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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード1ー純潔のミレニアムー
7/48

危なげなミレニアムー

その日、ミリィが一人でランチをとっていると、見知らぬ若者達がにこやかに声をかけてきた。

人懐っこい笑顔に、ミリィもつられるように小さく手を振り返す。


やがて男たちは彼女のテーブルまで近づいてきた。


「彼女、かわいいね!」


不意に向けられた言葉に、ミリィは一瞬きょとんとして、それから慌てたように視線を泳がせる。


「あ、え、ありがとう……ございます」


声が少し震え、頬がみるみる赤く染まっていく。

手に持っていたフォークをどうしていいかわからず、そっと皿の上に戻した。


「マジでかわいいな」


男の一人が楽しそうに笑う。


ミリィはさらに顔を赤くしながら、うつむき気味に肩をすくめた。

それでも、相手を不快にさせないようにと、控えめに微笑みを浮かべている。


小さな体が、緊張で少しだけ硬くなっていた。


その様子に、男達は楽しげに笑った。


「マジかわいいじゃん。今、何してんの?」


ミリィは手元にあったサンドイッチと紅茶の入ったカップに視線を落とし、それをゆっくりと持ち上げる。


「ランチ…です」


はにかみながらも、素直に答えた。


「ねぇ、ちょっと僕たち今困っててさー」


その言葉に、ミリィの表情がぱっと変わる。


「ハイ!どうしたんですか?」


困っている、という言葉に反応し、思わず身を乗り出すように答えるミリィ。


若者は少しだけ肩をすくめる。


「いやーこれから遊びに行くんだけど、男ばっかりでさー」


「?」


ミリィはきょとんと首を傾げる。


「君も一緒に来てくれないかなー?て」


「私も?一緒に…遊びに?」


ミリィはその言葉を、ゆっくりと自分の中で繰り返した。


サンドイッチを持つ手が、わずかに止まる。

彼女の中で、その誘いの意味を確かめるように、小さな思考が巡っていた。


ミリィは小さく息を吸い、意を決したように口を開いた。


「あ、あのー……私はあまり遊んだことがないのですが……どんな遊びですか?」


その問いに、若者たちは一瞬だけ顔を見合わせる。


そして、わざとらしくない程度に、自然な仕草で背中を向け、肩を組み合った。


声をひそめる。


「ほら、やっぱどっかの箱入り娘だって」


「やっば、当たりじゃん」


ひそひそとした会話は、しかし完全には隠しきれない微かな熱を帯びていた。


その場の空気が、わずかに変わる。


ミリィはそんな様子に気づかず、きょとんとしたまま、まっすぐ彼らを見ていた。


二人はまたミリィへと向き直る。


「そうだなー、歌ったりー踊ったりー?」


軽い調子のその言葉に、ミリィはぱっと顔を明るくした。


「あ、歌とダンスは得意です」


そう言って、嬉しそうに両手を重ね合わせる。


その様子に、若者の一人がさりげなくミリィの横へと並び、距離を詰める。


「あとー、こんなこと、したり?」


軽い口調のまま、ミリィの肩にそっと手を回す。


その瞬間、ミリィは少しだけ目を見開いた。


それから、回された手と若者の顔を交互に見つめる。


「時折、肩を組んでくる方がいいますけど……これにはどんな意味があるんですか?」


まっすぐで、曇りのない問い。


その言葉に、男たちは一瞬、言葉を失ったように固まる。


「うーわっ、まぶしっ」


思わず漏れたその一言は、場の空気をかすかに揺らした。


「とりあえず外に出ない?」


促されるまま、ミリィは素直に立ち上がる。


「どこに行くんですか?」


そう問いながら、若者の鼻先に顔をぐっと近付けた。


その距離の近さに、男は一瞬たじろぐ。だがすぐに笑顔を作り直した。


「いいねぇ!ノリノリじゃん!」


勢いよく、ミリィの両肩へ手を伸ばす。


――その瞬間。


「近い近い近い!離れろーって!」


割って入る声とともに、オセが二人の間へと飛び込んだ。


両手を広げ、ミリィと若者を強引に引き離す。


若者は眉をひそめる。


「なんだ?このガキ?」


ミリィはその場に小さく立ち尽くし、ふと表情を緩めた。


「……オセ、おはよぉ」


軽く手を振るミリィ。


「おはようじゃねぇわ!」


間髪入れずに、ポコンと軽い音が響く。


オセのチョップがミリィの頭に落ちた。


「きゃっ……」


ミリィは両手で頭を押さえ、目にうっすらと涙を浮かべる。


小さくうずくまりながら、じんわりと痛みを堪えていた。


ミリィは頭を押さえたまま、涙目で顔を上げる。


「何……するの〜?」


オセはため息混じりに、しかししっかりとした声でミリィに向き直る。


「ミリィ様!アンタ距離感バグってんだから、下手に男に近付くなって!」


続けて、オセは勢いよく若者たちへと体を向けた。


「こちらは剣聖ミレニアム様!俺は従者オセロット!」


言葉と同時に、軽く前へ出て、両手で追い払うように振る。


「悪い事言わねぇから、帰った帰った」


シッシ、と手で払う仕草。


若者たちは一瞬、その言葉の意味を測りかねるように目を細めた。

だが、剣聖という響きに、空気がわずかに変わる。


ミリィはまだ頭を押さえたまま、オセの後ろで小さく瞬きをしていた。


若者たちは、ミリィの姿を頭の先からつま先までゆっくりと眺めた。


少しだけフリルのついた水色のワンピースに、白いヒール。華奢な体に柔らかく似合うその姿は、どこか儚げで、守るような印象さえ与える。


だが、その視線には明らかな軽さが混じっていた。


「いやーないわ」


「なー?これで剣聖って言われても」


言葉とともに、半ば笑うような空気が流れる。


ミリィはその場に立ったまま、瞬きを一つした。

胸元で揺れる指輪のついたネックレスに、そっと指を添える。


「……?」


小さく首を傾げるだけで、怒りも不快も見せない。


ただ、相手の言葉の意味を静かに受け止めているだけの、まっすぐな眼差しだった。


その視線は、どこまでも穏やかで――だからこそ、余計に際立っていた。


男達は、しらけたように肩をすくめながらその場を離れていった。


その背中を見送ると、オセはミリィに向き直る。


「ちょっとそこに座ってくださいよ」


促されるまま、ミリィは素直に近くの席へと腰を下ろす。

向かいにオセが座ると、テーブルの上のカップに手を伸ばし、そのまま紅茶を一気に飲み干した。


「……あ」


ミリィは小さく声を漏らす。


「あ……それ私の……」


「いいですか?」


オセはカップを置くと、ミリィを真っ直ぐ見据えた。


「1.知らない人について行ってはいけません。はい、復唱ー」


ミリィは少しだけ目を伏せてから、素直に繰り返す。


「……知らない人にはついて行きません」


「2.男に近づき過ぎず、適切な距離を取る。はい」


「……男性には近づきすぎない……適切な距離をとる……」


「3.男に触られたら避ける。ハイ」


ミリィは一瞬、きょとんとした表情になる。


「男性に触られたら……避ける?」


小さく首を傾げる。


「...どうして?」

 

その問いに、オセは即座に身を乗り出す。


「どうしても!」


強い口調だった。


ミリィはその勢いに少し驚きながらも、じっとオセの目を見つめる。


その瞳は、まだ納得しきれていない色を宿していた。


ミリィは少しだけ首を傾げ、思い出すように視線を上に向けた。


「オセって……私の家のメイドみたい……同じこと言ってる」


その言葉に、オセは思わず肩を落とす。


「なんでそんなまともなメイドがいて、そーなったのか知りてぇっすわ」


呆れと心配が入り混じった声だった。


ミリィはきょとんとしたまま、指を口元に当てる。


「……なんでかなぁ……?」


本気で分からない、といった様子で小さく呟く。


オセは深くため息をつき、額を押さえた。


「そこから分かってねぇのが問題なんすよ……」


そのやり取りの温度差に、周囲の空気が少しだけ和らぐ。


ミリィはそんなことにも気づかず、ただまっすぐにオセを見ていた。


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