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『親の死因をワクチンの薬害だと言ったら陰謀論者認定されたので殺しちゃいました』  作者: ドネルケバブ佐藤


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12/16

12話

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橘が見せた投稿サンプルと、よく似た言い回しが、そこにいくらでも並んでいた。「うちの子はワクチン打って元気です(笑)」。アイコンが猫の写真だったり、家族旅行の写真だったりする、ごく普通の人々のアカウントだった。家族を亡くした誰かの投稿に、嘲笑のミームを返信し、数万の「いいね」を集めている者もいた。


これが、発注された投稿なのか。それとも、ただ流れに乗った誰かの投稿なのか。画面の上では、その違いを見分ける方法は、どこにもなかった。発注書が本物だったとして、それだけで「みんな」を説明できるはずがない。和也は、メモ帳に、その疑問を書き足した。


『誰が頼んで、誰が乗ったのか』


午後三時過ぎ、見覚えのない番号から着信があった。警戒しながら出ると、落ち着いた女性の声が聞こえた。


「桐生和也さんでいらっしゃいますか。悠人さんの弁護を担当しております、国選弁護人の者です」


女性は名乗り、事務的な挨拶を手短に済ませた。


「先日は、面会にいらしたと伺いました。悠人さんの様子は、いかがでしたか」


「……落ち着いてました。落ち着きすぎているくらいに」


「ええ。私が接見したときも、同じ印象です。事件の経緯については、聞かれたことに淡々と答えてくれます。ただ、背景についてはほとんど話してくれません。『言っても仕方ない』と」


その言葉に、和也は拘置所のアクリル板越しの声を思い出した。


「弁護人として、お伺いしたいことがあります。橘涼さんの動画は、ご覧になりましたか」


「はい」


「弁護側でも把握しています。あの資料が本物であれば、量刑を考える上で、意味を持つ可能性はあります。ただ現時点では、出所の分からない動画にすぎません。法廷に出すには、資料の真正性と、悠人さんの行動との関連を、こちらで立証する必要があります」


「立証、というのは」


「誰が、いつ、何のために作った文書なのか。実際に投稿として世に出たのか。悠人さんがそれを目にしていたのか。そのすべてです。今の段階では、どれも確認できていません」


和也は、しばらく黙っていた。それから、正直に言った。


「あの動画を出した人に、会おうと思っています」


電話の向こうで、短い沈黙があった。


「……お気持ちは、理解できます。ただ、率直に申し上げると、ご家族が独自に動かれることは、あまりお勧めしません。取材に応じたり、ご自身で発信されたりすると、証拠の信用性や、裁判員の心証に、思わぬ影響が出ることがあります」


「発信は、しません。話を聞くだけです」


「それでも、です。その方から得た情報は、私どもではそのまま使えません。ですので、もし何かわかったことがあれば、必ず、先に私に連絡してください。こちらで裏付けを取ります」


「……わかりました」


「それと、一つだけ」女性は、少し間を置いた。「悠人さんに、面会に来たお兄さんのことを尋ねたとき、『別に』とだけ答えていました。ただ、否定はしませんでした」


その一言を、和也は、うまく受け止められなかった。安堵と呼ぶには、あまりにも頼りない言葉だった。


電話が切れたあとも、和也は携帯を握ったまま、しばらく動けなかった。止められたわけではない。ただ、これが自分一人の償いの話ではなくなった、という感覚だけが、はっきりと残っていた。


夕方、郵便受けを開けると、封筒が二通入っていた。どちらも、週刊誌の編集部からだった。手書きの添え書きには、「ご家族としてのお気持ちを、ぜひお聞かせください」「謝礼のご用意があります」とある。


和也は、それを読まずに、そのままゴミ箱に入れた。悠人の名前で、誰かが数字を欲しがっている。その事実だけが、指先に嫌な感触として残った。


夜になって、叔母から電話がかかってきた。


「和也? 大丈夫? こっちにも、週刊誌の人が来たのよ」


「叔母さんのところにも?」


「何も話さなかったけどね。あんた、変なことに巻き込まれてないでしょうね」


「……調べてるだけだよ。悠人が、何を見てたのか」


「そんなの、警察や弁護士さんに任せればいいじゃない」


「任せきりにして、二年、何も気づかなかったから」


電話の向こうで、叔母は黙り込んだ。やがて、小さな声が返ってきた。


「……無茶だけは、しないでよ」


「うん」


その夜、橘涼の緊急配信が始まったのは、二十二時ちょうどだった。


和也は、ノートパソコンの前に座った。画面の右側には、猛烈な速さでコメントが流れ続けている。同時視聴者数は、十二万を超えていた。


「はいどーも、裏側チャンネルの涼です! いやー、昨日の動画、ありがとね。二百万いったよ、マジで!」


昨日の神妙な顔つきは、跡形もなかった。画面の中の橘は、椅子にふんぞり返り、満面の笑みを浮かべている。


「みんな、めっちゃコメントくれてるじゃん。えーと、『情報源は誰ですか』? 言うわけないじゃん(笑)。ていうか、俺も詳しくは知らないのよ。向こうが勝手に送ってきて、はい、どうぞ、って感じで」


橘はコメントを読み上げながら、大げさに肩をすくめた。


「むしろ聞いてよ。あの後、全然連絡返ってこなくてさ。せっかく続報ほしいのにー。まあ、いいんだけど(笑)」


「続報あるんですか、だって? あるよ〜。あるかもしれない。あることにしとく? まあ、期待しといて」


コメント欄が、「wwww」「はよ」「焦らすな」で埋まっていく。


「『白石は悪人ですか』? 悪人でしょ、知らんけど(笑)。だってさ、悪人の方が盛り上がるじゃん。実際どうかなんて、正直、俺にはどうでもいいんだよね。みんなが見たいのは、悪い奴が出てくる話でしょ?」


橘の軽い笑い声が、和也の耳の奥で、嫌な音を立てた。


「あ、スパチャありがとうございます! 『犯人の家族に話を聞いてきてください』。……あー、それ、いいよね。それ絶対回るわ」


橘は、身を乗り出した。


「犯人の家族って、今どうしてんだろうね。兄弟とか、いるのかな。もし見てたら、DM開いてるんで、連絡ちょうだい。ノーギャラだけど、めっちゃ回ると思うよ、マジで(笑)」


和也は、画面から目を離せなかった。胃のあたりが、ゆっくりと冷えていく。


コメント欄には、次々と言葉が流れていた。


「家族も同罪でしょ」 「家族出てこいよ」 「いや、家族に罪はないだろ」 「でも話は聞きたい」

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