表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

別府温泉6

「ノゾミーーーー!」


 上から叫ぶマイコ。

 周りの観客も騒然としている。

 

 『人が落ちたーーっ!』『おいおい、ワニがむらがってるぞっ!』『係員さーんっ!』

 『ヤバイんじゃないのかっ!』『おい、誰か、助けないとっ!』

 人々の叫び声が聞こえる。



 一方柵の下。 

 ワニの飼育場では、ノゾミと賢治が恐怖に震えていた。

 なんと無数のワニに囲まれているのだ。


「ノゾミ、後ろにいろっ!」

「で、でも賢治っ!」


「いいから下がれッ!」

「う、うんっ!」


 ノゾミは賢治を掴む。

 賢治はとっさにノゾミを後ろにかばって、近くの棒切れを拾う。

 

 棒を振り回して牽制するが、ワニたちが寄ってくる。

 下に落ちてきた2人を注意深く見ている。

 エサか、それとも違うものなのか、判断に迷っているのだ。


『ブォオオオオオーーーーーン』


 緊急警報が鳴り、係員がワニの飼育場に入ってこようとするが・・・

 中々扉が開かないようだ。

 かなりてこづっている。



 上のマイコは思った。

 (まずい・・・・このままでは・・・・2人はワニに食べられちゃう)


 マイコはすぐさま近くにあった緊急用縄梯子を取る。

 丈夫そうな柱にくくりつけて、下に向かって投げる。

 そは脱出用のロープで、もしも柵から客が落ちてしまった際の救助用具の一つだった。


「ノゾミ、賢治さん、捕まってっ!」


 2人上に、縄梯子が垂れ下がってくる。


「ノゾミ、先にいけっ!」


 ワニを牽制しながら、ノゾミを促す賢治。


「いいのっ?一緒にいきましょう」

「無理だ、それ一人用だろっ!早くっ!、いいから早くいけっ!」


 ワニがせまっている。

 賢治は懸命に棒切れを振り回し、ワニを追い払う。


 ノゾミは瞬時に状況を判断する。

 自分が先に登るのが、賢治を救うことになると。


「分かった。賢治、すぐきてねっ!」

「おうっ!」


 ノゾミは縄梯子を上りだす。

 しかし、中々上手くいかない。

 縄梯子は通常の梯子と違って上るのが難しいのだ。


 揺れるはしごを上るには、中々力がいる。

 慣れていないと上手く上れないのだ。


 だがノゾミは必死で少しづつ上っていく。

 少しでも早く上って、賢治が上れるようにする。


 一歩、一歩上に上っていく。

 入念に上っていく。



 だが・・・・それは遅かった。


「きゃああああああああー!」

「あああああああああーーーー!」

「うおおおおおおおおおーーー!」


 観客の悲鳴が上がる。


 ノゾミは観客の目線の先。

 つまり下を見る。

 

 すると・・・・

 

 な、なんと・・・・・賢治が足をワニに噛まれていたのだ。


「け、賢治ーーーー!」


 ノゾミは叫ぶ。

 賢治の足からはドクドクと血が出ている。

 ノゾミの最愛の人、賢治が目の前で食べられているのだ。


「だ、大丈夫だっ!、ノゾミ、まだ傷は浅ぁあああああぁぁぁああーーーいっ!!」


 叫ぶ賢治。

 無理やり棒切れを振り回してワニを叩いている。

 必死の抵抗だ。


「この、離せっ!離せって!」


 この時ノゾミは恐怖した。

 このままでは賢治が食べられてしまうと強く思ったのだ。

 自分の前で賢治が死んでしまうと。


 だが・・・・


 パンッ パンッ

 銃の音が鳴る。


 銃をもった飼育員、長い棒をもった飼育員、盾をもった飼育員が飼育場に入ってきたのだ。

 徐々にワニたちを追い払いだした。


 だが、まだ賢治までには距離がある。

 それに、賢治に噛み付いているワニだけはピクリとも離れない。

 

「くっ。このワニ・・・は、離れろっ!このっ!ワニっ!」


 棒で叩く賢治だが、ワニのウロコは固い。

 びくともしない。


 そしてそんなワニは、ユラユラと頭を揺らし始めた。

 ワニが体を回し始めたのだ。


 ノゾミは瞬時に思った。 

 この動きは前にみた光景と似ていた。

 エサを食べためにとったワニの動きと似ていたのだ。


 それはある種の動きの予兆だった。


 ノゾミは思った。


(まずい・・・・)


(この後に来るのは・・・・)


(ワニの必殺技、「デスロール」だと!)


 ワニは体をひねり、賢治の足をくいちぎりつもりなのだ。

 硬そうな肉にこの技が決まっていた。

 人間の足など木っ端微塵にくだかれるだろう。


 もはや、賢治の命は一刻の猶予もない。

 飼育員が間に合わないことは明白だった。


(わ、私が・・・・動くしかないっ!)


 ノゾミは決断したのだった。


 そして動いた。


 ノゾミはぱっと縄梯子から手を離す。

 重力に引かれ、落ちていく体。


 そして・・・・ワニの上に落ちた。


  ドゴンッ


「ぎゃあああああーーーー!」


 観客から悲鳴が上がる。

 

 だが、ノゾミは無事だった。

 これは狙い通り。


 ワニはノゾミに潰されたため、一瞬賢治の足を食いちぎるのを躊躇した。 

 回転をやめ硬直したのだ。

 何が起こったのかわからなかったのだろう。


 ノゾミは落ちて倒れた瞬間。

 ワニが気を抜いた瞬間。

 それを逃さなかった。


 素早くワニの口の中に手を入れる。


 記憶の中にある言葉を思い出したのだ。


~~~~


「うん。もしワニとの戦いになったら人が勝つのは難しいよ。でも勝つ方法がないわけじゃないんだ」


「どうするの?」

「棒か何かで目と鼻を狙うんだよ。そこしか弱点がないから。ウロコも皮膚も固いから」


「逃げちゃダメなの」

「いや、ワニは凄く動きが早いよ。すぐ追うのを諦める習性があるけど、普通に追いつかれる」


「じゃあ、噛まれたら」

「そしたら口の中に手を突っ込んで、舌とか、その奥にある小さな舌みたいなものを思いっきり掴んで、吐き出させる」


~~~~~~~~~


 記憶にある言葉を実践する。

 人がワニに勝つ方法を実践するのだ。


 ノゾミはワニの口の中。

 その奥にある舌のようなものを思いっきり掴み、力いっぱいひっぱったのだった。


「GUOOーーー!」


 反射的にワニが口の力を緩める。


「賢治、今っ!足を抜いてっ!」

「おうっ!」


 賢治が足を抜く。


 その直後。


「大丈夫ですかっ!」

「怪我はありませんかっ!」

「ご無事ですかっ!」


 飼育員達が到着した。

 ワニを麻酔銃でうって眠らすと、賢治を襲ったワニも大人しくなる。

 この場が人によって制圧されたのだ。



 こうして。

 賢治とノゾミは飼育員の方々に囲まれて、ワニ飼育場の外に運ばれたのだった。


 2人は助かったのだ。





 その後。

 賢治は病院に運ばれた。

 幸い致命傷にはならず、全治2ヶ月で済んだ。


 だが、病院に賢治の妻が来た。

 ここで事態が発覚したのだ。

 賢治とノゾミの不倫が露になった。

  

 賢治が手術室に運ばれていった後、賢治の妻とノゾミは2人で残された。



 2人の間に何が話されたのか、マイコは知らない。

 さすがに話を聞くのはさけたのだ。

 マイコは部外者なのだ。



 だが、ノゾミがマイコの元へ戻ってきた時。

 ノゾミは落ち込んでいた。




 その後。

 マイコは念のため病院で検査を受けた。

 今回は特に危ない目にあわなかったが、お腹の子供が心配だったのだ。

 だが杞憂だった。

 検査の結果は問題なし。

 

 マイコはお医者さんに教えられた地元の名物。

 『別府冷麺』を食べてから、ここ別府温泉を後にしたのだった。




 余談~~~~




 今回の事件は事故として扱われた。

 動物園のワニ園に落ちるという珍しい事件でもあったため、全国ニュースにもなった。

 偶々スマホで映像をとっていた観客の映像が、TVやネットでは流れた。


 ノゾミと賢治はカップルとして紹介された。

 周りの観客は2人がいちゃつく姿をみていたから、カップルと認識したのだ。

 まさか不倫の真っ最中の者だとは思わなかったのだ。



 だがノゾミと賢治を知っている者は、二人の不倫に気づく。

 その映像が全国放送されたのだから。


 勿論会社の同僚。

 賢治、賢治の奥さんの両親もだ。

 こうして2人の不倫は関係者に知れ渡ることになり、賢治とノゾミの一時は終わった。


 これ以上、ノゾミも賢治といる気はなかったのだ。

 状況が許さなかった。

 

 因みに、ニュースで流れた映像ではノゾミは絶賛された。

 自らワニの頭上に落ちて注意を引き、その上ワニ口の中に手を入れてワニの力を緩めたのだ。

 恋人のピンチを救ったヒーローだ。





 1ヵ月後。


 ノゾミは別府支局での最後の業務を終えた。

 あの事件の日から賢治はずっと入院中。

 結局会社にくることはなかった。


 ノゾミは賢治と別れたのだ。

 不倫は終わったのだ。

 これで終わり。

 また一つの恋が終わったのだ。

 恋が始まるのも、恋が終わるのもいつも突然。


 恋の終わりにはいつも寂しいもの。



 そしてノゾミは次の勤務地への辞令を受けた。

 正式に配属先が決まったのだ。




 ―――そこは日本の古都、古くは日本の中心地だった場所



 ―――歴史有る建物が現代も立ち並ぶ、鮮やかな都


 

 ―――そう・・・・京都だった




 ―――恋の舞台は、温泉沸き立つ「別府温泉」から、古の都、「京都」へと移るのだった。

短編投稿しました。

「ざまぁ」が書きたくなり、さらりと書いてしまいました。

冒険者系の「ざまぁ」になります。

宜しければご覧下さい。

『生産職の俺は彼女を寝取られたので、パーティーを抜けて自立することにした』

※ページ下部にリンク有り。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手ボタン設置中。一言感想を送ることができます。

 

短編投稿しました=冒険系ざまぁです。↓
生産職の俺は彼女を寝取られたので、パーティーを抜けて自立することにした

 

2章後半 (5話)から話の展開が異なります↓
妊娠した私を婚約破棄するって、気は確かですか?【ヒグマ格闘編(石狩鍋) 】

 

連載中=(数話で完結予定です)↓
3日後、婚約破棄されます。

 

同時連載中=↓
7人の聖女召喚~料理スキルLV80の俺は、おねえちゃんと世界最強になる

 

止まっていましたが、連載再開=↓
チートスキル「美容整形」持ちの俺は、目立ちたくないのにハーレムに
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ