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『親の死因をワクチンの薬害だと言ったら陰謀論者認定されたので殺しちゃいました』  作者: ドネルケバブ佐藤


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7/16

7話

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思えば、和也自身も、両親の死をうまく受け止められていたわけではなかった。ただ、悲しみに沈んでいく悠人を前にして、自分まで感情に流されるわけにはいかないと、無意識のうちに思い込んでいた節がある。誰かが冷静でいなければ、家のことも、手続きのことも、何一つ前に進まない。その役割を自分に課すことで、和也は自分自身の悲しみから、目を逸らしていたのかもしれなかった。「正しい説明」にこだわったのも、突き詰めれば、感情そのものに向き合うことから逃げるための、もっとも安全な手段だったのだと、今になって思う。


両親が相次いで亡くなったあと、悠人はしばらく、和也の家に泊まりに来ていた。葬儀の後始末や、役所の手続きを二人でこなしながら、あの頃はまだ、普通に軽口を叩き合える関係だった。


葬儀の日のことも、和也はよく覚えている。読経が流れる中、悠人はずっと俯いたまま、一度も涙を見せなかった。周囲の親戚たちが「気丈な子だ」と口々に言うのを聞きながら、和也はむしろ、その様子に薄い違和感を覚えていた。あれは気丈だったのではなく、ただ現実を受け止めきれずにいただけだったのかもしれないと、今なら思う。だが当時の和也は、その違和感を深く掘り下げることをせず、目の前の手続きに追われるまま、時間だけが過ぎていった。


「兄さん、これ、印鑑どこに押すんだっけ」


「そこじゃない、こっち。お前、字が汚すぎて銀行の人に二度見された」


そんな会話を交わしながら、二人でなんとか喪失を乗り越えようとしていた時期が、確かにあった。


異変を感じ始めたのは、四十九日を過ぎた頃だった。悠人が、やたらと「因果関係」という言葉を使うようになった。


「兄さん、これ見て。うちの親と同じ症状で亡くなった人、他にもたくさんいるらしいよ」


差し出されたスマートフォンの画面には、見知らぬ掲示板のスクリーンショットが表示されていた。和也はそれを一瞥し、あまり深く考えずに答えた。


「こういうのは、話半分に聞いといた方がいいぞ。因果関係があるように見えても、実際は別の要因が絡んでることが多いから」


「でも、症状が細かいところまで一致してるんだよ」


「一致してるように見えるだけかもしれないだろ。人間は、パターンを見つけたがる生き物なんだ。関係ないものを、勝手に結びつけちゃうんだよ」


その時の和也には、悪気は少しもなかった。ただ、混乱している悠人を、なんとか現実的な方向に引き戻したかっただけだった。だが、悠人の顔から、少しずつ表情が消えていったことに、和也はその場では気づけなかった。


半年ほど経った頃、和也は久しぶりに悠人のアパートを訪ねたことがあった。部屋の中は、以前よりも散らかっていた。テーブルの上に置かれたノートパソコンの画面には、見慣れない掲示板やSNSのタブが、いくつも開きっぱなしになっていた。


「お前、最近、大学はちゃんと行ってるのか」


「行ってるよ、たまに」


「たまに、って」


「うるさいな。兄さんには関係ないだろ」


苛立ったような口調に、和也はそれ以上踏み込むことができなかった。玄関先に置かれた靴の数が、以前より増えていることにも、その時は気づかなかった。あの時、無理にでも部屋に上がり込んで、画面の中身をちゃんと確かめていれば――今になって、何度もそう思う。だが当時の和也には、それは「余計なお節介」に思えて、結局、二言三言交わしただけで帰ってしまった。


その後も、似たようなやり取りが何度か繰り返された。悠人が新しい「証拠」を見つけてくるたびに、和也は「ネットの情報を鵜呑みにするな」と繰り返した。


ある時、悠人は電話越しに、興奮した様子でこう言ったこともあった。


「兄さん、これ見てよ。同じ町内会の人にも、似たような症状で亡くなった人がいるらしいんだ。偶然にしては、多すぎない?」


「それ、誰から聞いたんだよ」


「掲示板の人が調べてくれた」


「お前、それ、裏取りしたのか。相手の身元もわからないのに」


「兄さんは、いつもそうやって、疑うことしかしないんだね」


「もういいよ。兄さんには、話すだけ無駄だった」


そう言って、悠人は先に電話を切ってしまった。かけ直しても、二度と繋がることはなかった。電話の向こうで、悠人の声が少しずつ硬くなっていくのを、和也は感じ取っていた。それでも、あの頃の和也は、「正しさ」を伝えることの方を優先してしまっていた。良かれと思って口にしていた言葉が、悠人を少しずつ追い詰めていることに、当時の和也は思い至らなかった。


決定的だったのは、二回目の法要の帰り道だった。


「いいか、統計的に見て、ワクチンとの因果関係が証明された例は極めて少ない。お父さんとお母さんは、たまたま別の要因が重なっただけなんだ。ちゃんと専門家の話を――」


「兄さんは、専門家の話が聞きたいんじゃなくて、自分が納得したいだけだろ」


「……お前こそ、ネットの変な連中の話を鵜呑みにしてるだけじゃないのか。あんな連中、お前を利用してるだけかもしれないんだぞ」


「あの人たちは、少なくとも僕の話をちゃんと聞いてくれる。兄さんは、僕を黙らせたいだけじゃないか」


「頼むから、変なコミュニティから離れてくれ」


和也が最後に絞り出したその一言に、悠人は何も答えず、ただドアを閉めた。


あの一言が、和也の中に長く刺さったまま残ることになるとは、その時はまだ、思いもよらなかった。


その一ヶ月後、和也は一度だけ、悠人のアパートを訪ねたことがあった。インターホンを鳴らしても応答はなく、何度目かに、ドアの向こうから小さく声がした。


「……帰って」


「話をしに来ただけだ。ちょっとでいいから」


「今は、無理」


それきり、物音一つしなくなった。和也はしばらくドアの前に立ち尽くしていたが、やがて何も言えないまま、その場を後にした。あれが、直接顔を合わせる最後の機会だったのだと、今になって思う。


あの日から、まともに顔を合わせることも、声を聞くこともないまま、二年が過ぎていた。

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