王都救出大作戦―2
分けたはずなのに長くなってしまいました。
魔人戦決着です。
投下したあと、少し編集しました。
インシュンのキレる瞬間の描写追加
冒険者の死が近い職業→命が軽い職業
あまり変わってないかも?
「にい……さん?」
インシュンは自分が目にしている光景が理解できずにいた。
自分を絶望という闇の中から助け出してくれた優しい人。
この世界で出会った唯一の同郷人でとても親切な人。
他人である自分を家族のように受け入れ、兄のように接してくれる大切な人。
そんな大切な人が今、重症を負っている。
死んでしまったとは絶対に考えたくない、今治療すればきっと助かるかもしれない。
『どけ! ボクの邪魔をするな!』
インシュンは共通語を使うのも忘れ、群がる砂の冒険者を手刀で斬り、蹴り飛ばし至人の下へ向かおうと抗う。
(嘘だよね、キミは不死身なんだよね。そんなあっけなく居なくならないよね? いつもみたいに「ただいま」っていってくれるよね? なんで動かないの? 動けないの? あれを抜いたら起きるんだよね? 今アタシが行くから待ってて、もう足手まといにならないから、居なくならないで……お願いだから!)
ソニアは後悔していた。
神と同じ姿を持つ者と戦うのを躊躇った事を。
ソニアは後悔していた。
援護に回れなかった事を。
ソニアは後悔していた。
叱責を受けてなお、動くことができなかった事を。
「どいて……邪魔しないで……彼が、シビトくんが……お願い道を開けて……開けてよぉぉぉぉ!」
必死に斧を振るい、砂の冒険者を弾き飛ばしてインシュンと同じく至人の下へ向かうソニア。
急所さえ無事なら彼は生きている、あの鉾さえ抜けば何とかなる。
まだ間に合う、その懸命な2人の想いはアヴァリアの無慈悲な攻撃によって打ち砕かれる。
普通であれば絶命している一撃を放ったにもかかわらず、アヴァリアは至人に追撃を行った。
次々に突き刺さる武器に至人の身体はまるで針山のような状態になり、最後にはそれでも足りぬと言わんばかりに首が斬り落とされる。
アヴァリアは完全に2人の心を砕きにいった。
心を砕きにかかった理由、それはアヴァリアの特性にある。
防御無視は魔人の特性であってアヴァリアの特性ではない。
アヴァリアの特性、それは「独裁者」。
奪い、従えることに特化した特性。
命を奪えばあの砂の冒険者たちのように、意思を奪えば街の人々のように操れる。
そして、心を砕いたならどんな命令にも逆らわない下僕となる。
アヴァリアは二人の潜在能力を察知し、それに目を付けた。
覚醒する前に従えてしまえば必ず死霊王様の助けになると。
そのためには自分が絶対者であり、手を出すべき存在ではない事を知らしめる必要がある。
群れのリーダーを完膚なきまでに破壊することが絶対者の証明になる。
至人の行動、発言、それに2人が彼に向ける視線と表情を見ていれば、この場のリーダーであることは容易に推測出来た。
だからこそ、アヴァリアはこのような行動にでたのだ。
「うあ、あ……」
『にいさん……』
昔の事を思い出す……インシュンは元の世界で孤児だった。
裏寂しい路地でひっそりと死を迎えようとしていたところを組織に拾われ、命を繋いだ。
それからは組織の為に命を刈り取る為の技術を徹底的に仕込まれ、毎日のように殺人を行う日々。
インシュンの才能、それは殺しの天才。
齢14にして、現在の至人のゴブリン討伐数と並ぶほどの人間を屠ってきた。
そんな決してまともではいられない毎日からインシュンの精神を護っていたのは、一緒に組織に拾われた世界でたった一人の血を分けた兄だった。
……そんな大切な兄は目の前で殺された。
インシュンの才能を恐れた組織の策略、それに気づいた兄は自分を護って無残な死を迎えたのだ。
兄の死と至人とを重ねたインシュンは思う。また、ボクは大切な兄を殺されるのか……。
自分の中にある理性の糸が切れる音が聞こえた。
マタ、ボクカラ兄ヲ奪ウノカ?
ユルサナイ……ユルサナイ!
『……殺す……お前は絶対に殺す!!』
ソニアは怒りに震えていた。
神託の少年を最初に見た印象は恐怖だった。
いとも簡単に人間を塵にしてしまう魔術、異形に変化する身体、どれもが自分に向いたらと思うと怖かった。
だからこそ彼が知りたかった、彼に取り入りたかった。思わせぶりな態度で誘惑まがいの事もした。
その攻撃性が自分に向かないように。
今もそこまで長い付き合いではない、それでも彼は自分の為に身体を張ってくれる。
身体目当てではなく、純粋な好意として自分の事を護ってくれている。一人の「ソニア」として見てくれている。
それがわかった時、自分の中である感情が動いたのを感じた。
この不思議な温かさをくれる彼とずっと一緒に、それこそ死ぬまで一緒に居たい。ああ、アタシは彼の事が好きなんだ……そう実感した。
それが今、かなわぬ願いに変わった事でソニアのもう一つの血が目を覚まし、同時に黒い感情が湧き上がってくる。
「アンタ……殺すわ。泣いて、喚いて、命乞いをしても許してなんかあげない……苦しんで、苦しんで、受肉したことを後悔しなさい!」
アヴァリアは失念していた。
指揮官と部下の信頼ではない、硬い絆で結ばれた者たちがどのようなモノなのか。
その誤算が2人の中の鬼を起こしてしまった事に気づいた時には既に手遅れだった。
瞬間、2人がそれぞれ居た場所で爆発のようなものが巻き起こる。
インシュンの身体は蒼い炎のようなモノに包まれ、目には狂気を宿している。
ソニアは顔や手足を柔らかな体毛が覆い爪が鋭く伸びていた。
ネコ科の動物と人を足したような顔つきに変わったソニアは髪を毛羽立てて威嚇するように唸っている。
まるで幽鬼が動き出すかのように2人はゆっくりとした動作でアヴァリアの下へ向けて歩き出す。
2人を囲っていた冒険者たちは最初から居ないものと思えるほどあっさりとその身を砂へと還した。
揺ぎ無く、止まることのないその歩みは確実にアヴァリアに近づいていく。
『く、近寄るな! お前たちも私の所有物なのだぞ!』
気迫に押され、訳のわからないことを言いながら再び武器を操り、近寄らせないようにしようとするアヴァリア。
しかし、アヴァリアの手元に戻ってきた武器は数本のみ。
残りは至人の身体から抜けずに刺さったままになっていた。
一瞬の動揺はあったが、即座に気を取り直して2人の攻撃を魔力障壁で抑え、弾き飛ばして距離をとった。
この一連の行動から2人は「アヴァリアは接近戦に弱い」と推測する。
2人は再び接近を試みようとするが、アヴァリアはなんと至人の身体ごと武器を手元に寄せて盾のようにしだしたのだ。
これ以上至人の身体に傷をつけたくない2人は近づくのを躊躇う。
やはりそうかと目論見が当たったアヴァリアはニヤリと口元を歪めて挑発する。
『ふふ、あははははは。どうした? 私が接近戦に弱いのに感づいたのだろう。ほら、近づいてこないのか? ん?』
これで自分の勝利は揺るがないとアヴァリアが確信した瞬間、唐突に彼女は爆発に巻き込まれる。
柱が一部倒壊し、床石は直径50Mほどの範囲で吹き飛んで粉々になり下の階が見える。
『あが……が……』
爆発が治まったときに2人が見たのは、壁際まで吹き飛ばされてボロ雑巾のようになったアヴァリアの姿。
爆心地の惨状を見るに相当な威力だったようだが、それを間近で受けてなお原型を保っている。
尤も、冒険者や武器を操る事は一切できずにただ原型を保っているだけなのだが。
2人には、この動くことすらままならなくなった憐れな屑を討つ好機を逃す気は微塵もなかった。
「……遺言は聞かないよ」
『あの世で詫び続けろ』
『ひ、やめ……』
そう言いかけたアヴァリアの腹部にソニアが重い一撃をお見舞いする。
ソニアの一撃で臓腑の一部が破裂し蹲るアヴァリアを、インシュンが鋼糸を巻き付けて背負い投げのようにして天井すれすれまで跳ね上げ、高高度から床へ叩き付ける。
『お前も首を落とされる気持ちを味わえ』
背中を床に強打し、息を詰まらせるアヴァリアに近づいたインシュンは耳元でそうつぶやき、首を手刀で跳ね飛ばす。
跳ね飛ばされた首はソニアの全力の振り下ろしを受けてさらに半分になり、恐怖に染まった悲鳴を上げながら霧となって雲散した。
身体も完全に消滅したのを確認し、2人は呆然と至人の首の前に座りこむ。
先ほどの身体の変化は治まり、いつもの2人に戻っている。
ソニアが口を開く。
「シビトくん……勝ったよ、アタシたち2人でちゃんと仇は討ったよ……うう……」
今にも泣きそうだ。
『兄さん……聞いてるの? ボクたち頑張ったよ? う、ぐす……うあぁああ……兄さん、兄さぁぁぁん……』
インシュンが泣いたのを皮切りにソニアも堪らず泣き出し、ぽたぽたと2人の涙が至人の頬に落ちてくる。
物凄い気まずいなーと至人は思ったが、あんまり悲しませるのも酷だと思い直し声をかける。
「おう、ちゃんと見てたぜ。お前ら最高だ」
「『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!』」
そりゃ確かに首だけで話しかけられたらそうなるわな、と彼は苦笑した。
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至人の再生を待って3人はギルドに向かう。
インシュンとソニアには首から上が無傷なら死なない事を伝え、悲しませたことを謝罪した。
衣服は爆心地付近で再生されていたので裸で帰る羽目にならなかったが、マントはお陀仏だった。
胸を貫かれたあの時、至人は何とかしてアーティスティックボムを当てられないか考えていたらしい。
始めは相手の武器に付与してやろうかと考えていたが、手に持って使っているわけではないので威力が出ないだろう。
だったら隙を見せたタイミングで投げつけてやろうという考えに至り、死んだふりをしてチャンスを窺っていたが、まさか首を落とされるとまでは思わなかった。
結果としてアヴァリアが至人の身体を盾にするように自分のところに寄せたのでこれは好機と爆破、大成功!と笑いながら彼は言い放った。
当然2人からは味方も騙すなんて酷いと非難の嵐だったが、その後に生きててよかったと抱き着かれたのは良い思い出になったようだ。
ギルドに戻った後はお祭りだった。
クリスが結界陣のMP消費が止まったことで、3人が成功したことを理解しみんなに伝えていたようで、主役の到着待ちをしていた。
クリスには後で重要な話があると告げ、3人は宴に参加している。
武勇伝をせがまれたので、アヴァリアの正体をぼかしつつ激戦だった話をする。
皆が酔いつぶれたころ、3人はクリスのところに来ていた。
「ま、魔人ですか!?」
「知っているのか? 雷電!」
「雷電って誰ですか……それよりも、ソニアさん。その魔人が人神セスニムに酷似していたというのは本当ですか?」
「はい、見間違いありません」
セスニムの神像を見たことがない至人とインシュンは蚊帳の外だ。
「魔人ってのは魔族じゃないのか?」
「魔人は魔族ではありません。魔族というのは「魔術によって身体構造を変化、向上させた種族」です。対して魔人は「強大な魔力を浴び続けて進化した人」なんです」
「どう違うんだ?」
「魔族は実はMPとHPが同時に無くなると術の効力が切れて人になります。同時に無くなること自体がないので知らない方が多いですが」
「魔人は?」
「長い時間強い魔力を浴び続けると身体に毒になるんです。大体は耐えきれずに身体が崩れていくんですが、稀に身体が変質して魔力回路が異常発達するんですよ。そうなった者は特殊なスキルを発現し、普通では考えられない身体能力か魔力を手に入れられるんです。こういう方を魔人といいます」
なるほどなと至人、魔力の扱い方をまったく知らないインシュンは呆けてる。いや、言葉が理解できずにオーバーヒートしてるだけのようだ。
「……大体は把握しました。ほかのギルドマスターにもお伝えしなければならないのでこの辺にしましょう。ありがとうございました」
そういえばさっきから一度も謝られてないなと至人は思ったがいいことなので言わなかった。
ちなみに、城に向かった高ランクパーティ全員と王様が死んでしまった事は伝えてある。
近くの村に第一王子が避難しているので、王位継承に関しては問題無いようだ。
第二、第三王子と第一、第二王女は行方不明だが、一人でも残っていたのは重畳だろう。
王子に関してはこれから大変だとは思うが、至人にとっては他人事なので名前も顔も知らない王子、ガンバとお祈りしておいた。
冒険者たちに関しては結構大変らしい。命が軽い職業故に死んでしまう事は大した問題ではないのだが、一気に高ランクが減ったことで高難度依頼が滞ってしまうという。
そういえばガンドルフのとこも王都に高ランク取られたから大変な思いをしていたな。
そのぶんしわ寄せがこっちに来たんだよなーと至人は思い出して、逃げるように立ち去った。
次の日、本来の活気を取り戻した街を眺めながら、3人は現在公衆浴場に来ていた。
リベラリタスの名物らしい。
あまりにもくたくたに疲れたのでお湯につかってさっぱりしたいとソニアが言い出したのだ。
インシュンはあまり乗り気じゃない、お風呂嫌いなのか? と至人は尋ねたがいまいち歯切れが悪い。
最近はばたばたしていたのでいい機会だ、ゆっくり休ませてもらおうと2人は中へ入る。
インシュンは少し悩んだ後、渋々といった感じでついてきた。
ソニアの変化はBRというゲームのウリコというキャラクター(懐かしい)を思い浮かべてもらえれば
大体作者のイメージ通りになりますね。
聞いたことない方はウリコで画像検索すると一発目にで出ます。
BRが稼働したのは1997年
懐かしいを通り越してる気がしますね。
お付き合いいただき有難うございます。




