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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード2ー剣聖、闘技場に立つー
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最高の剣聖ー

登場口へ戻ってきたミリィは、まだ真っ赤な顔のまま俯いていた。


そこへ――


「ミリィ様!!さすがっす!!」


オセが満面の笑みで駆け寄る。


「えっ……」


勢いよく背中を――


バシッ、バシッ、と叩く。


「ちょ、ちょっと……っ」


「ぐっ……げほっ……!」


叩かれるたびに、ミリィが咳き込む。


「完璧っすよ!想像以上っす!最高っす!!」


怒られると思って身構えていたミリィは、一瞬きょとんとした後――


ほっと、息を吐いた。


だがすぐに、顔を上げる。


じとっとした視線で、オセを睨むように見つめた。


「でも……あんな恥ずかしいの……もう絶対いやだから!」


はっきりと言い切る。


その言葉に――


オセの動きが止まった。


「は?」


目を見開く。


「何言ってんすか!?」


「え……?」


「もう3試合目のプランもできてんすよ!?今更そんなこと言われたら困るんすけど!?」


ミリィが一歩引く。


「え……そう、なの……?」


「そうっすよ!!」


即答。


通路の奥から、まだ熱を帯びた歓声が微かに響いてくる。


「聞こえないんすか!?あの歓声!?」


オセは親指で外を指す。


「みんな待ってるんすよ!?」


「で……でも……」


ミリィは視線を逸らし、指輪に触れながら小さく呟く。


「恥ずかしくて……」


その言葉を聞いた瞬間――


オセはぐっと前に出て、勢いを増した。


「恥ずかしがることなんて何もないっすよ!!」


「……っ」


「めっちゃよかったですよ!?最高の剣聖っぷりでした!!」


両手を広げて力説する。


「よ!剣聖!!」


「……え……えぇ……?」


ミリィが戸惑いながらも、少しだけ表情を緩める。


「……そう、かなぁ……」


「そうっす!!」


即答。


さらに身を乗り出して。


「ミリィ様マジ剣聖!!」


「……っ」


「みんなの期待、裏切っていいんすか?」


「え……」


「かわいそうじゃないんすか!?」


その言葉に――


ミリィは言葉を詰まらせる。


「……それは……」


少しだけ考えて。


ゆっくりと、首を振る。


「……たしかに……そうかも」


オセはその反応を見て、にやりと笑う。


「でしょ?」


ミリィはまだ不安そうにしながらも。


小さく、頷いた。


「……がんばる……」


その一言に。


オセは満足そうに目を細めた。


――次の戦いへ。


まだ、物語は終わっていない。


選手控え室。


ミリィはベンチに腰掛け、息を整えながらドリンクを飲んでいた。


「……ふぅ……」


ようやく少し落ち着いた様子。


その横で――


オセが腕を組み、じっとミリィを見ていた。


「……思ったんすけど」


不意に切り出す。


「その手袋とロングブーツ、脱いじゃいません?」


「――ぶっ!?」


思わず、ミリィは飲んでいたドリンクを吹き出した。


「げほっ……げほっ……!」


「うわぁっ、きったねぇっすよ!勘弁してくださいよ」


「げほっ……ぜほっ……だ、誰のせいだと……!」


涙目になりながら咳き込むミリィ。


「で、でも」


オセはまったく悪びれず続ける。


「なんかミリィ様って、可愛くて綺麗っすけど……色気が足んないんすよね」


その一言が――


ミリィの心に突き刺さる。


「……っ……」


両手で胸を押さえ、視線を落とす。


「わ……私が一番……気にしてることを……」


小さく震える声。


「それ!!それっすよ!!やっぱり!!」


「……?」


顔を上げるミリィ。


「露出!露出っす!!」


「……なんだか……方向性がちょっと……」


困惑しながら眉を寄せる。


「さすがにおっぱい出せとか言いませんから!」


「そ、そう……」


ほっとするミリィ。


「その代わり、手袋とブーツ、脱ぎません?」


「……で、でも……これは……」


言葉を選びながら。


「剣聖の正装で……」


ぎゅっと自分の服を握る。


「私だってほんとはちょっと恥ずかしいけど……着なくちゃいけなくて……」


その言葉に、オセは腕を組み、しばらく考え込む。


「……じゃあ」


ぽつりと。


「いっそのこと水着になるのはどっすかね!?」


「――っ!!」


ミリィの顔が一瞬で真っ赤になる。


耳まで赤く染まり――


「絶対!!」


「ぜ・っ・た・い・に!!」


「い・や・で・す!!」


胸を隠すようにして、後ろへ下がる。


「いやいやいや、やりましょうよ。ここは一つ」


「む、むり……」


声が震える。


「ぜったいウケるっすよ!!」


「水着は……」


涙目になりながら――


「いやあああああああっ!!」


ついに、ミリィは号泣しながら控え室を飛び出した。


「あ!ちょっとミリィ様!!」


オセが立ち上がるよりも早く――


その姿は、もう見えなくなっていた。


通路に残されたオセは、肩をすくめて一言。


「……さすが剣聖、逃げ足もヤッベェな」


そして、ため息をつきながらも。


どこか満足そうに、口元を緩めていた。


闘技場の隅。誰の目も届きにくい、石壁の影。


ミリィはその場所で、小さく膝を抱えて座り込んでいた。


「……うぅ……」


膝に顔を埋めるようにして、肩を震わせる。


さっきのやり取りが、頭の中で何度も繰り返される。


――水着。


その言葉を思い出すだけで、心臓が跳ねる。


「……むり……絶対……むり……」


涙がぽろぽろと落ちる。


だが、それだけじゃない。


「……私……」


か細い声。


「……何も言えない……」


オセの言葉に、頷いてしまう自分。


頼まれると、断れない自分。


「……情けない……」


ぽつりと落ちた言葉は、自分自身へのものだった。


「……ちゃんと……強く、なりたいのに……」


指輪を握る手に、力がこもる。


それでも――


どうしても、できないことがある。


「……水着は……」


小さく首を振る。


涙で濡れた瞳のまま。


「……絶対……無理……」


その言葉には、はっきりとした意思があった。


怖くても。

弱くても。


それでも――譲れないもの。


膝を抱えたまま、ミリィは小さく息を吸う。


震えながらも、少しずつ。


呼吸を整えていく。


「……だいじょうぶ……」


自分に言い聞かせるように。


「……次は……ちゃんと……」


まだ涙は止まらない。


それでも。


その小さな背中は――


確かに、前を向こうとしていた。


控え室の外。


ひとしきり泣いたミリィは、目元を袖でそっと拭い、深く息を吸った。


「よし……!」


小さく、しかしはっきりと。


「水着は無理!今後一切、そういう話はしないって約束させる!」


両手の拳をぎゅっと握る。


「毎回泣いて逃げるわけには……いかないし……」


震えは残っている。

けれど、その瞳には確かな決意があった。


――今度こそ。


強い足取りで控え室へ向かう。


扉の前で一度立ち止まり。


「……よし」


勢いをつけて――


バンッ、と開けるつもりで手をかける。


……が、開かない。


「あれ……?」


少し力を込める。


ゆっくり。


じわりと扉が開く。


中から――


「お!ミリィ様!待ってましたよ!」


満面の笑みのオセ。


ミリィはすっと姿勢を正す。


「オセ……ちょっとお話があります!」


はっきりと、言い切る。


だが――


「そんなことより、これ見てくださいよ!」


オセはその言葉を遮るように、何かを取り出した。


「これ!たまたまいた他の選手のお姉さんが持ってたんす!」


差し出されたのは――


鮮やかで、かわいらしいビキニの水着。


「これで第3試合もバッチリですよ!」


ミリィの視線が、その水着に吸い寄せられる。


両手が自然と口元へ。


「え……」


目を見開き。


「……か、かわいい……」


思わず呟いてしまう。


「でしょー!?」


オセが嬉しそうに前のめりになる。


「きっとミリィ様に似合いますよ!」


「え……えぇ……?そうかなぁ……?」


さっきまでの強い決意はどこへやら。


ミリィはそっと水着に手を伸ばし――


そっと持ち上げる。


指先で触れながら、じっと見つめる。


「……かわいい……」


ぽつりと、もう一度。


頬がわずかに緩む。


――決意は。


まだ、そこにあったはずなのに。


気づけば、手の中の水着に意識を奪われていた。


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