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乙女ゲームの主人公に転生したはずなのに悪役令嬢がみんなに愛されて過ぎていて私はほっておかれています。  作者: としろう


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母とのお茶会

「母と食後のお茶などは如何かしら?」

そう言って、王妃はにっこりと微笑むが、リュークリオンは一刻も早く文献を確認したかった。

「今はちょっと、用事がありまして……」

「まあ!母とお茶が出来ないほどの用事とはなんですの??」

「いや……先ほどの瘴気だまりについて、ちょっと調べたいと思いまして」

「はあ~、本当にあなたは真面目ね。たまには息抜きをしなさい!息抜きは大事ですよ。それに案外そういう時にいいアイデアがひらめくものですよ」

真面目と言われ、私的な感情でのことに罪悪感を感じたリュークは断り切れずにお茶をすることにした。


「ショーといつもお茶しているのでは?ならば、私とわざわざしなくてもいいではないですか。」

母は弟のショークリオンとは度々お茶をしている。

リュークは調べに行くことを邪魔されて、少し意地悪い言い方になる。

「なにをバカなことを。それは一緒にはならないわ! ショーはショー、リュークはリューク。毎日のようにショーとお茶していても、あなたとお茶をしない理由にはならないわ」

毎日のようにしていることに驚きつつも、そう言われては直ぐに席を立つわけにもいかなかった。

悪い気はしない。


――さっさとお茶を飲んで立とうと思っていたのに。


「ねえ、アンジーとあなた……何かあった?」

リュークリオンはその言葉にドキッとする。

「なぜです?」

「いえね、先ほどアンジーとの婚約式の件、なんだかうやむやになってしまったじゃない?あなたがわざと避けた様に感じたのよ」


さすが、母上。

だが、まだ何も決まっていないこの段階で母上に話せば余計な混乱を招くだけだろう。

しっかりと計画を練ってからだ。


「いえ、特には。私のアンジーに対する思いに変わりはありません」

リュークリオンはきっぱりと答える。

嘘は言っていない。

アンジーを守ること、幸せにすると誓ったあの思いは今も昔も変わっていない。


「そう、それならばいいのだけど」

嘘偽りのない、息子の表情に王妃も納得したようだった。


「……瘴気だまりの件は確かに心配よね。確か、光属性の学生で平民出身の子がいたわよね?ただでさえ珍しい光属性が平民から出たものだから、私も気になっていたのだけど。あなた、お話とかされたことはあるのかしら?」

「……ありますよ。アンジーが親しくしています。その関係で私もそれなりに話します」

リュークリオンはなぜかソワソワして落ち着かなかった。

――なんだろう?妙に緊張する……ミナミへの気持ちを母にバレてはいけないという緊張感だろうか?!

それが、親の前で好きな子の事を話す息子の心境だとは、リュークリオン本人は気づいていなかった。

リュークリオンは最大限に平然を装った。

「へえ?あなたが、アンジー以外の女の子と話すなんて。どんな子なの?」

王妃は単純な好奇心から尋ねた。

元平民から貴族になった女の子。

しかもあのアンジーと親しくしている。

いったいどんな子なのだろうと。


「……自分の意思をしっかりと持っている子です」

リュークリオンは静かに、しかしはっきりとそう言った。

――自分とは違って……とでも思っているのかしら?

王妃はリュークリオンの尊敬している様な、少し切なそうな、複雑な表情を見て、真意を測りかねていた。


「そう、素敵な女の子なのね。だけど、心配ね。」

「なにがです?」

「いえね、もし、学生も動員という話があれば、間違いなく後ろ盾のない者から行くことになるでしょうから」

「――!!」

失念していた。

ランクレッド家は田舎の男爵家。

しかも出自が元平民となれば一番最初に連れて行かされるであろう。

「……母上!まだまだ話し足りないですが、すみません。気になることは早めに解決したい性格故、やはり私はここで失礼します。また、今度ゆっくりとお茶しましょう。」

リュークリオンはそう言うと、直ぐに席を立ち、早々と行ってしまった。

「もう!少しはゆっくりしたらいいのに……。皇太子教育を考え直す必要があるわね」

王妃はぶつくさと文句を言った。


「あれ?兄上はもう帰られたのですか??せっかく急いできたのに」

少し息を切らしながら、ショークリオンが王妃に言う。

「ついさっきね。」

「私も兄上とゆっくり話したかったのに。残念だな」

椅子に腰かけたショークリオンに侍女がお茶を淹れる。

「……兄上は、アンジー姉様との婚約をどう考えているのでしょうか?」

ショークリオンも何かを感じたらしく、不安げに王妃に問いかける。

「……アンジーに対する思いは何も変わっていないそうよ」

「そうですか、ならいいのですが。ほら、アンジー姉様はいまいちふんわりしていて真意が読めないもので」

ショーはオブラートに包んで言ったが、要はアンジーに王妃になろうという意思のようなものが見られないという意味だ。

アンジーは人として好きだし、とてもイイ子だが、イイ子過ぎる。

いざという時、非情になれるのか、人の裏の裏を読むことができるのか。

王妃としてやっていけるのか。


しかしながら、先日の学園祭ではなかなかにリーダーシップを発揮したようだし、習うより慣れろで、正式に婚約式をあげ、私の元で王妃のイロハを学ぶのも悪くないと考えていた。


婚約の話を逸らすようなあの態度に、アンジーと何かあったのかと勘繰ったが、先ほどの言葉を聞き、杞憂だと判断した。


だが……ショーが言った通り、アンジーには王妃になろうという熱意を感じられない。

一応言われた事はなんとかこなしているようだが、それだけだ。

進んで学ぼうという様子は残念ながらどの教師に聞いてもまったく見られなかった。


――王妃には……なりたくないのよね……きっと。


本来なら他の婚約者候補も含め、競わせても良かったのだが、(現に自分の時はそうだった)

リュークがアンジー以外に婚約者候補はいらないと言って、そのままになった。

こちらとしてもドミエール家の娘が王妃になるなら、それが最善だ。


「私の時は、なんとしても王妃になろうと必死だったのに……」

「あれ?母上、アンジー姉様に嫉妬しているのですか?」

ショークリオンがからかうように言う。


――あらやだ、私ったら、思わずこんな愚痴、これじゃあ愛され嫁に嫉妬する姑ではないか。



「それはそうと……例の物は持ってきたのよね?」

咳ばらいをしてそう言うと、王妃は目の色を変える。

「もちろんですよ、母上」

ショークリオンも含み笑いを見せる。

そして……。

「どうですか!!兄上達の執事侍女姿!!」

「なんと!!流石我が息子!!でかした!!」


それは、映像を魔石の力で紙に記録した、いわゆる”写真”だった。

写真機は映像を記録できるととても好評ではあるのだが、原動力の魔石が高価すぎるのだ。

なので、ほとんど出回らず、一部の特権階級や、仕事上で使う者しか持っていない。

故に、これらの写真はとても貴重なのだ。

リュークを初め、ランフォース等お馴染みの幼馴染達の姿もある。

いつもと違う息子やその友達のこういった姿を見るのは母親として、とても楽しい時間である。

なにより、美男美女ばかりで眼福だ。

「どれもよく撮れているでしょう??兄上達の素敵写真を撮るために私も部下も頑張りましたよ!」

母と弟は、アンジー以外には家族にも素っ気ないリュークリオンを密かに愛でる会を結成してる。

要は息子ラブな母親とブラコン弟の集まりだ。

「あら~。アンジーはやっぱり何を着ても可愛いわね。まったくもってメイドには見えないけど」

「まったくもって同感です」

「本当は生で見たかったけど……あら、この写真は……」

一枚の写真を見て手を止める。


「ああ、その写真、もう明らかですよね」

そう言って、ショークリオンはニヤッとしながら続ける。

「明らかにその子、兄様に落ちてますよね!その表情ばればれですよね!!」

ショーはニコニコで話す。自慢の兄がモテている事が嬉しいようだ。

「ええ、そうね」

――いや、それはいい。別に大したことではない。

皇太子が女生徒たちに惚れられるなんてよくあることだ。

いや、むしろ憧れと羨望の的になってくれなきゃ困るってものだ。

そんな事はいいのだ。


「なんでもその子、光属性という事で男爵家の養女になった元平民の子らしいですよ。そりゃ、よけいですよね、兄様のような完璧な人、今まで周りにいなかったでしょうから。なんでも、アンジー姉様が気にかけている様で、今回の模擬店も姉様を補佐して良く働いてくれていたようですよ。出自に囚われないで人と接することができるところはアンジー姉さまのいい所ですよね」


ショーは満足したような顔で、雄弁に語る。

その反対に王妃の顔は段々青ざめていく。

そして、先ほど同じような会話をしたことを思い出す。


「でも、本当に良く撮れていますよね、その写真。兄上のそんな顔。滅多に見れない……いや、初めてかも??こんな顔で微笑まれたら誰だって惚れちゃいますよね!兄上も本当に罪な男だな~」

「……ショー、少し黙っててくれないかしら?」

「え?!どうしてですか?!母上が写真を見て、兄上達の素敵さについて語らおうと言ってきたのではないですか!」

ショーは訳が分からず、不満げに王妃に言う。


――”アンジーへの気持ちに変わりはありません”


リュークの言葉を思い出す。


リュークのアンジーへの態度は恋というよりも、妹を庇護するそれに近いものを感じていた。

だが、それは年齢もあるだろうと思えたし、親愛であっても家族愛であっても、そこに愛があるならば政略結婚としては上々だと考えた。


――尊敬でも友愛でも絆があれば、二人で国を支えていけるはずだわ。だけど――。


もう一度写真を見直す。


恥ずかしそうに上目遣いで、リュークに何かを伺う女の子。

それを、穏やかな表情で見つめるリューク。


その表情が意味する答えを私は知っている。


「……元平民で、男爵家とは……」

「その子の事が気になるのですか?ランクレッド家という田舎の男爵家の養女になったようですよ。本人は戦争孤児として孤児院で育ったようです。」


――ランクレッド家?たしかかなり田舎の方にあった家門だ。権力どころか、中央と殆ど関わることもない、田舎領主だ。


「真っ先に動員……」


「動員??瘴気だまりの件ですか??」


ショークリオンは、話が飛び飛びになる王妃に、頭がまったくついていけなかった。


――私が何気なく言った一言が、あの子を不安にさせてしまったか。


息子の想いと、この国の未来、そして王妃である私がとるべき行動は何か。


王妃は頭をフル回転させるのだった。





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