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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード6ー魔族討伐の依頼ー
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攻撃が効かないー

ミリィが魔力を集中させる。


「光よ〈フォトン〉」


人差し指から放たれた光が一直線に伸び、黒の歪んだ存在を貫いた。


確かに命中している。


揺らぎが一瞬強くなる。


だが、それだけだった。


致命的な損傷には至らない。


ミリィは小さく息を呑む。


「……効いて、いるはずなのに……」


手応えと結果が噛み合わない感覚が、焦りとして積もっていく。


魔族の体が、わずかに脈動した。


次の瞬間、全身から黒い触手のようなものが一斉に噴き出す。空間を這うように広がり、獲物を探すようにミリィへ殺到した。


「っ……!」


ミリィは即座に反応する。


「光の影を!」


足元の影が揺らぎ、その中から白く発光する腕が複数生み出される。それらは意思を持つように展開し、迫る黒い触手を次々と迎撃した。


光と闇が空中でぶつかり合い、衝撃が周囲に散る。


ミリィは歯を食いしばりながら、魔族の動きを見据えた。


ミリィは瞬間的に思考を巡らせる。


「……あとは……炎と!氷と!」


両手に魔力を集中させると、右拳には燃え上がる炎が、左拳には鋭い氷が宿る。


同時に、空間のあちこちで黒と白の触手がぶつかり合い、衝突音が重なっていく。


その混戦の中を、ミリィは一気に踏み込んだ。


距離を詰める。


迷いはない。


魔族の懐へ入り込み――


「っ……!」


右拳を振り抜く。炎が黒を焼き裂くように炸裂する。


間髪入れず、左拳が放たれる。氷が空間ごと押し固めるように衝突する。


二撃が同時に魔族を捉え、熱と冷気が交錯する。


衝撃が周囲へと広がった。


だが――魔族の輪郭は揺らいだまま、崩れない。


炎は確かに触れ、氷も確かに捉えたはずだった。

それでも、致命的な変化は何一つ起きない。


「これも……ダメ……」


ミリィの声が、かすかに漏れる。


拳を握ったまま、一歩、二歩と後退する。

距離を取るというより、押し返されるように体が下がった。


呼吸が浅くなる。視線は外せないまま、焦りだけが静かに積み重なっていく。


ミリィは一度だけ、ネックレスに吊るされた指輪に触れた。


冷たい金属の感触が、わずかに震える指先に伝わる。


「……あとは……」


小さく息を吸い込む。


その瞬間、全身の魔力と剣聖の理力が一気に解放された。


白い光が身体から溢れ出し、周囲の空気を押しのけるように膨張する。髪が揺れ、衣服が強くはためく。


「力を!倍の力を!!」


踏み出した一歩で、岩盤が砕けた。


地面が沈み、ひび割れる。


次の瞬間には、ミリィの姿はすでにそこになかった。


これまでとは比較にならない速度と圧力。


一瞬で魔族の間合いに入り込み、上段から叩き落とすように回し蹴りを放つ。


空気が裂け、衝撃が炸裂した。


打ち下ろされた回し蹴りが、魔族の中心を捉えた。


一瞬、確かな手応えがあった。


――裂けた。


黒い身体が、縦に割れるように分断され、左右へと崩れる。


「……やった!?」


ミリィの声が、思わず漏れる。


だが、その直後だった。


左右に分かれたはずの魔族の身体は、地面に崩れ落ちることもなく、ただ“揺れたまま”そこに存在し続ける。


まるで形だけが一度崩れたかのように、輪郭は保たれたまま。


そして――ゆっくりと。


何事もなかったかのように、元へと戻り始める。


裂け目が塞がるというより、時間を巻き戻すように。


黒が再びひとつに収束していく。


ミリィの表情から、一瞬だけ血の気が引いた。


一瞬、魔族の異常な再生に意識を奪われたその隙。


黒が揺らぎ、間髪入れず攻撃が降り注いだ。


見えない圧が連続して叩きつけられるように、ミリィの全身を襲う。


「っ――!」


咄嗟に両腕を前に出し、防御魔術を展開する。


白い光が膜のように広がるが、その上からさらに重ねて叩き込まれる衝撃がそれを軋ませる。


防ぎきれない。


ひび割れるような感覚と同時に、ミリィの体が弾かれた。


「……っ、ぁ……!」


勢いのまま後方へ吹き飛ばされ、岩を跳ねるように転がる。


地面に叩きつけられ、砂と破片が舞う。


呼吸が乱れ、視界が揺れる。


それでも、ミリィはすぐに手をついて起き上がろうとした。


衝撃でミリィの衣服は所々裂け、激しい戦闘の痕跡が残っていた。だが本人にとっては、そんなことに意識を割く余裕は一切ない。


今は一瞬でも遅れれば終わる。


「……っ、まだ……!」


ミリィは歯を食いしばり、震える腕で地面を押して立ち上がる。


視界が揺れても、魔族から目を逸らさない。


黒い存在は、何事もなかったかのようにそこに在り続けている。


ミリィは呼吸を整える間もなく、再び魔力を練り始めた。


ミリィは、荒い呼吸のまま立ち尽くしていた。


「殴っても蹴っても……ダメ。魔法も……あまり効果がない……どうしたら」


言葉が途切れるたびに、現実が重くのしかかる。


拳は確かに届いた。魔法も当たった。

それでも結果は変わらない。


目の前の魔族は、壊れない。


倒れない。


終わらない。


胸の奥が冷えていく感覚が、ゆっくりと広がる。


――勝てないのではないか。


その思考が、静かに侵食してくる。


視界の端が暗くなるような錯覚。

音が遠のく。


膝が、わずかに揺れた。


ミリィの心を、絶望が静かに支配し始める。


その時だった。


揺れていた黒い影が、ゆっくりと“膨らみ始める”。


歪んだ輪郭がほどけ、逆に内側へと収束していくような異様な変化。


空間そのものが重くなる。


ミリィの呼吸が止まった。


「まさか……進化しようとしているの!?」


黒は答えない。


ただ、形を変えていく。


戦闘の中で得た情報を基に、より“適した存在”へと再構築されていく異常な現象。


それはこの世界の魔族に与えられた特性――魔王からの加護。


戦えば戦うほど、適応し、強くなる。


「魔族は……戦うほど、強く……」


ミリィの声がかすれる。


理解した瞬間、背筋に冷たいものが走る。


倒せていないのではない。


“育ててしまっている”。


黒い影はさらに膨らみ、形を変え続ける。


圧が、先ほどよりも明らかに重くなっていく。


ミリィは一歩後退しかけて――踏みとどまった。


それでも、目は逸らさない。


「……それでも……止めなきゃ……」


「進化が終わる前に……倒さないと」


光も、火も、氷も。


剛力も、あの人の戦い方を真似た技も。


すべて試した。


すべて通じなかった。


ミリィの呼吸が、浅くなる。


それでも視線は逸れない。


「……あとは……」


指先が、ネックレスの指輪に触れる。


冷たい金属の感触。


その瞬間、意識が一点に収束した。


「時を……越える!」


淡い水色の瞳が強く輝く。


ミリィが踏み出した。


その瞬間――世界が止まる。


いや、正確には。


止まったと錯覚するほどの速度で、ミリィだけが動いている。


音も、空気の流れも、すべてが固定された世界の中で、ミリィだけが駆ける。


黒い魔族へ、一瞬で到達する。


「……っ!」


右拳。


左拳。


右足。


左足。


連続する攻撃が、止まった世界に刻み込まれていく。


だがそれは一撃ではない。


“無数”だった。


拳を振るうたびに、ミリィの残像が増える。


蹴りを放つたびに、さらに別の角度からミリィが生まれる。


全方位。


上下左右。


前後。


魔族を中心に、無数のミリィが同時に攻撃を叩き込む。


静止した世界の中で、ただ一点だけが暴風のように崩壊していく。


黒い影に、光の連撃が重なり続けた。


止まった時の中で、魔族の身体は確かに崩れていった。


拳が触れた部分が、ゆっくりと潰れる。蹴りが入った箇所が、抉れたように欠けていく。

そのたびに黒い粒子のようなものが散り、輪郭が薄れていく。


ミリィの連撃は止まらない。


一方的な攻撃が積み重なり、魔族の存在そのものが削られていく。


「……いける、かも!」


わずかな希望が、声に混ざる。


このまま削り切れば――終わる。


確かな手応え。


確かな変化。


だが、その瞬間だった。


削られているはずの“核”の奥で、何かが動いた。


崩れているのではない。


“合わせている”。


ミリィの攻撃を受けるたびに、魔族はその破壊を解析し、再構築している。


静止した世界の中でさえ、それは止まらない。


削られた部分が、別の形で埋め直されていく。


むしろ――攻撃のたびに、適応が進んでいく。


ミリィの動きが、一瞬だけ引っかかった。


(……違う)


このままでは終わらない。


この技は「削るための時間」ではない。


「進化させるための時間」になりつつある。


黒が、わずかに笑ったように見えた。


やがて、限界が来る。


止まった世界の中で動き続けていたミリィの身体に、遅れて“負荷”が一気に押し寄せた。


全身に鋭い痛みが走る。筋肉が悲鳴を上げ、骨の奥が軋むような感覚。喉の奥から、熱いものが込み上げてくる。


それでもミリィは止めなかった。


歯を食いしばり、歪む視界の中で攻撃を続ける。拳を振るたびに、意識が削られていく。


「……まだ……」


声にならない声。


だが、その瞬間だった。


ふっと、全身から力が抜ける。


支えていた“何か”が切れたように、膝が折れた。


「……っ……!」


地面に崩れ落ちる。


時を支配していた感覚が崩壊し、世界が一気に重さを取り戻す。


そして――


ミリィは、そのまま血を吐いた。


赤が砂の上に落ちる。


呼吸が乱れ、視界が揺れる。


それでも、目だけはまだ魔族を捉えていた。


呼吸を乱したミリィの目の前で、それは“完成”する。

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