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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード5ー剣聖様の受難ー
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剣聖護衛選抜オーディション開催ー

王都中央教会。


その礼拝堂は、祈りのために造られた空間であるはずだった。


高い天井。

規則正しく並ぶ石柱。

色硝子を通して落ちる光が、大理石の床に静かな模様を描いている。


だが今、その空間に満ちているのは神聖さではない。


<剣聖ミリィ護衛選抜オーディション>


その会場として整えられた礼拝堂には、祈りとは別の礼拝堂の中。


長机の周囲に立つ者たち──その姿は一様ではない。


騎士の鎧を纏う者もいれば、簡素な旅装の者もいる。

魔術師のローブを着た者、盗賊のように軽装で身を潜める者、商人のような身なりの者さえ混じっていた。


一見すれば、統一のない傭兵団にも見える集団。


だが彼らは、傭兵ではない。


「剣聖の盾」


それは、各代の剣聖が現れた時、その強さと思想に惹かれ、自然と集い形成される者たちの総称だった。


そこに身分も人種も職業も立場も関係はない。


騎士であろうと、戦士であろうと、魔術師であろうと、盗賊であろうと。

あるいは町人であろうと、商人であろうと、貴族であろうと。


剣を取る者もいれば、取らぬ者もいる。


戦う者もいれば、支えることだけを選ぶ者もいる。


しかし共通しているのはただ一つ。


──剣聖のために。


その一点のみだった。


ゆえにその集団には階級という概念が存在しない。

上下もなく、役割の差異だけがある。


それぞれが異なる装備、異なる服装を身に付けているにもかかわらず、不思議と一つの意思だけで統一されているようにも見える。


そして、その象徴があった。


各剣聖ごとに定められる“色”のマント。


剣聖グラムの時代には、鮮やかな青。


そして当代。


剣聖ミリィに仕える者たちが纏うのは──純白。


『純潔のミレニアム』


その名に相応しい、何の濁りもない白のマント。


その白が、礼拝堂の光を受けて静かに揺れている。


長机の中央にはミリィ。


その左右にはオセロット・ラハムとアナリスタ・グランドベルド。


そしてその先に、純白のマントを纏った「剣聖の盾」たちが、静かに彼女を見つめていた。


王都中央教会、礼拝堂。


純白のマントが静かに揺れる中、長机の前に立つアナリスタが一歩前に出る。


姿勢はまっすぐで、声は澄んでいた。


「本日お集まりの皆様は、当代の剣聖の盾、総勢120名の中から選ばれた方々。どうか、我らが剣聖ミレニアムの、平和と安寧のために、その身をお捧げ下ることを切に――」


その言葉が礼拝堂に響き渡る。


抑えられた空気の中、静かな感嘆が広がった。


その様子を、オセロットは口を挟まず、ただ面白そうに眺めている。


アナリスタは一拍置き、手で静かに促す。


中央に座る少女へ。


ミリィはびくりと小さく肩を揺らし、それでも顔を上げる。


「あ…あの…あの…剣聖ミレニアムこと、ミリィです。おはようございます」


小さく一礼する。


それにつられるように、「剣聖の盾」たちも一斉に頭を下げた。


揃った動き。


「「剣聖様、おはようございますっ!」」


だがそこにあるのは規律ではなく、自然な敬意だった。


「……しまんねぇなぁ……」


オセロットが小さく呟く。


ミリィは顔を上げ、少しだけ緊張したまま言葉を続ける。


「本日は…私のこのようなわがままに…お付き合いいただきまして…きょ..きょうしゅぶっ…」


鈍い音と共に、言葉が途切れる。


ミリィが豪快に舌を噛み、慌てて口元を押さえた。


その一瞬の静寂の後。


礼拝堂のあちこちから、押し殺したような歓声が漏れる。


「か、かわいい……」

「なんて……可憐なんだ」

「あぁ……守ってやりたい」


ミリィは真っ赤になりながら、必死に姿勢を整える。


一度だけ深く息を吸う。


そして顔を上げる。


「そ、それでは…剣聖の護衛選抜オーディションを開始しまぶっ!」


再び噛んだ。


そして再び、静かな歓声が広がった。



礼拝堂の外へと、「剣聖の盾」たちは一度すべて退出させられた。


残されたのは、長机の向こう側に座る三人だけ。


静寂の中、扉が開く。


一人目の参加者が入ってくる。


重厚な鎧に身を包んだ戦士だった。


足音だけで床がわずかに鳴る。


その姿を見たミリィが、首をかしげる。


「あれ…?あなたは…たしか?」


戦士の顔がぱっと明るくなる。


「傭兵のアンガスです!闘技場で最初に戦ったもんです!その節はどうも!」


ミリィは一瞬だけ目を泳がせ、ぎこちなく笑う。


「…こ、こんにちわぁ…」


その背後で、アナがわずかに身を寄せる。


「……誰?ですか?」


小声。


それに対し、オセが気だるげに答える。


「闘技場での一戦目で、0.001秒で何もできずにミリィ様に負けた奴っす」


一瞬の間。


アナは微笑んだまま、視線を前に戻す。


「……却下ね」


アンガスはまだ何かを語ろうとしていたが、その言葉が届くことはなかった。


静かに退出を促される。


扉が閉まる。


再び静寂。


次の者が入ってくる。


細身の体躯。


黒い甲冑に身を包み、長い槍を携えた男。


足取りは静かで、無駄がない。


ミリィがじっと見て、少し首をかしげる。


「あ、おれ?…あなたもどこかで…」


男はその場で膝をつき、頭を垂れる。


「はっ!私は元騎士のアルト。ぜひ剣聖様のおそばに…」


言葉は簡潔で、姿勢も整っている。


その様子を横目に、アナが再び小さく問う。


「これは?」


オセが少しだけ考えるように視線を上げる。


「んー…まぁまぁだったような」


アナは即答する。


「なら却下ね」


間を置かず、判断は下された。


黒い甲冑の男が静かに退出する。


扉が閉まり、わずかな間を置いて、次の人物が入ってきた。


女騎士。


整った装備、無駄のない立ち姿。

鎧の手入れも行き届いており、その場に立つだけで一定の実力が感じ取れる。


アナが小さく呟く。


「見栄えは悪くないわね」


オセが即座に返す。


「ユニット組むわけじゃないんだから…」


ミリィは少し緊張したまま、控えめに頭を下げる。


「あ…どうもぉ…」


女騎士は一歩前に出て、胸に手を当てる。


「ミレニアム様との試合、この騎士オハラン一生の誉!」


その言葉には確かな敬意が込められていた。


だが次の瞬間。


彼女はそのまま距離を詰める。


ミリィのすぐ前まで歩み寄り──


さらに一歩。


耳元へ口を寄せる。


「……剣聖様は下着を付けないのがご趣味、なのですか?」


空気が止まる。


ミリィの体が完全に固まった。


数秒遅れて、耳まで一気に赤く染まる。


言葉が出ない。


動けない。


完全なフリーズだった。


その様子を見たオセが、即座に口を開く。


「……却下だな」


アナも一切の間を置かずに続ける。


「……却下ね」


女騎士が半ば強引に連れ出される。


わずかに乱れた空気を残したまま、扉が閉まった。


そしてすぐに、次の人物が入ってくる。


小柄な男だった。


無駄な鎧は身につけておらず、軽装。

鍛えられた身体つきと、独特の構えから、拳闘士であることが見て取れる。


ミリィが目を瞬かせる。


「あ…準決勝の…?」


男はその場で足を止め、恭しく礼節の構えを取る。


「あの時は本当に、結構なものを拝見させていただき…この眼と心に焼き付いています」


ミリィはきょとんとする。


「…いったい…なんの…?」


一瞬の間。


そして、思い至る。


「……って、あっ!」


顔が一気に赤くなる。


準決勝。


あの試合。


言葉にしなくても分かる。


ミリィは両手で頭を抱え、そのまま小さく震え始める。


街で噂のパンチラ試合の相手、完全に思い出してしまった。


その様子を見て、オセとアナが同時に首を横に振る。


結論は一瞬だった。


──却下。




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