1話:登山は厳しい当たり前
※ここから4部になります。
よかったら1〜3部も読んでみてください。
森を抜け、雪山へ向かい
歩いているカナタとシオン。
その道中は、だんだん寒くなり
雪山に近づいているのがわかる。
「ぅぅぅ…だんだん寒くなってきたけど
循環のおかげで耐えられるね」
「うん!クローバのおかげだね!」
2人はいよいよ雪山の前に到着した。
道中より遥かに寒い。
これからこの雪山を越えなければならない。
とんでもなくデカイ壁だ…。
「寒くて大変だけど、
ここを進んでいかないと…カナタ行こう!」
「行くぞー!」
クローバに教わった循環で
体を整えながら登山を始める。
シオンの背負っているリュックは重たい。
けれど、循環のおかげかその重さを
そこまで感じず歩けている。
クローバが言っていた。
体温調整の他に応用ができると。
意識した訳では無いが自然と
適用された感じだった。
─ギシ…ギシ……
雪を踏むその音は独特な音だった。
不思議な感触に慣れなかったが
2人は素直に楽しんだ。
「シオン見て!足跡!すごく綺麗に残る!
あはは!楽しいー!」
「ホントだね!地面とはまた違うね!
おもしろーい!でも、カナタ
はしゃぎ過ぎると体力持たないよ?」
「シオンより平気ー!」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!しれっとムカつく!」
─やっと出番か。二人は相変わらずだな。
でも雪を見たらはしゃぎたいよな、オレは
絶対雪だるま作るぜ?
特にトラブルもなく中腹まで来た。
中腹に近づく途中でもチラチラ見えていたが
ここで本格的に『白い雪』が舞い始めた。
2人の意識と目は上から降る雪を
無視することは出来なかった。
そして、その場に止まってしまう。
「……こ…れ」
「……知ってる…気がする」
止まりたくて止まったんじゃない。
寒いから止まったんじゃない。
フラッシュバックが起きた。
「…はぁ、はぁ、頭が…体も……」
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
頭痛と体の震えと恐怖が、
先程まで平気だった2人を襲う。
お互い《循環》で体温調整と
呼吸を必死に整え、パニックに
なりそうな状態を一歩手前で耐えている。
辛うじてではあるが、意識は保てていた。
だがそれも…
──当然、長くは続かなかった。
カナタより体力がないシオンは
慣れない雪山の登山、容赦なく体温を奪う寒さ
そして、この時、そこまで感じてなかった
背負っているリュックの重さを
しっかりと感じてしまっていた。
そこへダメ押しのフラッシュバック。
「……シ、オン……?じゅっ…か…っを…」
カナタも戦い、抗っていた。
震える声で呼びかける。
しかし、シオンの耳には
もうその声は届いていなかった。
視界がチカチカと点滅し、
目の前の景色がぐにゃりと歪み…
「…あぁ……きっ……れ……ぇ……」
──ドサ…っ。
雪の音の中に全く違う
鈍い音がカナタの耳に届いた。
「シ…っ……オ……っ!?」
糸が切れた人形のように
雪の上に崩れ落ちてしまったシオン。
先に限界が来てしまった。
「っ…シ…オ……っ!ねぇっ…!おっ……き…てよ!」
カナタは酸欠で引きつる身体を
無理やり動かし、シオンにすがりつく。
激しい動悸と恐怖で、
自身の頭も爆発しそうに痛い。
けれど、必死にシオンに話しかけ
その震える手で体揺さぶった。
返事はない。
上空に吹いている風は激しさを増し、
冷酷な吹雪となって吹き荒れ始めた。
──雪山は2人を嘲笑っていた。
「…くっ……そ…」
止まったら死ぬと感じたカナタは
シオンと自分をこの吹雪から守るため動いた。
シオンを抱え、羽のコートを翼に変え
とにかくまっすぐ飛んで移動した。
「…っ……これっ……で……いっ…
い……っ……気に…」
雪山は飛ぶことを拒否してくる。
自然の前では、力自慢のカナタでも無力。
転がる石と同じ。
翼は愛用武器の数倍重く感じ、
少ししか飛ぶことが出来ず、地面に降りる。
カナタの限界はすぐそこだった。
この猛吹雪ではさすがのカナタの
自慢の目を見えないし役に立たない。
カナタはシオンにリュックの上から
被さるように倒れた。
持ち前の元気も、明るさも、消えていた。
猛吹雪に体温低下、フラッシュバック
平気でいれないのは当たり前だ。
「しっ………ろ…くなっ…い……」
意識が完全にぶっ飛ぶ直前だった。
「……はぁ、吹雪やばぁ〜。
私しか平気じゃないのなんで〜?
アイツらも……って、あれ〜?
誰か倒れてる〜?うわぁ……めんど〜…
おーい……生きてる〜?…ねぇ────」
誰かがいた、話しかけられた。
しかし、カナタにそれを
確認してる余裕は一切なかった。
──パチパチッ……パチッ…
カナタの意識はゆっくり戻ってきた。
パチパチと弾ける音と、何人かの声
声の中にはシオンの声も混じっている。
ゆっくりと重たい瞼を上げ、体を起こした。
「……あっ!」
シオンはゆっくり起き上がるカナタを見た。
「カナター!なかなか起きないから
心配したよ〜……大丈夫?」
シオンはいつも通り。
強化自然治癒力が働き元気だった。
カナタへかけた言葉も
特に変な言葉を発していない。
普通の内容を喋っただけだ。
しかし、生きるか死ぬかの瀬戸際にいて
まだ、それがそのまま残っている
カナタの反応は全く違うものだった。
まだ少しだけぼやけた視界で捉えたのは
シオンのすぐ背後に立つ見知らぬ3つの影。
カナタには「敵」に見えた。
シオンになにかしてると思った。
──『守らなきゃ』
スイッチが入ってしまった。
「……なにっ……してるの!
シオンか…ら離れろ…!」
考えるより先に体が動いた。
横に転がるハンマーを雑に掴み
重たい体を無理やり動かし
地面を蹴り、飛びかかる。
「ちょ、ちょっと!違うよ!
カナタ!この人達はドロップじゃないよ!」
「……はぁ〜〜…ダスト〜」
深いため息をついた女性の一言で
もう1人が即座に対応する。
「わんぱくな子〜、嫌いじゃないけど
落ち着いてちょーだいねっ」
「あはは!めっちゃ元気じゃん!
絶対『動』だよ!」
カナタは飛びかかった姿勢のまま静止した。
いや──『させられた』が正しい。
「……?!…あれ…なんで…動かない…!」
必死に動かそうと抗うがビクともしない。
「でも、このまま暴れられても困るし
話すらできないからまずは、落ち着かせましょう」
カナタの周りに『鱗粉』のようなものが漂っていた。
それはカナタの呼吸と共に体へ入っていく。
数秒後もしないうちに、さっきまでの
興奮は最初からなかったように落ち着いた。
「あれ…私……ここは…」
「ここは雪山にある洞穴って言うだって。
カナタ、体大丈夫?」
「え、うん、大丈夫…
(でも…なんで動かなかったんだろう…)」
カナタは動かなかった理由の方が気になった。
「あのね、私達が倒れてるのを助けて
洞穴まで運んでくれたんだよ。今は
外がすごいから止まるまで待ってるんだって。」
相変わらず猛吹雪の外。
外に出ようものならそれは死ぬのと同じだ。
「そ、そうなんだ……助かったんだ…」
カナタは自分達が助かった事を理解し安堵した。
お礼は言わない。いや、言えない。
『忘れてしまっている』から。
1人の女性がカナタに近づいた。
「ねぇ!カナタって動因子でしょ?
あの反応でわかる!あたしも動因子!
仲良くなれそうだね!」
「ちょっと、カナタちゃんの反応は動じゃなくても
普通でしょうよ…まったく……」
「えぇ?そうー?違うやつもいるよ絶対!
でもあたしは多分ああなるね!あはは!」
「……あぁ〜…やだやだ、やっぱり
無視すればよかったぁ〜寒かったし〜」
「((絶対しないくせに……))」
冷たい言葉の女性を心でツッこむ2人。
「……えっと…」
カナタは置いてけぼりだった。
全く状況が理解できない。
そんなカナタの様子を見て
洞穴の入口付近に立っていた女性が
改まって話し始めた。
「カナタちゃんも落ち着いたし
わたし達の自己紹介でもしましょうか
カナタちゃんの顔とても困ってるから、ふふ。
まずはわたしからねっ」
シオンは確認するように聞き始める。
カナタより先に起きて
3人と話していたため既に知っている。
「わたしはダストよ、
よろしくね、カナタちゃん。
因子は蛾、蝶が…よかった……。
カナタちゃんを止めて落ち着かせたのは
わたしが鱗粉を使ってやったの。」
「はい!次あたし!あたしはカリス!
よろしくね!カナタ!
因子はねぇ〜…えっと〜、
なんだっけ…名前長くて…」
「カリス、あなたは
リュウグウノツカイでしょ」
「あー!そうそう!それ!ダスト姉ありがと!
そんでね、あたしは水を少し
操れるのと水で色々武器作って戦えるよ!」
「ダストが私を止めた…
で、カリス、あとは……」
カナタはもう1人を見た。
触手をソファ代わりにし、そこに寝そべり
とんでもなくだるそうにしている。
「なんで見てるの?あぁ…。仕方ないなぁ〜…
私ゼラ〜よろしく〜
やる気のないヒョウモンダコだよ〜
触手で色々やる〜、あと毒効かないんだぁ…
そうそう〜…2人を運んだのは私〜」
ゼラの話し方はホントにだるそうで
めんどくさい感がとにかくすごい。
そんなゼラは普通に自己紹介をしただけ。
カナタには何もしてない。
「…はは……ゼラ…ね」と
カナタは苦笑いしつつも、ゼラを見て
そのだるさの中に強さを感じとっていた。
動因子としてか直感か。
それは分からない。けど…
「(…一番強い…と思う…。怖い。)」
自己紹介を終えたゼラは触手で遊び始めていた。
カナタはこの3人が
敵では無いことを理解し、自己紹介をした。
「私はカナタ…えっと…因子はカラスだよ
目がいいのと戦う時はコレ使う…」
カナタは愛用のハンマーを触る。
カリスが「持たせて!」と興味津々だった。
「私は普通の武器はもてるけど『使えない』
でも、持ってみたい!それ!いい?」
「え、うん…いいよ。
私も持てるから重くないよ」
──地面から離れすらしない。
「おーーーーーーッッも!!!!無理!
全然重いじゃん!嘘つきー!
てか、えっ!?これを持って戦ってたの!?」
「カリスで持てないなら、わたしも
ゼラ姉さんも無理ね。」
「えぇ…?私2人をここに運んでるんだけど〜?」
「……あっ…そうだった…」
ゼラとダストにカリスが話しかけてくる。
「いやアレ重すぎる…!
ゼラ姉よく持てるなぁ〜、てかさ
2人はいい凸凹コンビじゃない?!」
「ふふ、そうね。補い合ってる感じね」
「うらやまぁ〜
あと、別に重くないよアレ〜」
「ゼラ姉…ちっとも思ってないのと
悪気のない嫌味やめて……」
やや悲しげな顔で
苦笑いをするカリスをゼラは気にしない。
カナタとシオンを猛吹雪から助け
洞穴まで運び、助けてくれた
3人の適合者『ゼラ』『カリス』『ダスト』
この3人は何者か…
この3人の目的は……
そして、何より
その姿で何故──『普通』なのか。
焚き火の光に照らされた
彼女たちの姿は、この世界の
残酷な真実を『体現』しているようだった。
ダストは、薄紫の髪に
同色の蛾の触角を生やしている。
目玉模様が散りばめられた
巨大な羽ともいえるコートを着用し
黒いハイネックインナーの半袖と
ショートパンツの軽装
ニーハイブーツは蛾の模様がデザインされてる
片手に身の丈ぐらいの杖を持つ。
また、両前腕の真ん中辺りから
指先にかけては肌色はなくなっていて
黒く変わってしまっている。
そして、爪もやや長く先端にいくにつれ
細くなり尖っている。
基本的に静かで、
落ち着きのあるお姉さんのよう。
カリスは、銀と赤のロングヘア
そして、鋭く赤い鰭の耳と
頭からはその鰭がトサカのように出ている。
てっぺんと間隔をあけ左右に出ている。
黒いレザージャケットとショートパンツ
腰からは赤と青の尾ひれを思わせる
人ではないパーツがヒラヒラしている。
靴はグラディエーターサンダルを履いていて
両脚にはリュウグウノツカイのような
鱗が肌色の中に浮き出ている。
ゼラはフードを被っている。
そのフードから触手と一体化している
部分もある濃紫の髪と気怠げな目
少しボロボロのローブもまた触手と一体化してる。
ローブがなびいてるのか
触手がなびいてるのか…。
ローブの中は上は水着
下は膝ぐらいまでのズボン
それでも彼女は顔色ひとつ変えない。
また、触手は背後やゼラ自身からうねり立ち
見えている皮膚には
ヒョウモンダコ特有の青い輪紋が多数出ている。
触手を自在に操る彼女はそれを
椅子代わりにし、頬杖をついて
こちらを見据える。
3人の格好はとにかく雪山登山に適してない。
死んでてもおかしくない。いや、死ぬ。
舐めていると言われてもおかしくない。
登山は厳しいのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
新章として第4部「雪山編」全4話スタートです。
どうなるんでしょうね?
ブクマ等はお任せします。
ゆるく楽しんでいただければ、それで!
あ、ちなみに登山はしたことないです。




