↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『親の死因をワクチンの薬害だと言ったら陰謀論者認定されたので殺しちゃいました』  作者: ドネルケバブ佐藤


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/16

9話

よければ評価、感想、ブックマークお願いします!

面会から五日が経っていた。和也は休職の手続きこそ済ませたものの、実際に何から手をつければいいのか、まだ具体的な当てを見つけられずにいた。悠人が最後に残した「みんな、笑ってたんだ」「僕らの外側の話だよ」という言葉だけが、頭の中で繰り返し再生されては消えていく。


その夜、事態は和也の側からではなく、まったく別の場所から動き出した。


深夜零時過ぎ、登録者数百二十万を抱える暴露系配信者――「裏側チャンネル」を名乗る橘涼が、一本の動画を公開した。サムネイルには赤い文字で「【製薬会社の闇】決定的資料、入手しました」と躍っている。


「どうも、涼です。今日はいつもと違う話をします」


橘は珍しく神妙な顔つきでカメラに向かって切り出した。普段の煽り口調とは違う、意図的に抑えた声色だった。


「今回の白石誠一氏殺害事件、皆さんも当然追ってますよね。あの、謝罪しぐさの動画。あれについて、ちょっと看過できない情報が僕のところに届きました」


画面が切り替わり、モザイク処理された文書の画像が映し出される。


「これ、白石氏が役員を務める製薬会社から、とあるマーケティング会社に宛てた発注書の一部です。情報提供者は、身元の保護を条件に僕に託してくれました。中身、読み上げますね」


橘は文面をなぞるように読み上げた。


「『反ワクチン層への牽制施策として、SNS上で当該層を揶揄・軽視するトーン(嘲笑系ミーム含む)の投稿展開を希望。ターゲット層の心理的孤立感を煽る方向性で検討願います』――こう書いてあるんですよ」


さらに画面が切り替わる。二枚目は、実際に展開されたという投稿案の一覧だった。「反ワクチン=思考停止」「うちの子はワクチン打って元気です(笑)」といった煽り文句のサンプルが、箇条書きでずらりと並んでいる。


「これ、依頼された通りに作られた投稿サンプルらしいです。実際どこまで世に出たかは分かりませんが、少なくとも、こういう方向性で『検討してくれ』と、お金を払って発注していた事実はあるわけです」


コメント欄が一気に加速する。


「え、待って。これマジ?」 「ワクチン被害訴えてる人たちを、笑いものにする投稿を、お金払って発注してたってこと?」 「白石って役員、テレビで『反ワクチンは害悪だ』って言ってた張本人じゃん」


橘はその反応を見ながら、あえて感情を抑えた声で続けた。


「僕は、あの青年がやったことを擁護する気は一切ないです。人を殺していい理由なんて、どこにもない。ただ――もしこの資料が本物だとしたら、白石さんが繰り返し発言してきた『反ワクチンは根拠のないデマで、社会にとって害悪だ』という言葉の裏で、実際にこういう施策が動いていたことになる。これ、皆さんはどう思いますか」


動画は公開から二時間で百万再生を突破し、朝を待たずに関連のハッシュタグがトレンド上位を独占した。


「#製薬会社の闇」「#白石誠一の本性」「#嘲笑ビジネス」


これまで拮抗していた「#青年を支持します」「#人殺しを美化するな」という二つのタグは、一夜にして片方へと吸収されていった。


「もう分かりきってるじゃん。あの謝罪しぐさ、演技じゃなくて本当に良心の呵責だったんだよ」 「反ワクチンの人を笑いものにする投稿に金出してた会社が、被害者面してたってこと?」 「これ、単なる企業の不祥事じゃなくて、人の心を意図的に折りに行ってたってことだよね。悪質すぎる」 「殺されたことは気の毒だけど、同情できるかって言われると別問題だわ」


もちろん、すべてが一色に染まったわけではなかった。


「文書の出どころがそもそも怪しくない? モザイクだらけだし、捏造の可能性もあるでしょ」 「一企業の担当者レベルの発注書一枚で、役員本人の人格まで断定するのは違う気がする」


そうした慎重な声も一定数上がってはいたが、勢いを持った物語の前では、ほとんど掻き消されるように埋もれていった。誰もが「もっと分かりやすい答え」の方へ、雪崩を打つように流れていった。


昼のワイドショーでは、前日まで慎重な論調を貫いていたコメンテーターたちの声のトーンが、明らかに変わっていた。


「これはもう、単なる一企業の広報の失敗というレベルではないと思います」


年配の男性コメンテーターが眉をひそめながら言うと、隣に座る若手のコメンテーターも頷いた。


「反ワクチンを主張する方々の中には、実際にご家族を亡くされて、行き場のない怒りや悲しみを抱えている方も少なくないわけですよね。その方たちを『笑いものにする』方向で施策を組んでいたとしたら、これは倫理的に大きな問題です」


司会者が資料映像を指しながら続けた。


「白石さんご本人が、この施策にどこまで関与していたのかは、まだ分かっていない部分もありますが」


「いや」年配のコメンテーターが遮るように言った。「役員という立場である以上、知らなかったでは済まされないでしょう。むしろ、彼自身がメディアで繰り返し『害悪だ』と発言していたこと自体が、この施策と地続きだったと考えるのが自然です」


「一方で」若手コメンテーターが口を挟んだ。「殺害された事実そのものは、変わらないわけですよね。企業が悪いことをしていたとしても、それで殺人が正当化されるわけではない、という視点も忘れてはいけないと思います」


「もちろんです」年配のコメンテーターは頷きつつも、続けた。「ただ、世間がこれをどう受け止めるかは、また別の話でしょうね」


その言葉通り、番組が終わる頃には、SNS上の議論はすでに「殺人の是非」から「製薬会社の悪質さ」の方へと、完全に軸足を移していた。


同じ頃、白石の勤める製薬会社の前には、報道陣とともに、抗議のプラカードを掲げた数十人の人だかりができていた。


「謝れ! 謝れ!」


シュプレヒコールが繰り返される中、広報担当と思しきスーツ姿の男性が、社屋の前でマイクを向けられていた。


よければ評価、感想、ブックマークお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。