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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード7ー全国ツアー開始ー

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それは月の輝きー

クレタは連撃を捌きながら笑った。


「昔のてめぇの方がガッツあったぞ」


その言葉に。


ミリィの眉がぴくりと動く。


空色の瞳が細められた。


「……」


何も言い返さない。


ただ。


奥歯を強く噛み締める。


そして。


踏み込んだ。


これまでより深く。


強く。


地面が砕ける。


一歩でクレタの懐へ潜り込む。


神気が右拳へ集まる。


光が宿る。


拳が輝く。


そして――


放った。


轟音。


空気そのものを殴り飛ばしたような一撃。


クレタの瞳が見開かれる。


未来が警鐘を鳴らす。


危険。


極めて危険。


クレタは反射的に頭を逸らした。


拳が通過する。


ほんの数センチ横を。


金と黒の髪が切り裂かれた。


ふわりと宙へ舞う。


クレタが笑う。


口元を吊り上げながら。


「おっかねーっ」


さらに笑う。


「くくっ!」


心底楽しそうだった。


さっきまでとは違う。


今のは。


確かに届きかけていた。


クレタの未来視を。


クレタの反応を。


クレタの技量を。


力尽くではなく。


意志で。


覚悟で。


突破しかけていた。


クレタの瞳がぎらりと輝く。


「そうだ」


後ろへ跳ぶ。


距離を取る。


そして獰猛に笑った。


「それを待ってたんだよ」


ミリィは追う。


一歩。


二歩。


止まらない。


その顔から迷いは完全に消えていた。


ふいに。


クレタが後ろへ跳んだ。


大きく。


一息で。


二人の間に距離が生まれる。


ミリィの足が止まった。


追撃しようとしていた身体を抑える。


空色の瞳がクレタを見つめた。


クレタは肩で息をしながら笑う。


満足そうに。


どこか嬉しそうに。


「よぉーし!」


そして親指で自分を指した。


「まぁまぁ及第点をやろーじゃねぇか」


観客席がざわつく。


今までの戦いで。


まだ本気ではなかったというのか。


そんな空気が広がっていく。


クレタは振り返った。


闘技台の端。


そこに突き刺さったままの巨大な槍へ歩く。


月光十字槍アークルベーダ。


クレタが片手で柄を握る。


そして引き抜いた。


轟音。


石畳が砕ける。


槍が自由になる。


クレタは何度か回した。


ぶん。


ぶん。


ぶん。


巨大な十字槍が軽々と舞う。


まるで身体の一部のように。


やがて。


ぴたりと止まった。


構える。


月光十字槍アークルベーダ。


穂先が静かにミリィへ向けられる。


その瞬間だった。


クレタの顔から笑みが消えた。


空気が変わる。


観客席の歓声が遠ざかる。


誰もが息を呑む。


先程までの楽しそうな戦士はいない。


そこにいるのは。


かつて月光騎士団を率いた騎士団長。


神殿最強の槍。


クレッタルス・ハイランダー。


「月光十字槍アークルベーダ」


静かな声。


それなのに闘技場の隅々まで響いた。


クレタは槍を僅かに傾ける。


金色の瞳が細められた。


「――月の輝き」


風が止む。


空気が張り詰める。


ミリィも自然と構えを変えた。


本能が理解する。


ここから先は違うと。


クレタはゆっくり息を吐いた。


そして。


静かに告げる。


「見せてやんよ」


クレタがアークルベーダを握る。


長大な十字槍が唸りを上げた。


くるり。


くるり。


穂先が円を描く。


右手から左手へ。


左手から右手へ。


まるで槍そのものが生きているかのように、淀みなく回転する。


さらに。


クレタは槍を身体の周囲へ流す。


背中を通り。


脇を抜け。


肩の上を滑り。


再び正面へ。


長い槍であるにもかかわらず、指先で棒切れでも弄ぶような軽さだった。


風が鳴る。


ひゅるり、と。


穂先が空気を裂く度に音が重なる。


観客席が静まり返る。


ただ回しているだけ。


それだけなのに目を奪われる。


槍術というより演舞。


演舞というより技芸。


長年連れ添った相棒を確かめるように。


クレタはアークルベーダを遊ばせる。


そして。


最後に一度だけ大きく回した。


ぶん、と風が弾ける。


長大な十字槍がぴたりと静止した。


穂先は真っ直ぐミリィへ。


クレタは笑わない。


ただ静かに言う。


「さぁて」


金色の瞳が細められる。


「ここからだぜ、ミリィ」


ミリィが腰を落とす。


深く。


空色の瞳がクレタを見据える。


クレタはアークルベーダを構えたまま動かない。


「――月光はすべてを映し出す」


そして。


槍を振り下ろした。


その場で。


ただ一振り。


二人の距離は離れている。


届くはずがない。


それでも。


びりっ。


乾いた音が響いた。


ミリィの肩が震える。


視線を落とす。


純白のマントが大きく裂けていた。


「……!? そんな……触れてないのに!?」


クレタが笑う。


「常識に囚われんな」


ミリィは裂けたマントを見る。


そして。


肩の留め具へ手を伸ばした。


ぱちり。


金具が外れる。


純白のマントが肩から滑り落ちた。


そのまま闘技台へ捨てる。


風に煽られ。


白布が転がっていく。


クレタはアークルベーダを肩へ担いだまま笑う。


ミリィは何も言わない。


ただ再び腰を落とした。


先程よりも深く。


先程よりも低く。


空色の瞳が真っ直ぐクレタを見据える。


クレタの笑みが深くなった。


「……待っていたらやられる……」


ミリィが拳を握る。


空色の瞳に迷いはない。


「攻めないとっ!」


地面を蹴る。


その姿が消えた。


轟音だけが遅れて響く。


観客席からどよめきが上がる。


だがクレタは動じない。


アークルベーダを回し続ける。


長大な十字槍が身体の周囲を流れるように巡る。


穂先が。


柄が。


石突が。


絶え間なく軌道を描く。


そして。


クレタが呟いた。


「――月光はすべてを跳ね返す」


次の瞬間。


クレタの背後にミリィが現れる。


右拳。


全力の一撃。


だが。


クレタは振り返らない。


見もしない。


回転する槍の柄が。


まるでそこに来ると知っていたかのように。


拳を受け止めた。


鈍い衝撃音。


ミリィの瞳が揺れる。


「くっ……」


止まらない。


そのまま地面を蹴る。


クレタの側面へ回り込む。


右足を振り抜く。


鋭い蹴り。


だが。


やはり届かない。


アークルベーダが回る。


流れる。


槍の柄が足を受ける。


勢いを逸らす。


蹴りが空を切る。


クレタはまだ振り向かない。


ただ槍だけが動いている。


まるで月の周りを巡る星のように。


絶え間なく。


淀みなく。


ミリィの攻撃を弾き続ける。


「っ……!」


ミリィはさらに踏み込む。


拳。


肘。


膝。


蹴り。


四方八方から打ち込む。


しかし。


アークルベーダは止まらない。


柄が受ける。


石突が流す。


穂先が軌道を逸らす。


クレタ自身はほとんど動いていない。


それなのに。


一撃も通らない。


クレタが笑う。


まだ前を向いたまま。


「どうした」


槍が唸る。


「もっと来いよ」


ミリィの額に汗が滲む。


攻撃は届いている。


だが。


届いているだけだ。


当たらない。


掠りもしない。


クレタはなおも槍を回し続ける。


月光の輪のように。


ミリィが大きく後ろへ跳ぶ。


距離を取る。


肩で息をする。


乱れた呼吸を整えながら、クレタを睨みつけた。


クレタは追わない。


アークルベーダを回し続けながら、どこか楽しそうに口を開く。


「これはなー……」


槍が風を裂く。


ひゅるり、と音が鳴る。


「未来視だけでも」


回る。


「アークルベーダだけでも」


さらに回る。


「成り立たねぇ」


そして。


クレタはミリィへ視線を向けることなく言った。


「二つが揃って初めて――最強になるのさ」


その瞬間。


再び槍が振るわれる。


遠く離れた場所で。


ただ一振り。


ミリィの目が見開かれた。


びりっ。


胸元の布が裂ける。


「……っ!?」


慌てて胸元を押さえる。


風が入り込む。


服がはだけかける。


観客席から一斉にブーイングが飛んだ。


「おーい!」


「隠すなー!」


「見えねぇぞー!」


「そこじゃねぇだろー!」


野次と歓声が入り混じる。


ミリィの顔が一気に赤くなる。


耳まで真っ赤だった。


胸元を押さえたまま俯く。


恥ずかしい。


ものすごく恥ずかしい。


クレタはそんな様子を見て吹き出した。


「ぶはっ!」


肩を震わせながら笑う。


「相変わらずだなぁ、お前」


ミリィは何も言わない。


ただ顔を赤くしたまま。


数秒してから、そろそろと胸元から手を離した。


すると観客席から歓声が上がる。


「おおおおおっ!!」


「よっしゃー!!」


さらに顔が赤くなる。


ミリィは視線を逸らした。


クレタはまだ笑っている。


だがその手は止まらない。


アークルベーダが静かに回り続ける。


ミリィも深呼吸を一つ。


そして再び構えた。


恥ずかしさを振り払うように。


空色の瞳がクレタを捉える。


クレタの笑みが少しだけ深くなった。



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