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『親の死因をワクチンの薬害だと言ったら陰謀論者認定されたので殺しちゃいました』  作者: ドネルケバブ佐藤


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13/19

13話

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同じ配信を、別の場所で、別の人間が見ていた。


その社員は、自宅の暗い部屋で、スマートフォンの画面を見つめていた。橘の口から「情報源」という言葉が出るたびに、指先が冷たくなる。


「全然連絡返ってこなくてさ」


その言葉どおり、橘からのメッセージは、あの日以来、何通も届いていた。『続報ありますか』『次のネタください』。どれも開かないまま、通知は切ってある。


自分が渡したものが、今、どこまで広がって、誰を、どう変えているのか。それを直視するのが怖くて、それなのに、画面から目が離せなかった。


やがてその社員は、そっと配信を閉じた。だが、閉じたところで、胸の奥の石が軽くなることはなかった。


配信が終わっても、和也はしばらく、動かなかった。


橘涼は、人の死を扱っているという意識すら、持っていないように見えた。そういう人間に、悠人の名前を差し出す。それは、悠人を消費した側と同じ場所に、自分から足を踏み入れることだった。


『兄さんは、専門家の話が聞きたいんじゃなくて、自分が納得したいだけだろ』


二年前の悠人の声が、蘇る。今度は違う、と言い切れる自信は、なかった。


それでも、弁護人の言葉が、頭をよぎる。誰が、いつ、何のために作った文書なのか。それを確かめられるのは、今のところ、あの男が握っている糸の先だけだ。そして、あの男が唯一、反応する言葉も、今夜、はっきりした。


和也はノートパソコンを引き寄せ、DMの新規作成画面を開いた。何度も書いては消し、最後に残ったのは、短い文面だった。


「桐生悠人の兄です。 先日、拘置所で弟と面会しました。弟は、あなたの動画の内容と重なる言葉を口にしていました。 あの資料の出どころについて、お聞きしたいことがあります。私に話せることは、お話しします。 直接、お会いできませんか。」


弟の言葉そのものは、書かなかった。それだけが、和也に引けた、ぎりぎりの線だった。


送信ボタンにかけた指が、一瞬、止まる。それから、押した。


返信は、七分後に来た。


『え、マジっすか?』 『ガチで兄貴さん? やばw』


続けて、もう一通。


『本物かどうかは正直どっちでもいいっすw 会って話が面白かったらOKなんで』


和也は、その一文を、しばらく見つめていた。それから、指を動かした。


『証明できるものは、お会いしたときにお見せします。ただ、撮影と配信はお断りします。話を聞きたいだけです』


『えー、きびしーw あ、ちなみに犯人とは仲よかったんすか? 仲悪かった?w』


『それは、お会いしたときに』


仲がよかったのか、悪かったのか。その問いに、和也は、自分でも答えを持っていなかった。二年前までは、仲がよかったと言えたはずだった。今は、そう言い切る資格が、自分にあるのかどうかさえわからない。


『ワクワクしてきたw まあいいっす。会ってから考えましょ。明日の午後、空いてます?』


『空いています』


『情報源のことは、どこまで話していただけますか』


『知ってる範囲でっすよー。大したこと知らないっすけどw まあ、来てからのお楽しみってことで』


『じゃあ住所送ります。スタジオ兼事務所みたいなとこなんで』


数秒後に、住所と、駅からの道順が送られてきた。和也はそれを、メモ帳の最後の行の下に書き写した。


『情報源は、中の人間』


その一行の下に、橘涼の住所が並ぶ。


これは取引だ、と和也は自分に言い聞かせた。悠人を売るわけではない。ただ、橘涼が欲しがるもので、橘涼だけが持っているものを、買うだけだ。


それが本当に、そう言い切れるものなのかどうか。今夜のところ、答えは出なかった。


ノートパソコンを閉じると、部屋には、街の音だけが残った。


翌日の午後、和也は、指定された駅の改札を出た。


駅前の大型ビジョンには、ニュースの映像が流れていた。白石の顔写真と、「製薬会社の闇」という白い文字。だが、足を止める人は、もう誰もいなかった。和也は、その前を通り過ぎた。


弁護人には、会ったあとで連絡するつもりだった。何がつかめるのか、自分でもわからないうちは、報告のしようがない。そう自分に言い訳をしていることに、和也は気づいていた。


送られてきた住所は、古い雑居ビルの四階だった。廊下の突き当たりに、社名の看板も何もない、ただのスチールのドアがある。和也は一度、深く息を吸ってから、インターホンを押した。


ややあって、ドアが開いた。


「あ、どーもー。兄貴さん? 入って入って」


画面の中で見た顔が、画面の中と同じ笑顔で、そこに立っていた。


その肩越しに、部屋の奥が見えた。三脚に据えられたカメラ、リングライト、何台も並んだモニター。そのすべてが、いつでも回せる状態で、こちらを向いている。和也は、玄関の敷居をまたぐ前に、もう一度だけ、深く息を吐いた。

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