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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード6ー魔族討伐の依頼ー
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遭遇!魔族ー

ミリィは、弾かれたように立ち上がる。


「……行きます!」


勢いのまま、丘を飛び出そうとしたその瞬間、手首を強く掴まれた。はっとして振り返る。アナの瞳が、まっすぐにミリィを捉えている。


「少し待ってから行きましょう。苦戦しているところに現れた方が……」


冷静な判断。合理的な提案。


だが――ミリィの手が、わずかに震える。一瞬の沈黙。次の瞬間、その手を振り払った。


「わたしは……」


声が揺れる。それでも、止まらない。


「わたしの仲間に、髪の毛ほどの傷も受けて欲しくないんです」


はっきりとした言葉だった。怖いはずなのに、震えているはずなのに、それでも一歩も引かない。


アナは、その姿を見て言葉を失う。オセが、ふっと息を吐いた。


「……あーあ。こうなると思ったっすよ」


肩をすくめるが、その目はどこか楽しげだった。


ミリィは、もう振り返らない。丘を蹴る。白のマントが翻り、次の瞬間には風の中へと飛び出していた。


ミリィは走りながら、息を整える。


一瞬、目を閉じる。


意識を沈める。


――魔力感知。


周囲の気配が、静かに広がっていく。


空気の中に混ざる“違和感”。


人のものとは違う、濁った魔力。


強い。


ひとつ、いや、複数。


前方――斜面の奥。


ミリィの目が開く。


「……あそこ……!」


次の瞬間、地を蹴る。


小柄な体が、一気に加速する。


足場の悪い岩場を迷いなく踏み抜き、跳ぶ。


風が後ろへ流れる。


白いマントが翻り、空気を裂く。


一直線に。


反応のする場所へ。


ミリィは、ためらいなく駆けていく。



岩場の奥、風の抜ける開けた斜面。


先行していた五人一組の一隊が、同時に足を止めた。


空気が、歪む。


何もないはずの空間に、黒が滲んだ。


影のようで、影ではない。


輪郭が定まらず、揺れ続ける“何か”。


それが、そこに現れた。


「――接敵」


低い声。


即座に陣形が広がる。


前衛が間合いを詰め、後衛が下がる。


無駄のない動き。


一人が踏み込む。


速い。


常人では捉えきれない踏み込み。


剣が、振り抜かれる。


――当たらない。


刃が、すり抜ける。


手応えが、ない。


「なっ――」


言葉が終わる前に、その体が弾き飛ばされた。


見えない何かに叩かれたように、横へ吹き飛ぶ。


岩に叩きつけられ、動かない。


間を置かず、左右から二人が斬り込む。


連携は完璧。


逃げ場はない。


だが――黒が揺らぐ。


二つの刃が、同時に空を切る。


そのまま、腕が振られた。


ただ、それだけ。


二人の体が浮く。


叩きつけられる。


鈍い音。


動かない。


後衛が詠唱に入る。


短く、速い。


強化された魔術が放たれる。


光が炸裂する。


直撃。


だが――消えない。


煙の中で、黒はそのまま立っている。


揺れながら。


変わらず。


無傷で。


「……なんだ、これ……」


誰かの声が震える。


次の瞬間、その人物の体が崩れ落ちた。


胸に、何かが通っている。


何も見えない。


結果だけが、そこにある。


陣形が崩れかける。


それでも、誰も退かない。


踏み込む。


斬る。


当たらない。


弾かれる。


倒れる。


それでも――止まらない。


白のマントが翻り続ける。


一歩でも、前へ。


時間を稼ぐように。


ただ、耐えるように。


その中心で。


魔族だけが、何も変わらずそこに在り続けていた。


岩場の奥、開けた斜面。


白の一団が、すでに展開していた。


五人一組。間合いを取り、包囲するように散開している。


その中心に――魔族。


黒く歪んだ影のような体。地面に触れているはずの足が、わずかに浮いている。


空気が重い。


一人が踏み込む。


速い。


人の域を越えた踏み込み。ミリィの加護を受けた一撃。


だが――届く前に、止まった。


見えない何かに、弾かれる。


次の瞬間、その騎士の体が横へ吹き飛んだ。


地面を転がり、岩に叩きつけられる。


「――っ!」


声にならない息。


間髪入れず、別の二人が左右から斬り込む。


連携は完璧。


だが、当たらない。


魔族の体が、揺らぐ。


刃がすり抜ける。


そのまま、腕が振られる。


ただそれだけで――二人が同時に弾き飛ばされる。


一人は宙を舞い、もう一人は地面に叩きつけられ、動かない。


距離を取っていた後衛が詠唱に入る。


魔術が放たれる。


直撃。


爆ぜる光。


だが――消えない。


煙の中から、黒がそのまま現れる。


傷一つない。


「なんだ、あれ……」


誰かが呟く。


次の瞬間、その声の主の胸が抉れた。


何も見えなかった。


ただ、結果だけがそこにあった。


陣形が崩れる。


統率はある。恐慌もない。


それでも――通じない。


一撃が重すぎる。


防げない。避けきれない。


一人、また一人と地に伏す。


それでも、誰も逃げない。


白のマントが翻る。


前に出る。


斬る。


通じない。


倒れる。


それでも、前に出る。


時間を稼ぐように。


ただ――耐えるように。


その中心で、魔族だけが、何も変わらずそこに立っていた。


最後の一人が、踏みとどまる。


膝は震え、呼吸は荒い。


それでも、剣を下ろさない。


目の前の黒から、視線を逸らさない。


周囲には、倒れた仲間たち。


動かない。


それでも――退かない。


「……来いよ……」


かすれた声。


震えを押し殺すように、構え直す。


魔族が、揺らぐ。


黒が、わずかに収束する。


次の瞬間。


振るわれた。


見えない一撃。


空間ごと抉るような圧。


避けられない。


防げない。


それでも、剣を構えたまま――。


その瞬間。


間に、白が割り込む。


小さな背中。


細い腕。


だが、その一歩は迷いがなかった。


ミリィが、そこにいた。


振り抜かれた一撃を――受け止める。


衝撃が、地面を砕く。


足元の岩がひび割れ、砂塵が舞い上がる。


それでも、ミリィは動かない。


両腕で受け、押し返すように立っている。


ぎり、と歯を食いしばる。


「……だめ……」


小さく、呟く。


震えている。


それでも。


一歩も、退かない。


衝撃を、受け止めたまま。


ミリィの足元で、岩がきしむ。


押し潰されるような圧。


それでも、退かない。


そのまま、ほんのわずかに視線を動かす。


横。


倒れている。


一人。


さらに奥。


二人。


動かない。


呼吸も見えない。


もう一人。


腕が、不自然に折れている。


最後の一人は――さっきまで立っていた場所で、崩れていた。


胸の奥が、ひどく冷える。


視界が、ぐらりと揺れる。


呼吸が、浅くなる。


音が遠のく。


指先の感覚が、薄れていく。


「……ぁ……」


力が、抜けかける。


膝が、落ちそうになる。


意識が、沈む。


このまま――。


その瞬間。


ぎり、と歯を食いしばる。


足に、力を込める。


沈みかけた意識を、無理やり引き戻す。


「……だめ……」


震える声。


それでも、はっきりと。


倒れない。


ここで、離さない。


ミリィは、攻撃を受け止めたまま――踏みとどまる。


ミリィは、歯を食いしばる。


腕にかかる圧を、そのまま押し返す。


足元が沈み、岩が砕ける。


それでも、一歩――前に出る。


「……っ!」


小さな体が、ぐっと踏み込む。


次の瞬間。


受け止めていた一撃を、押し返した。


空気が弾け、黒がわずかに揺らぐ。


その隙に、ミリィは両手を開く。


魔力が、一気に広がる。


淡い光が、周囲を包む。


「……大丈夫……大丈夫だから……」


震える声のまま、魔術を展開する。


倒れている四人へ、光が伸びる。


傷口が、ゆっくりと閉じていく。


砕けた骨が、音もなく戻る。


止まりかけていた呼吸が、かすかに動く。


命が、繋がる。


ミリィは、手を広げたまま、必死に魔力を流し続ける。


視線は、前から逸らさない。


目の前の魔族を、見据えたまま。


一歩も、退かない。


やがて、四人の胸がゆっくりと上下し始める。


乱れていた呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


ミリィはそれを確認すると、ふっと息を吐いた。


広げていた手を閉じ、回復の光を止める。


次の瞬間、すぐに魔力を切り替える。


「……守って……」


小さく呟くと同時に、五人の周囲に薄い光の膜が展開される。


防御魔術。


重ねるように、何層も。


倒れている四人と、最後の一人を包み込む。


それを確認して――ミリィは、ようやく前を見る。


魔族。


真正面から、視線が合う。


黒く歪んだ体。


形を保っているのかすら曖昧で、輪郭が揺れ続けている。


どこが顔なのかも分からない。


それでも、“見られている”と分かる。


ぞわり、と背筋が粟立つ。


「……っ」


思わず、肩が震える。


息が止まる。


怖い。


本能が、そう告げている。


足が、わずかに後ずさる。


それでも――止まる。


逃げない。


ミリィは、小さく息を吸った。


震えたまま、魔族を見据える。


ミリィは、その場で大きく息を吸う。


肺いっぱいに空気を入れて、ゆっくり吐き出す。


もう一度。


震えを押さえ込むように、深く、何度も繰り返す。


肩の揺れが、少しずつ収まっていく。


それでも、完全には消えない。


怖さは、そのまま残っている。


それでも――。


ミリィは、一歩踏み出す。


足場の岩が、わずかに砕ける。


距離が、縮まる。


目は逸らさない。


真正面から、魔族を見据える。


そして――。


右拳を、振り抜く。


小さな体からは想像できない踏み込み。


一直線の一撃。


空気が弾ける。


音が遅れて追いかける。


迷いのない、ただまっすぐな拳。


だが――当たらない。


拳は確かに届いた。


間合いも、速度も、完璧だった。


それでも。


手応えが、ない。


触れたはずの感触が、そのまま抜ける。


まるで空気を殴ったように、拳がすり抜ける。


ミリィの目が、わずかに見開かれる。


「……え……?」


理解が追いつかない。


その一瞬。


黒が、揺らぐ。


すぐ目の前で、魔族の気配が膨らむ。


来る。


本能が叫ぶ。


ミリィは、反射的に体を引く。


次の瞬間、さっきまでいた場所の地面が抉れた。


見えない一撃。


一拍遅れて、衝撃が広がる。


砂と岩が弾け飛ぶ。


ミリィは距離を取りながら、息を乱す。


「……効かない……」


小さく、呟く。


拳を握り直す。


震えは、まだ残っている。


それでも。


目は逸らさない。


相手を見据えたまま、次の一手を探す。


ミリィは、拳を引く。


息を整えながら、意識を集中させる。


両手、両足へと魔力を流し込む。


じわりと、光が宿る。


白い輝きが、四肢を包む。


空気が、わずかに震える。


「……っ」


小さく息を吐き、踏み込む。


さっきよりも深く。


速く。


距離を一気に詰める。


右の拳が、再び放たれる。


今度は――通る。


黒に触れた瞬間、わずかな抵抗。


確かに、当たった。


魔族の輪郭が、かすかに歪む。


だが――浅い。


手応えは、薄い。


効いてはいる。


だが、足りない。


すぐに左の蹴りを重ねる。


連撃。


白い軌跡が、空を裂く。


そのたびに、黒がわずかに揺れる。


削れている。


確かに。


それでも――ほんのわずか。


決定打には、遠い。


ミリィの息が、荒くなる。


それでも動きを止めない。


震えたまま、踏み込み続ける。


効かせるために。


ただ、必死に。



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