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『親の死因をワクチンの薬害だと言ったら陰謀論者認定されたので殺しちゃいました』  作者: ドネルケバブ佐藤


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4/16

4話

夕方になる頃には、タイムラインは完全に二つの陣営に分裂していた。片方は彼を「声なき被害者たちの代弁者」として祭り上げ、もう片方は「陰謀論に飲まれた異常な殺人者」として断罪した。「#桐生悠人を支持します」というタグと、「#人殺しを美化するな」というタグが、同じトレンド欄の中で、隣り合ったまま伸び続けていた。


奇妙なことに、どちらの陣営も、白石という一人の人間が実際にどんな人物だったかについては、ほとんど関心を示さなかった。彼は、ただ「謝罪しぐさを見せた悪徳役員」として、物語の中に固定されていた。


白石が役員を務める製薬会社は、事件発生から半日ほど経ってから、ようやく短い声明を公式サイトに掲載した。


「弊社役員が巻き込まれた事件について、現在事実関係を確認しております。詳細が判明次第、あらためてご報告いたします」


たった数行のその文面は、火に油を注ぐ結果になった。「事実関係の確認って、認めてるようなもんじゃん」「隠蔽の匂いしかしない」といった投稿が、声明のスクリーンショットとともに拡散していった。会社側の沈黙は、雄弁な言葉よりも、はるかに雄弁に受け取られてしまうのだと、この時はまだ誰も、そこまで意識していなかった。


日付が変わる頃には、事件はもう国内だけの話題にとどまらなくなっていた。海外のニュースサイトが「ワクチン被害を訴えた青年、製薬会社幹部を生配信中に殺害」という見出しで取り上げ、一部の国では、ワクチン政策そのものへの不信と結びつけられて論じられ始めた。日本国内の議論とは微妙にずれた文脈で、この事件は、まったく別の物語として世界中に運ばれていった。誰も、当事者たちの実際の姿には触れないまま。


皮肉なことに、その日の夜のニュース特集では、事件そのものよりも、「SNS上で世論が真っ二つに割れている」という現象自体が、一つの話題として取り上げられるようになっていた。コメンテーターたちは、青年の行動の是非よりも、なぜこれほどまでに意見が対立するのかという、いわば分断そのものについて議論を交わした。誰かの死や、誰かの苦しみよりも、「議論が盛り上がっていること」自体が、番組の尺を埋めるコンテンツになっていた。


その頃、街の反対側では、桐生和也(きりゅう かずや)がまだ何も知らないまま、眠りについていた。


スマートフォンが鳴り始めたのは、午前七時を少し過ぎた頃だった。最初は無視した。仕事の日でもない土曜日に、朝からかかってくる電話など、ろくなものではないと思っていた。だが、着信は一度切れても、またすぐにかかってきた。


「……はい」


寝ぼけた声で応答すると、電話の向こうから、聞き覚えのある声がした。母方の叔母だった。


「あんた、テレビ、見た?」


「テレビ? 何の話」


「いいから、今すぐつけて。ニュース、どこでもいいから」


叔母の声は、震えていた。ただごとではないと悟った和也は、リモコンを探しながら、半信半疑でテレビをつけた。


――昨夜未明、都内のマンション前で、男性が男に刃物で刺され死亡する事件がありました。男性は死亡が確認されており、警察は殺人事件として捜査を進めています。この様子は当時、男によってインターネット上に生配信されていたとみられ――


画面には、白石誠一という名前と、彼の顔写真らしきものが映し出されていた。和也には見覚えのない名前だった。だから最初、彼はこれが自分に関係のあるニュースだとは、まったく思っていなかった。


「叔母さん、これがどうかしたの」


「まだ、名前は出てないみたいだけど……」叔母は言葉を選ぶように、一度言い淀んだ。「さっき、知り合いから連絡があって。配信の画面に映ってた男の子、うちの子に似てるって」


「……は?」


「悠人」


その一言で、和也の頭の中で何かが、音を立てて止まった。


「そんなわけ、ないでしょう」声が、自分でも驚くほど平坦に出た。「あいつが、そんなことするわけない」


「私だってそう思うよ。でも、配信のアーカイブを保存してた人がいて、それがもう、あちこちに回ってるって……あんた、確認できる? 見るのは辛いだろうけど」


電話を切った後、和也はしばらく、テレビの前で動けなかった。やがて震える指で、自分のスマートフォンに保存されていた弟の写真を開き、ニュースに映っていた不鮮明な男の輪郭と、何度も見比べた。似ている、というより――それは、紛れもなく弟だった。着ていたパーカーにも、見覚えがあった。二年前の誕生日に、兄が贈ったものだった。


震える指で、動画を検索した。見なければいい、と頭のどこかで警告する声がしたが、指は止まらなかった。


見つけた動画は、すでに再生数が百万を超えていた。


画面の中で、弟が語っていた。両親のこと。病院のこと。誰にも聞いてもらえなかったこと。兄の耳には、その声が、あの夜――法要の帰りに交わした言葉の延長線上にあるように聞こえた。あのとき、もっと違う言い方をしていれば。もっと、話を最後まで聞いていれば。


そして、映像は、あの瞬間に切り替わった。


和也は、最後まで見ることができなかった。画面を閉じ、スマートフォンを床に放り出すと、両手で顔を覆った。


しばらくして、着信音がまた鳴った。今度は知らない番号だった。震える手で応答すると、抑揚のない男の声が聞こえた。


「警視庁の者です。恐れ入りますが、ご家族の確認をお願いできますでしょうか」


「……はい」


「昨夜発生した事件について、現在身柄を確保している男性がおりまして、ご家族に相違ないかどうか、こちらまでご足労いただけますでしょうか」


「あの……弟は、今、どういう状態なんですか」


「詳細については、こちらでお話しできる立場にありません。まずはご来署いただいてから、あらためてご説明します」


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