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『親の死因をワクチンの薬害だと言ったら陰謀論者認定されたので殺しちゃいました』  作者: ドネルケバブ佐藤


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8/16

8話

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その間、和也は何度か、当たり障りのないメッセージを送っていた。『元気にしてるか』『たまには顔見せろよ』。既読すらつかないそれらのメッセージを送るたびに、心のどこかで「そのうち、向こうから連絡が来るだろう」と高を括っていた自分がいたことを、和也は今更ながらに思い出す。


悠人が大学を中退していたことを知ったのは、一年ほど前、実家の片付けの件で大学から書類の確認連絡が来たときだった。窓口の職員は、事務的にこう告げた。


「桐生悠人さんですが、昨年度末で除籍の扱いになっております」


初耳だった。慌てて連絡を取ろうとしたが、電話は繋がらず、メッセージにも既読すらつかなかった。生活が困窮していたことも、あのコミュニティにどれほど深く入り込んでいたのかも、和也は何一つ知らなかった。知ろうとしなかった、と言った方が正しいのかもしれない。


去年の悠人の誕生日、和也は珍しく『誕生日おめでとう。元気にしてるか』とだけ送った。返信はなかった。その日はちょうど、和也自身の仕事が立て込んでいた時期でもあり、既読がつかないことに落胆しながらも、「まあ、そのうち」と自分に言い聞かせ、そのまま日常に流されていった。


忙しさを言い訳に、そのうち向き合えばいいと、問題を先送りにし続けた結果が、この十日間だった。


家に着いてからも、和也は悠人の最後の言葉を、何度も頭の中で繰り返していた。


「みんな、笑ってたんだ」


「僕らの外側の話だよ」


漠然とした言葉の断片は、パズルのピースのように、和也の中でうまく像を結ばなかった。あの陰謀論コミュニティの話でないとすれば、いったい何のことを言っていたのだろう。誰が、何を、笑っていたというのか。


これまでの和也であれば、きっとこの疑問にも「気にしすぎだ」と蓋をして、日常に戻っていたかもしれない。だが今は、それができなかった。あの日、悠人の訴えを「話半分に聞いておけ」と切り捨てた自分の姿が、あまりにも鮮明に重なって見えたからだ。


同じ過ちを、もう一度繰り返すわけにはいかない。今度こそ、ちゃんと聞かなければならない。悠人が何を見て、何を信じて、何によって追い詰められていったのか。それを知ることが、せめてもの償いになるのかどうかもわからないまま、和也はただ、そう思わずにいられなかった。


その夜、和也はノートパソコンを開き、これまで見ないようにしていた事件関連のニュースやSNSの投稿を、一つ一つ、あらためて読み返し始めた。「英雄」「代弁者」「モンスター」「殺人鬼」――以前見たときと同じ言葉が、相変わらず画面いっぱいに溢れていた。だが今度は、それらの言葉を、ただ受け流すのではなく、一つ一つの投稿の出どころや、根拠らしきものを、意識して確かめようとしている自分がいた。


答えがそこにあるとは、まだ思っていなかった。誰もが好き勝手に語るこの喧騒の中に、悠人が最後に口にした「みんな、笑ってたんだ」という言葉の答えは、どこにも見当たらなかった。


ふと、和也は悠人とのトーク画面を、もう一度最初まで遡ってみることにした。既読すらついていない自分からのメッセージの、さらに前――まだ二人がやり取りをしていた頃、悠人が送ってきたリンクがいくつか残っていた。当時は「またその手の話か」と、ろくに開きもせずに読み飛ばしていたものだった。その中の一つを、和也は初めて開いてみた。


リンク先は、すでに存在しないアカウントのページだった。「このツイートは削除されました」という表示だけが、そっけなく画面に浮かんでいる。だが、それを送ってきたときに悠人が添えていた短い一文だけは、まだそこに残っていた。


『これ見て。ひどくない?』


何が「ひどい」のか、投稿そのものはもう跡形もなく、和也には知りようがなかった。それでも、あの日読み飛ばしていた一文が、今になって、悠人の「みんな、笑ってたんだ」という言葉と、静かに重なった。あの時、たった一度でもこのリンクを開いていれば――そう思っても、もう遅かった。それでも、何もせずにいることだけは、もうできなかった。


翌朝、和也は再び会社に電話を入れ、しばらくの間、休職扱いにしてもらえないかと申し出た。理由を詳しく話すことはできなかったが、上司は今回も、深くは追及してこなかった。電話を切ったあと、和也は静かに息を吐いた。当面の生活のことより先に、確かめなければならないことがある。そのことだけは、はっきりしていた。


机の上に置かれた、消えたツイートのスクリーンショットにもならない、たった一文だけが残ったやり取り。それだけを手がかりに、いったい何を、どこまで調べられるのか。和也自身にも、まだ見当はついていなかった。それでも、悠人があの狭い面会室で見せた、あの平坦な目の奥にあったものを、このまま知らずに終わらせるわけにはいかない――その一点だけは、揺るがなかった。


窓の外はすでに暗くなっていた。和也はノートパソコンを閉じ、しばらくの間、ただ静かに座り続けていた。


明日からどこに、何を、どう調べればいいのか。具体的な当てなど、まだ何一つなかった。それでも、悠人が最後に見せたあの平坦な目を思い出すたびに、和也の中で、後戻りできない何かが静かに動き始めていた。


もう、誰かが与えてくれる「正しい説明」を待つつもりはなかった。今度こそ、自分自身の目で、確かめに行く。それだけが、和也にできる、ただ一つのことのように思えた。

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