双極のシスター
お待たせしました。
どうしても自分的に長くなってしまう。
いつも読んでくださっている皆さまには感謝です。
銭湯でのごたごたで忘れていたが、パーティ名がやっと決まった。
パーティ名は「エテルノ・レガーメ」
至人の居た世界で永遠の絆という意味だ。
ソニアはこの言葉をいたく気に入っていた、名前が決まってからえらく上機嫌だ。
それと、アヴァリアとの戦いで2人にはユニークスキルが生えていた。
インシュンのユニークスキル名は「蚩尤転身」
「蚩尤」、それは中国神話に登場する人物、ないし魔神。
三皇五帝の一人・炎帝神農氏の子孫であり、黄帝と対立して戦い、その末に討たれた。
キメラの如く、様々な生物に似た体を持つと伝えられている。
すべての武器の開発者であり、のちに「兵主神」として崇められた伝説の人物、「軍神」とも言われている。
その伝説の蚩尤の如き力を身体に宿す身体強化の業。
効果はすさまじく、全パラメータを2倍に引き上げて全ての武器に適性がつき、効果中は全ての攻撃に必壊が付く。
必壊は読んで字のごとく破壊するスキル。
武器や防具、魔術による防御、結界と物理魔術問わずあらゆる事象を文字通り必ず破壊する。
かなりチートに見えるが、転身の効果時間は10分。
しかも、終了と同時に全パラメータ半減。さらに再使用に一日のクールタイムが必要になる。
このデメリットのパラメータ半減は30分ほど続くので、ここぞの切り札だろう。
戦場での30分は確実に命取りになりかねない。
ソニアも同じく身体強化系のユニークスキル。
名前は「獣身来禍」
血を覚醒させ、半獣化することにより獣人族の持つ人族のおよそ数倍はあるとされる身体能力を発揮する業。
こっちは単純に強化なので半減などのデメリットは無いが、終了後にはHPが空になるので戦闘行動の継続が不能になる。
これはこれで致命的なのでやはり切り札だ。
効果時間はインシュンよりは少し長い20分。
「ソニアは半獣人だったんだな」
「隠してたわけじゃなかったんだよ。人の血が濃いせいで殆ど人族だったんだ」
「別に咎めてるわけじゃないさ。ただ変身とか覚醒とかカッコいいよな」
「シビトくんだって変身できるじゃないか」
「アートマジックか? あれとはまた違うんだよ」
「そういうものなのかな?」
「そういうもんなの」
「あれ? そういえばボク、兄さんの変身見たことないよ」
「ありゃ、そうだったか? そしたらこれから行くダンジョンで見せてやるよ」
「ほんと!? やったぁ」
3人は今、リベラリタスの国境近くにあるダンジョンに向かっている。
王都の事件の直前に新しく出来たダンジョンらしい。
ダンジョンが出来ることは普通だったら喜ばしいのだが、いかんせん今は時期が悪すぎる。
王都は立て直しに忙しく、ギルドは高ランクが軒並み亡くなった為に万が一ダンジョンから高レベルの魔物があふれてくる事が起きたときの対処が出来ない。
下位ランクは下位ランクで回したい仕事があるようで、この一か月近く放置されていたのだ。
クリスからの依頼はダンジョンコアの破壊、調査が進んでいないため階層は不明。
出てくる魔物の種類も不明と分からない分からないの無い無いづくしだ。
それでも、現在の人族の国で彼らに敵う魔物はそうは居ないのでその程度の依頼なら余裕だ。
実際、今も発せられる強者の雰囲気で魔物が寄ってこない。
もはやピクニックである。
「あれ? ダンジョンの近くに汚れた布が落ちてる」
「姉さん……アレ、多分倒れてる人だよ?」
「……インシュンの言う通りだ! みんな行くぞ」
急いで近くまで寄ってみるとそれは女性だった。
衣類はかなり汚れていたが外傷は見受けられない。
呼吸はしているので生きてはいるようだ
「おい、あんた大丈夫か?」
ほんの少しだけ抱え起こして頬を軽く叩いてみる。
「う……うう……」
呼びかけに女性が反応を示し、うっすらと目を開ける。
「わかるか? 指は何本に見える?」
人差し指を立てて至人は女性に問う。
「あ……ご、ほん……ですぅ」
「……正常だな」
「「なんで!?」」
「そりゃお前ら、立ててたのは人差し指だが俺が聞いたのは指の数だ。5本未満でも5本より多くてもオカシイだろ?」
なるほどと2人が納得していると女性が蚊の鳴くような声でつぶやいた。
「おなか……すいたですぅ……」
なんだ、ただの行き倒れかと3人は安堵した。
――――――――――――――――――――――――
「はぐ、はぐ! あむ、はふはふ」
物凄い勢いで食事にがっつく女性を見て3人はあっけにとられていた。
「このお姉さん、凄いお腹すいてたんだね……」
「追加作るね! シビトくん食材出して」
「あ、ああ……悪いな、ソニア」
急いで追加の料理を作り始めるソニア、作り置きでもいいだろうと至人は言ったのだが彼女が料理すると言ってきかなかったため、出発前に買っておいた鍋がさっそく役に立っている。
「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁぁ! 人心地ついたですぅ! 感謝ですぅ」
まるで酒でも煽るように一気に水を飲み干すと、女性は感謝を告げた。
「うん、満足してくれたならアタシも嬉しいよ」
(このお姉さん、ひと月分は食べた……)
(シっ、言うなインシュン)
お腹をさすりながら大の字に寝転がる女性、淑やかさのかけらも感じられない。
「とりあえず自己紹介すっか。俺はシビト、こっちがインシュンで飯を作ったのがソニアだ」
「あ、こちらこそ名乗らずにもうしわけないです。私はシロエ・リバーシアというですぅ」
自己紹介を受けた彼女は慌てて飛び起き、地面に手をついて深々とお辞儀をしながらそう名乗った。
肩口で揃えられたエメラルドグリーンの髪、人形を思わせる均整の取れた顔、今まで一度も目は開けていないので目が悪いのだろうか。体つきはとても煽情的な女性らしいラインをしている。
シロエは修道女のような服を着ていた。少し小さめに見えるその服はぴったりと身体に張り付き、より一層ラインを強調している。問題なのはその胸部装甲、圧倒的な質感をもつその場所はまさに説明不要! ヒュムリスの受付嬢ジーナやアニタですらかすんで見えるくらいだ。
その部分を至人は食い入るように凝視していたのだが、一瞬強烈な殺気を感じた途端に視界が移動を始める。
「ひぃ!!」
シロエが短い悲鳴を上げたことで至人は自分の状態に気が付いた。
「シビトくん? どこをみているのかな?」
威圧を放ちながら戦斧を持ったソニアが尋ねてくる、なぜかインシュンも恐ろしいほどの威圧を出してる。
至人は氷の塊を穴に突っ込まれたような寒気を感じ、2人の鬼に素直に謝った。
「ごめんなさい……」
首なしの状態で土下座する光景はなんともシュールだ。
「ぶ、無事なんです?」
至人の事を知らなければ当然の反応、何事もなかったように頭をくっつけて普通にしている彼に驚きを隠せないシロエ。
「脳幹さえつぶれなきゃ割と平気なんだよ俺は」
悲しんでる時間が勿体無く思えたくらい不死身だよねと2人にからかわれる。
「脳幹がどこか知らないですが、すごい人もいるもんです」
意外にシロエの順応力は高そうだ。
「そういえば、なんでシロエはあんなところで行き倒れていたんだ?」
話しの道筋をもとに戻す。
「よくぞ聞いてくれたです! 聞くも涙、語るも涙の物語なんですぅ!」
(あ、これ長いやつだ……)
おっとりした見た目に騙されたが、シロエは話したがりだったもよう。
至人は少しだけ聞いたことを後悔した。
「死霊王との戦いが終わり、数々の悲惨な爪痕が残った世界の一角で私たちは生を受けたです」
(((そこから始まるんだ……)))
3人は冒頭からうんざりし始める。
「私たちはエルフの街で生まれ、物心ついてからは両親の手伝いをしてすごしたです。その頃は生活するだけでも大変で、争いの後始末が辛く悲しいものだと幼心に感じながら日々を生きてきたです。100年以上かけで生活が安定してきてから、私たちはエルフの街を出てほかの国を見て回ったです。そこには、私たちエルフの街と同じように苦労しながらも生活するいろんな種族の方たちがいたのです。今もありますが、当時はもっと頻繁に口減らしが行われていたです。親を亡くした子供、親に捨てられた子供、たくさんの子供たちが家を持たず、寒空の下で身を寄せ合い、時には犯罪に手を染めて必死に生きているのを私たちは見てきたです。それを見て私たちは孤児院を……し……すぅ」
(兄さん、兄さん)
(んがっ? 終わったか?)
(まだだよ、寝たらだめだよ)
(いや、これは寝るだろ……)
「……なのです。私たちは平和に暮らしてましたが、ある時黒いローブを着た集団が孤児院である私たちの住む三柱教会に乗り込んできたのです。私たちは必死に子供たちを護ろうとしたです……でも、私が使えるのはクレイト様の神聖魔術とガーディア様の守護魔術のみ、妹は食料調達のための狩りなどは得意でしたがやはり抗うには足りずに子供たちともども攫われたのです。次に目覚めたときはどこかの儀式実験場だったです。私たち姉妹と子供たちは実験材料にされてしまったです。子供たちは実験に耐え切れず全員死んでしまったです……私たちは一応成功かと思われたそうですが、思っていた結果と違ったらしく廃棄されたです。偶然にも廃棄される直前に逃げ出すことが出来たのですよ。」
(なげえ……)「話しの途中だが、一ついいか?」
「なんです?」
「さっきから私たちって言ってるけど、シロエさん今1人だよな」
「あ、そこはこれから話すところでしたです」
「あ、そうなんだ……でさ、悪いんだけどもうちょっと話し纏めれないかな」
流石に至人だけでなくソニアたちもぐったりしているのでお願いしてみる。
「いいですよ。私は纏めるのが苦手なんでクロエちゃんにお願いするのです」
「クロエって?」
ソニアが質問する。
「クロエちゃんは妹です。クロエちゃーん……あれ? 寝てるですかね。あ、来た来た」
そういうとシロエは突然呆けたように黙り込んでしまう。
何が起こるのかと3人が固唾を飲んで見守る中、シロエの皮膚の色が茶褐色に変わり、髪色も薄いピンクに変化する。
ゆっくりと開かれた目は切れ長で鋭く、強い意志と自信にあふれている印象を受ける。
ふわっとした見た目のシロエとは真逆のキリッとした見た目のこの女性が件のクロエなのだろう。
彼女はめんどくさそうに口を開く。
「……めんどくせえ……」
第一声がそれかよ! と3人は崩れ落ちた。
――――――――――――――――――――――――
シロエとはこれまた真逆でクロエの説明は簡潔過ぎてわかりにくかったが、要約するとこうだ。
2人はエルフとダークエルフの双子。
エルフとダークエルフの違いはHPが高いかMPが高いか、生まれつきHPが高いとダークになる。
シロエはMP、クロエはHPが極端に高いが逆は恐ろしく低い。
今の肉体はホムンクルスでキメラ実験の被験体だったが、1つの肉体に2つの精神を宿しているのと極端に打たれ弱いために失敗作として廃棄された。(本来は高い身体能力と破壊的な魔力に強靭な魔獣の打たれ強さをもった従順な合成魔人を造るつもりだった)
今は子供たちを殺し、自分たちをこんな身体にした邪教徒を潰して回っている。
人族の領地にも邪教徒が居るのを聞いてここまできたが、食料と水が尽きて行き倒れた。
「また邪教か……魔人も出てきたし、無関係ではなさそうだな」
至人の言葉に2人も同意する。
「へえ、アンタらも邪教のウジムシ共と殺りあったのか?」
「今思い返しても、嫌な人達だったよ……」
ソニアはあの時の光景を思い出しているのだろう、表情が険しい。
「そういえば、あの時のリーダーみたいなやつに死霊王の祝福がどうとか言われたな」
「んだと? ……アンタら邪教徒の連中に目ぇ付けられてんのか……へぇ……」
ふむ、と考えるそぶりを見せたクロエの目が怪しく光る。
「よし決めた、オレらも着いてく。異論はねぇな? 文句は聞かねぇ」
「「はい?」」
ソニアと至人はいきなりの展開に間抜けな声を上げ、インシュンは首を傾げている。
「アンタらは邪教徒の祝福を受けたんだぜ? さっきの話だと魔人も倒したっぽいじゃねぇか。ならこれから先も妨害されたりすんのは目に見える。こっちから探したらどう頑張っても後手に回っちまうからな、アンタらに着いてきゃ嫌でもウジムシ共に出会えるんだ。逃す手はねえだろ?」
邪教徒の事となるとこんなに饒舌に喋れるんだな、と明後日の方向に思考を飛ばす至人。
とりあえず分かったのはクロエは戦闘狂っぽいことと、物凄く濃い仲間が2人(?)増えたことだった。
主要メンバーが揃いつつあります。
メンバーが揃うまで物語が動きにくいのは申し訳ないです。
お付き合いいただきありがとうございました。




