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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード2ー剣聖、闘技場に立つー
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そして決勝戦ー

ミリィは壁際にしゃがみ込み、膝をぎゅっと抱えていた。さっきまで舞台の上で堂々と戦っていた姿が嘘のように、今は小さく縮こまっている。


肩がかすかに震え、指先が落ち着かないように服の裾を握りしめる。


「……もう……恥ずかしかった……」


ぽつりと漏れた声は、誰に向けたものでもなかった。


思い出したくない光景が頭の中をぐるぐると巡るたびに、顔がじわじわと熱を帯びていく。胸の奥がきゅっと締めつけられるようで、うまく息ができない。


そんなミリィの前で、オセが困ったように頭をかいた。


「ミリィ様ー……本当にすみませんってば……」


普段の軽い調子を保とうとしているが、どこか歯切れが悪い。


「さすがにあれはやりすぎたっす……ちゃんと反省してるっす」


ミリィはゆっくりと顔を上げる。


涙で少し潤んだ瞳が、じっとオセを見つめた。


「……ほんと?」


その一言は、疑いというよりも、ただ確認したいだけのように弱々しい。


オセは一瞬だけ言葉に詰まってから、すぐにうなずいた。


「マジっす。今度こそちゃんと、ミリィ様が安心して戦えるようにするっす」


その言葉を聞いて、ミリィは小さく息を吐く。


張り詰めていた何かが、少しだけ緩む。


それでも、完全には消えない不安が胸の奥に残ったまま、指先をぎゅっと握りしめた。


「……もう、変なのは……やだよ」


震える声で、しかしはっきりと伝える。


オセはすぐに頷く。


「わかってるっす。これからは『可愛い』と『強い』をちゃんと両立させる方向でいくっすよ!」


「……かわいい……」


その言葉を繰り返したミリィの頬が、ほんの少しだけ緩む。


ほんのわずかに、はにかむような笑顔。


「……それなら……いいかも……」


完全には納得していない。それでも、自分の気持ちを少しだけ受け止めてもらえたことが、心を軽くしていた。


オセはその表情を見て、ぱっと明るくなる。


「よっし!いい感じっすよ、その顔!」


軽く拳を握り、勢いよく言い放つ。


「さぁさぁ、いよいよ決勝っす!ここまで来たら、もう優勝しかないっすよ!」


その言葉に、ミリィはゆっくりと立ち上がる。


涙を指で拭い、深く息を吸う。


まだ少し緊張は残っている。けれど、それ以上に――


前に進みたい、という気持ちが胸の中で強くなっていた。


「……うん」


小さく、しかしはっきりと頷く。


「がんばって……くる」


その声には、さっきまでの弱さだけではない、確かな意志が宿っていた。


オセは満足そうに頷く。


「その意気っす!ミリィ様なら絶対いけるっす!」


二人は並んで、決勝の舞台へと向かう。


観客の歓声が、遠くからうねるように響いていた。



決勝の舞台。


観客の熱気が最高潮に達する中、ミリィはゆっくりと中央へ進む。


その対面に立つのは――


覆面の戦士。


顔は一切見えない。


目元も口元も、完全に布で覆われているため、表情を読み取ることはできない。


長い黒髪が襟元から三つ編みとなって垂れ、整った前髪だけが静かに揺れる。


深い紫の瞳が、覆面の奥からミリィをまっすぐに見据えている。


身長は高く、均整の取れた体格。


身に纏うのは、整えられたメイド服。


だがその足元は戦闘用――金属プレートの仕込まれたブーツ。


両手には鉄甲。


首には鎖。


静かな異質さを纏い、ただそこに立っている。


一切、言葉はない。


やがて――


覆面の戦士は、音もなく一礼した。


そして無言のまま、ククリナイフを二本抜く。


逆手に構えられた刃は、微かな光を反射する。


呼吸一つ乱れない。


その構えだけで、実力の高さが伝わってくる。


観客のざわめきが、少しずつ静まっていく。


張り詰めた空気の中――


「……あれ?」


小さく呟き、目の前の相手を見据える。


覆面の戦士は、何も語らない。


決勝の舞台に、緊張が張り詰めていた。


歓声は徐々に遠のき、観客たちも固唾を飲んで見守っている。


ミリィは目の前の相手を見つめ、小さく息を吸った。


そして、ゆっくりと口を開く。


「……あ、あの、パティ……だよね?」


覆面の戦士は、わずかに肩を揺らした。


次の瞬間、顔をそらす。


はっきりとした否定はない。


だが、その仕草が何よりも雄弁だった。


ミリィはさらに視線を向ける。


「顔隠しててもわかるよ……というか、顔以外そのまんまパティなんだけど……」


少し困ったように、首を傾げる。


「……どうして、それでいけると思った、の……?」


その問いは、純粋な疑問だった。


覆面の奥で、戦士の呼吸が一瞬だけ止まる。


だが、言葉は返ってこない。


代わりに――


ククリナイフを握る手に、わずかに力が込められる。


一歩、重心が前に移る。


「……」


沈黙のまま、構えが整えられる。


その姿勢が、すべてを語っていた。


戦う意思だけが、そこにある。


ミリィは小さく息を吐く。


そして、まっすぐに相手を見据えた。


「……よ、よくわからないけど...」


静かに構えを取り直す。


「とりあえず……ちゃんと戦うね」


観客席がざわめく中――


決勝の幕が、静かに上がろうとしていた。


覆面の戦士が、静かに踏み出す。


その一歩は小さい。だが、確かな圧があった。


次の瞬間――


両手のククリナイフが閃く。


左右から同時に繰り出される、鋭い斬撃。


ミリィは即座に反応する。


踏み込みながら、身体をわずかに傾け――


片手の手刀で、その刃を受け止めた。


乾いた金属音が響く。


続けて、もう一方の刃。


ミリィは反対の手で軌道をずらし、斬撃をいなす。


刃と刃が交錯するたびに、火花のような緊張が走る。


だが、覆面の動きは止まらない。


流れるように体を回転させ――


鋭い蹴りが放たれる。


ミリィはそれを見逃さない。


一瞬だけ重心をずらし、紙一重で回避する。


蹴りは空を切り、その風圧だけが頬を撫でた。


互いに一歩も引かない。


最小の動きで最大の攻防。


間合いは、常に紙一重。


ミリィの瞳が、鋭くなる。


「……やっぱり、強い……」


小さく呟く。


対する覆面は、無言のまま次の動作へと移る。


一切の無駄がない。


感情の揺らぎもない。


ただ――


勝つためだけの動き。


戦いは、さらに加速していく。


ミリィは、戦いの最中にもかかわらず、ふっと柔らかく微笑んだ。


「すごい……やっぱり、パティは強いんだね!」


その言葉は、心からの称賛だった。


その笑みに――


覆面の戦士の肩が、わずかに震える。


ミリィは気にせず、続ける。


「私……そんなに強いパティと戦えてる……見て!」


一歩、踏み込みながら、胸の内をまっすぐにぶつけるように言葉を紡ぐ。


「私……こんなに強くなったんだよ……もう守られてばかりいた、あの頃とは違うの」


その声には、過去を乗り越えた強さが宿っていた。


覆面の震えが、さらに大きくなる。


片手を、覆面の口元へと寄せる。


何かを堪えるように。


何も言わないまま、ただ揺れている。


ミリィは、その様子を見つめたまま、優しく、しかしはっきりと告げた。


「……だから、今日は勝つね……パティに、今の私を見て欲しいから!」


その瞬間――


ミリィの瞳に、強い光が宿る。


迷いのない、まっすぐな意志。


揺るぎない決意。


その姿を見た覆面の戦士は――


一度、両手に持っていたククリナイフを手放した。


床に落ちる乾いた音。


そして――


両手で口元を覆う。


長く、静かな沈黙。


観客のざわめきさえも、遠く感じるほどの間。


やがて――


ゆっくりと手を離し、再びナイフを拾い上げる。


そして、静かに構えを整えた。


その動きには、さきほどまでとは違う重みがあった。


ミリィもまた、構えを変える。


両手を前に。


その手刀に――


魔力と、剣聖の理力が宿る。


純白の光が、静かに立ち上る。


光は揺らぎながらも、確かな力を帯びていく。


舞台の空気が、さらに張り詰める。


観客は息を呑み――


誰もが、この一瞬を見逃すまいとしていた。


そして――


二人は、同時に動き出す。



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