女性で!
いくら市井育ちとはいえ、そもそも男性が女性にあんなに意見していいものなのだろうか?
セルジュールの常識からいくつも外れたことをするミナミに、凄かった以外の言葉が出てこなかった。
――だけど、あの方々は誰一人、嫌な顔一つしなかったわ。
寧ろ、受け入れていた……。
ならば、私ももっと政治経済を勉強してもいいのかしら?
セシリオ様と話ができるくらいにと思って始めた政治経済だが、思いのほか勉強するのは面白かった。
許されるのなら、もっと深く勉強してみたい。
そう思い始めていた。
「はあ~。やっぱり今日の私もバレバレだったかしら??」
「え?」
「ディスカッションしている時はいいのよ!その時は、誰だとか立場とか忘れて熱中できるから!……でも」
「最後のあれは不意打ちよね……おまえの話をまた聞かせてくれないか?ってあんな顔で言われたら誰だって赤くなりますよね?!そうですよね?!」
「えっええっ。そうね?」
セルジュールの頭にはてなが飛ぶ。
――ん?先ほどのリュークリオン様との会話の事よね?
「しかも……ミナミって……名前、呼んでくれたの。いつも”おい!”とか”元平民!”とかしか呼んでこなかったのに。あっ、学園祭の時には冗談で”ミナミお嬢様”なんて呼ばれたことはあったけど……。この気持ち、セルジュールさんなら、わかってくれますよね?」
「ええっ。もちろんですわ……」
もちろんわかる。わかるに決まっている。
好きな人に自分の名前を呼ばれることが、どれだけ特別か。
たったそれだけの事が、どれだけ胸をときめかせるか。
だけど、今はそれよりも確かめなければならない事がある。
ゴクリッ。
セルジュールは生唾を飲む。
「あの、ミナミさん。改めて確認しますけど……あなたのお慕いしている方って」
「……リュークリオン様ですよ」
―――!!
「今日ので私の気持ちがばれちゃってたらどうしよう!でもでも!あれはきっと褒められて赤くなったって思ってくれてますよね??セルジュール様から見てどうでした?私、あからさまな顔してましたかね??」
不安げな顔をして、ミナミがセルジュールに問いかけるが、セルジュールはもう頭がパニックになっていた。
「……恐らく大丈夫かと?」
「よかったーー!」
セルジュールは、ミナミとリュークリオンの今までのやり取りを思い出す。
確かに、いつも喧嘩腰だったような……。
そう言えば、入学当初、ミナミさんはリュークリオン様にアプローチしていたとか。
タクマ様に恋していると思い込んで、そんな事はすっかり忘れていた。
先ほどの事を思い出しているのか、にやけたと思ったら赤くなったり、かと思うと落ち込んだ様子を見せたりと、ミナミは忙しく表情を変える。
これは、恋している乙女だ。
嫌というほど身に覚えがある。
――誰か嘘だと言って!!
力になりたいのは本当だが、まさか相手が皇太子だなんて!!
アンジェリカ様もいらっしゃるのに!!
安易に他人の恋路に首を突っ込もうとしたことを、ひどく後悔するセルジュールであった。
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