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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード7ー全国ツアー開始ー

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少し先の未来をー

砂埃が舞う。


歓声が鳴り響く中。


ミリィは構えを崩さぬまま、小さく息を吐いた。


「……どうやらマリーナさんの言うとおり、みたいですね」


その名前に。


クレタの眉がぴくりと跳ねた。


「あの……警部様がなんだって?」


「今は大陸警察本部総長ですよ」


クレタは露骨に顔をしかめる。


そして舌打ちした。


「けっ」


肩を竦める。


「随分と偉くなりやがって……いけすかねぇ」


ミリィは苦笑した。


容易に想像できる反応だった。


「……マリーナさんが言ってました」


空色の瞳が真っ直ぐ向けられる。


「クレタさんは、未来を読んでる、と」


クレタが笑う。


楽しそうに。


嬉しそうに。


「へーぇ?」


口元が吊り上がる。


「知ってやがったのかよ」


ミリィは頷く。


「かつては……三秒」


「長くて五秒と、マリーナさんは読んでました」


クレタは黙って聞いていた。


そして。


ミリィが続きを口にする前に。


人差し指を一本立てた。


「十秒」


金色の瞳が細められる。


「十秒は軽くいけんだ」


獰猛な笑み。


「今のうちはな」


会場がざわつく。


意味は分からない。


だが何かとんでもない話をしていることだけは伝わる。


ミリィは小さく息を呑んだ。


十秒。


戦闘においては永遠にも等しい時間。


相手の動き。


選択。


攻撃。


防御。


全てを先に知っているに等しい。


だから。


あの槍だった。


だから。


あの回避だった。


だから。


あの反応だった。


クレタは肩を回しながら言う。


「まぁ正確には違ぇけどな」


「違うんですか?」


「あぁ」


クレタは笑う。


「未来が見えてるわけじゃねぇ」


そして自分のこめかみを指で叩いた。


「見えるのは可能性だ」


一度。


二度。


指先で叩く。


「てめぇがこう動く」


「その次こうする」


「さらにこう繋げる」


「そういう未来が何百、何千って見える」


金色の瞳が輝く。


「その中で一番可能性の高いもんを選んでるだけだ」


ミリィは静かに聞いていた。


クレタは肩を竦める。


「だから外れる時は外れる」


「でも」


そこで笑った。


「大抵当たる」


その言葉に。


ミリィも少しだけ笑った。


「十分ずるいですよ」


「はっ」


クレタは鼻で笑う。


「今さらだろ」


そして再び構えた。


拳を握る。


戦士の顔。


月光騎士団長の顔。


教皇ではない。


ただのクレタ。


「で?」


金色の瞳が向けられる。


「知ったところでどうする」


ミリィは答えない。


ただ。


ゆっくりと腰を落とした。


空色の瞳が静かに細められる。


クレタの笑みが深くなる。


「その顔だ」


次の瞬間。


二人の足元の石畳が砕けた。


ミリィが跳ぶ。


一息で。


高く。


観客席からどよめきが起こる。


クレタが視線を上げた。


金色の瞳が空を追う。


ミリィは空中で身体を捻る。


一回転。


その勢いを全て乗せるように。


右足を振り下ろした。


かかと落とし。


空気を裂きながら落下する一撃。


だが。


クレタは動かない。


避けない。


構えない。


ただ首を捻った。


それだけだった。


ミリィの踵が鼻先を掠める。


轟音。


石畳が砕け散った。


着地。


同時。


クレタの膝が跳ね上がる。


狙いは脇腹。


正確無比な一撃。


しかし。


ミリィは左手を差し込んだ。


ぱしっ。


膝を受け止める。


クレタの目が見開かれる。


そして。


笑った。


「いい!」


さらに笑みを深める。


「いいぞ!」


膝を押し込みながら叫ぶ。


「やっとやる気出しやがったな!」


ミリィは何も答えない。


ただ。


掴んだ膝を離さなかった。


そのまま。


右拳を放つ。


狙うは顔面。


鋭く。


速く。


迷いなく。


だが。


クレタはそれもかわす。


紙一重。


髪を揺らしながら。


まるで見えているかのように。


いや。


実際に見えている。


未来が。


可能性が。


そして。


かわしながら。


さらに膝を押し込んだ。


ミリィの体勢が崩れる。


ほんの一瞬。


わずかな乱れ。


クレタは見逃さない。


掴まれたままの足を。


そのまま伸ばした。


蹴り。


鋭く。


しなるように。


ミリィの横顔へ。


衝撃。


「っ――!」


顔が弾かれる。


金色の髪が舞う。


ミリィの身体が横へ流される。


だが。


倒れない。


足が地面を削る。


数歩。


数歩だけ後退し。


踏み止まる。


顔を上げる。


頬が赤く染まっていた。


クレタは笑う。


心底楽しそうに。


「そうだ」


拳を握る。


戦士の目。


「それでいい」


金色の瞳が細められる。


「もっと来い」


そして一歩踏み出した。


今度は。


クレタの方から。


「新たなる神殿が教皇――クレッタルス・ハイランダー」


クレタが笑う。


獰猛に。


誇らしげに。


そして胸を張った。


「推して参る!」


地面が砕けた。


クレタが駆ける。


速い。


だがただ速いだけではない。


その姿には無駄がなかった。


両腕。


両脚。


そこだけを白銀の甲冑が覆う。


攻撃と防御に必要な場所のみ。


対して胴体は極限まで装甲を削ぎ落としている。


露出した腹部。


細い腰。


軽量化。


可動域。


全てを優先した装備。


騎士の鎧ではない。


戦うためだけの鎧。


そこにクレタという女の思想が現れていた。


「やっぱ戦いはステゴロだろぉっ!」


鉄槌のような拳が振り抜かれる。


ミリィは足を上げた。


受ける。


衝撃。


その勢いを利用して跳躍。


空中へ逃れる。


だが。


クレタの手が伸びた。


「なっ!?」


足首を掴まれる。


空中で。


完全に。


ミリィの顔色が変わる。


クレタが牙を剥いた。


「甘ぇんだよっ!」


そのまま振り下ろす。


躊躇なく。


容赦なく。


ミリィの身体が叩きつけられた。


轟音。


闘技台が砕ける。


石畳が吹き飛ぶ。


土煙が舞い上がる。


観客席から悲鳴が上がった。


だが。


クレタは手を離さない。


足首を掴んだまま。


さらに振り上げる。


「まだだろぉっ!」


今度は反対側へ。


叩きつける。


二度目の轟音。


地面が陥没する。


まるで巨大な槌で殴りつけたようだった。


それでも。


クレタは笑っている。


楽しそうに。


心底嬉しそうに。


「どうした剣聖!」


三度目。


振り上げる。


「こんなもんじゃねぇだろ!」


振り下ろす。


闘技場全体が揺れた。


そして。


四度目を振り下ろそうとした瞬間。


クレタの目が細くなる。


未来が見えた。


十秒先。


その瞬間。


クレタは足首を離して飛び退く。


直後。


轟音。


土煙の中からミリィの蹴りが突き抜けた。


空を裂く一撃。


もし離れていなければ。


まともに受けていた。


クレタが笑う。


「そうだ」


金色の瞳が輝く。


「それでいい」


土煙の中。


ゆっくりとミリィが立ち上がる。


髪は乱れ。


頬には土が付いている。


だが。


空色の瞳だけは。


先程までより遥かに鋭くなっていた。


クレタの頬を汗が伝う。


それは疲労ではない。


興奮だった。


金色の瞳がぎらつく。


「そぉだ……」


口元が吊り上がる。


「うちの先読みを超えて来いっ!」


ミリィは答えない。


ただ静かに目を閉じた。


大きく息を吸う。


そして吐く。


闘技場から音が消えたようだった。


歓声も。


風も。


何もかも。


その呼吸のためだけに止まったように。


やがて。


ミリィが目を開く。


空色の瞳。


その奥に宿る光が変わっていた。


両手。


両足。


そこへ淡い神気が宿る。


空気が震える。


石畳が軋む。


目には見えない圧力が闘技場全体へ広がっていく。


観客たちが息を呑んだ。


クレタもまた。


身体を震わせていた。


武者震い。


全身の毛穴が開く。


背筋を走る歓喜。


「いいねぇ……」


笑う。


抑えきれない。


「こんなにゾクゾク来たのは久しぶりだっ!」


ミリィは静かに構えた。


「……いきます」


その瞬間。


消えた。


観客には何も見えない。


残像すらない。


クレタの目が見開かれる。


未来を見る。


可能性を見る。


十秒先を見る。


それでも。


一瞬。


見失った。


「っ!」


反射的に視線を落とす。


下。


そこにいた。


ミリィが踏み込んでいる。


地面を砕きながら。


真下から。


拳を振り上げていた。


クレタの瞳が輝く。


「まだだ!」


笑う。


「まだ見える!」


身体を捻る。


打ち上げられる拳。


その軌道へ腕を差し込む。


流す。


受けない。


逸らす。


そして。


その勢いのまま。


右拳を振り下ろした。


鋼鉄のような拳。


神速。


轟音。


ミリィの頬を掠める。


金色の髪が舞った。


だが。


当たらない。


ほんの数ミリ。


紙一重。


ミリィは既に次の動作へ移っていた。


クレタの目が細くなる。


未来は見えている。


だが。


見えている未来と。


実際のミリィの動きが。


少しずつ。


少しずつズレ始めていた。


クレタの口元が吊り上がる。


「はっ……!」


歓喜。


それ以外の感情はない。


「来いよ……!」


金色の瞳が輝く。


「もっと見せてみろ、ミリィ!」

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