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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード7ー全国ツアー開始ー

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なめてんじゃねーよ!ー

クレタとミリィが頷き合う。


審判が大きく手を振り上げた。


「決勝戦、開始!」


最初に動いたのはミリィだった。


地面を蹴る。


その姿は残像すら残さない。


次の瞬間にはクレタの懐へ入り込んでいた。


踏み込み。


右拳を放つ。


狙うは顔面。


だがクレタは動じない。


月光十字槍アークルベーダの柄を僅かに持ち上げる。


鈍い衝突音。


拳は届かない。


続けざまにミリィの左拳。


さらに右肘。


左膝。


流れるような連撃。


一切の淀みがない。


しかし。


クレタは槍をほんの僅かに動かすだけだった。


柄。


石突。


穂先の根元。


槍のあらゆる部分を使い分ける。


最小限の動作で全てを受け流していく。


その間も視線は一度たりともミリィから外れない。


まるで未来を知っているかのように。


ミリィの攻撃が放たれるより先に、そこへ槍が置かれている。


そして――


最後の右拳。


渾身の一撃。


クレタはそれを穂先で止めた。


穂先と拳。


互いに一歩も譲らない。


二人の間で空気が震える。


観客席から歓声が沸き上がった。


「うおおおおお!!」


「速ぇ!!」


「見えねぇぞ!?」


「どっちも化け物か!!」


轟く声援。


その中心で。


ミリィは静かに息を吐いた。


空色の瞳は真っ直ぐクレタを見据えている。


クレタもまた見返していた。


金色の瞳は楽しげに細められている。


五年ぶりの再会。


そして五年ぶりの手合わせ。


互いに一歩も引かないまま。


二人は静かに笑った。


拮抗する二人。


拳と槍。


互いに一歩も譲らない。


会場中から歓声が上がる。


「ミレニアムー!!」


「押せぇぇ!!」


「クレタぁぁぁ!!」


「やれぇぇぇ!!」


轟く声援。


その中心で。


ミリィの頬を汗が伝った。


空色の瞳は真っ直ぐクレタを見据えている。


「やはり……強いですね」


素直な言葉だった。


五年ぶりに向き合うクレタは、記憶の中よりも遥かに強かった。


だが。


クレタはつまらなそうに鼻を鳴らす。


「ミリィ……」


金色の瞳が細められる。


「てめぇは思ったほど成長してねぇな」


ミリィの目が僅かに揺れた。


クレタは構わず続ける。


「こんなもんだったのか?」


穂先が押し込まれる。


ミリィの拳がほんの僅かに後退した。


「……」


「速ぇ」


クレタが言う。


「強ぇ」


さらに続ける。


「技術も上がってる」


それは事実だった。


今のミリィは間違いなく世界有数の強者だ。


だがクレタは首を横に振る。


「けどよ」


失望したような声。


「全部、うちの知ってるミリィの延長線上じゃねぇか」


観客には意味が分からない。


だがミリィには分かった。


クレタが言っているのは強さではない。


もっと別の何かだ。


「五年だぞ?」


クレタが言う。


「五年もあったんだ」


穂先の向こうから金色の瞳が覗く。


「うちはもっと変なもん見せられると思ってた」


「変なもの……ですか?」


「あぁ」


クレタは笑う。


「常識とか」


「理屈とか」


「そういうの全部ぶん投げた何かだ」


そして。


少しだけ寂しそうに言った。


「けど違ったな」


槍が微かに揺れる。


「てめぇ、まだ優等生やってやがる」


その言葉に。


ミリィは何も返さなかった。


「てめぇ、うちをなめてるのか?」


次の瞬間。


クレタが槍を払った。


ミリィの拳が弾かれる。


強引でもなく。


力任せでもなく。


ただ圧倒的な技量で突き放された。


クレタの眉間には深い皺が刻まれていた。


ミリィの背筋が冷える。


(あ……)


空色の瞳が揺れる。


(本気で怒ってる……)


クレタはミリィを睨みつける。


「本気出したら、うちなんて相手にならねぇなんて思ってんのか?」


「そ……そんなこと……」


「なめてんじゃーねぇぞ?」


「だから……」


言葉が続かない。


クレタは舌打ちすると、槍を回した。


月光十字槍アークルベーダ。


巨大な槍が唸りを上げる。


くるくると。


軽々と。


まるで棒切れでも扱うように。


そして。


クレタ自身も動き始めた。


歩くでもない。


走るでもない。


円を描くように。


ミリィの周囲をゆっくり回る。


獲物を観察する猛獣のように。


「うちもまだぜんぜん本気出してねぇぞ?」


「……」


ミリィは答えられない。


クレタは止まらない。


「どうしたら本気になる?」


一歩。


「追い込んだら?」


一歩。


「負けそうになったら?」


一歩。


「怖い思いをしたら?」


金色の瞳が射抜く。


「いえ……それは……」


「甘えてんじゃねぇーよっ!」


怒声が闘技場を震わせた。


ミリィの肩がびくりと跳ねる。


観客席が静まり返る。


誰も声を出せない。


クレタは本気で怒っていた。


「本気の出し入れくれぇ」


槍の穂先が持ち上がる。


「てめぇで出来るようになりやがれ!」


轟くような声。


ミリィは思わず息を呑む。


クレタはなおも睨み続ける。


「怖くなったら本気出します」


「追い込まれたら本気出します」


「そんなもん子供でもできんだろーが」


槍を握る手に力が入る。


「戦う前から決めとけ」


「ここから先は全力だってな」


金色の瞳が細まる。


「てめぇは剣聖だろ」


その言葉は責めるためではない。


期待だった。


誰よりも。


目の前の少女に期待しているからこその怒りだった。


「うちはな」


クレタが言う。


「泣きながら前に出てた頃のてめぇの方が、今よりずっと怖かったぞ」


ミリィの瞳が大きく見開かれる。


「……!」


「震えててもよ」


「怯えててもよ」


「それでも最初から全部出し切ろうとしてた」


クレタは槍を構え直した。


「見せろ」


短く。


強く。


「今のてめぇを見せろ、ミリィ」


そして――


クレタが軽く槍を放った。


月光十字槍アークルベーダが回転しながら空を裂く。


観客席から悲鳴が上がる。


だが槍は闘技台の外周ぎりぎりへ飛び――


轟音と共に突き刺さった。


石畳が砕ける。


巨大な槍は微動だにしない。


ミリィが目を瞬かせた。


「……?」


クレタは両手を合わせる。


ポキッ。


ポキポキッ。


指を鳴らしながら首を傾けた。


「今のてめぇに槍使うのはもったいねぇー」


そして片手を上げる。


指先をくいくいと動かした。


挑発するように。


呼び寄せるように。


「うちが槍を使わざるを得ないくらい、追い込んでみやがれ」


ミリィの両拳が握られる。


その様子を見て。


クレタが笑った。


「そぉだっ!」


金色の瞳が輝く。


「来い! 剣聖っ!」


次の瞬間。


ミリィが踏み込んだ。


先程より速い。


さらに鋭い。


爆発するような加速。


一瞬で間合いを消し飛ばす。


そして右足を振り上げた。


轟音。


空気が裂ける。


だがクレタは逃げない。


左腕を持ち上げる。


そのまま受けた。


衝突。


鈍い音が響く。


受け止めた左腕へ衝撃が走る。


それでもクレタは笑った。


嬉しそうに。


心底楽しそうに。


「そぉだっ!」


さらに踏み込む。


「もっと!」


左腕を振り払う。


「もっと来いやっ!」


右拳が放たれた。


速い。


重い。


まるで砲弾。


ミリィは両手で受ける。


受け流す。


そしてそのまま身体を捻った。


投げる。


クレタの身体が宙を舞った。


観客席がどよめく。


だが。


クレタは飛ばされた瞬間に身体を捻る。


猫のように。


しなやかに。


回転。


着地。


ミリィの背後。


「……!?」


ミリィが振り返る。


間に合わない。


クレタの肘が迫る。


そして。


背中へ叩き込まれた。


「はぐっ!」


肺の空気が強制的に吐き出される。


ミリィの身体が前へ揺れる。


それでも止まらない。


踏み止まる。


振り向く。


右拳を放つ。


狙いは顔面。


クレタは笑っていた。


拳が頬を掠める。


黒と金の髪が揺れる。


それだけ。


当たらない。


クレタは半歩だけ身体を傾けて避けていた。


そして二人は同時に跳ぶ。


距離を取る。


着地。


向かい合う。


観客席から歓声が爆発した。


「うおおおおおおお!!」


「速ぇ!!」


「なんだ今の!?」


「見えねぇぞ!!」


砂埃が舞う。


二人は構えたまま動かない。


だが。


その顔には同じものが浮かんでいた。


笑みだった。


戦うことを楽しむ者だけが浮かべる笑みが。




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