王都救出大作戦―1
遅くなりました。
長くなったので二つに分けました。
結界陣について至人がクリスに尋ねたかった事は2つ。
耐久型か持続型か、それと個人に掛けられるのか。
「耐久か持続かはどちらも可能です。個人に掛けることはできませんが、陣を描いた服を着るか紙を携帯することで個人に使うことはできます、す……」
謝りそうなのをこらえた、いい傾向だと至人は思う。
術者本人が陣の中にいる場合は地面や紙に描く必要はなく、魔力で作った線で空間に描いて発動できる。
その際に描いた回路の違いで魔力供給式の持続型か、一定量の魔力消費で複数回耐える耐久型になる。
紙などの媒体を使った場合、陣魔術師のクリスが発動させるなら耐久型一択。
自分たちの魔力を使って発動させられるなら持続型もできるそうだ。
豊富なMPを持つ至人は大丈夫として、ソニアは重戦士なのでMP総量は少な目だからキツいだろう。
インシュンに至っては一応MPはソニアよりは多め、だが魔術自体を使ったことが無いために無理だ。
ふと、思ったことがあったのでクリスに聞いてみる。
「持続型にしたときに、陣から離れてても供給できるのか? もしできるなら有効範囲はどれくらいだ?」
「離れてても供給は出来ます。有効範囲は試したことは無いので正確にはお伝え出来ませんが、声が届く距離ならば可能です」
少し自信はなさそうだ。
「それは大声を含んで?」
「いえ、雑音のないところで普通の声で届く距離です」
「今のクリスの声量でってことだな」
「あ、はい。私の声の大きさでです、っ……」
また謝るのを耐えたようだ。
大体は理解した、その距離まで可能なら普通に戦闘になっても供給は出来るということだ。
至人は2人に提案する、結界陣の発動は至人が受け持つ事。使う陣は供給式の持続型で行く事。
理由はいくつかあるが、一番大きい理由はここ一番で「住民と同じようにならないようにする」これに尽きる。
クリスのおかげで街全体が何らかの結界に覆われて今の状況になっていると至人は推測できた。
さらにこの状況が一週間続いているところから、街を覆う結界は持続型と思われるため使用時間が限られる耐久型ではいささか心もとないのだ。
そういうわけでクリスには持続型の陣を描いた紙を作成してもらう。
これで準備は整った、最後にクリスから忠告として
「展開時には一定量MPを消費します。その後、持続型は受けたダメージによって消費量がかわりますのでご注意を」
と言われ、MPポーションを3つ渡してくれた。
「これは虎の子のMPポーションです。この結界を維持するために使ってました、解決できなければ結局は同じことなのでシビトさんに託します。必ずや元凶を討伐してください」
「わかった、任せてくれ」
3人は王城に向けて出発した。
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道中何らかの妨害があるかと警戒していたが、特に何かされることは無かった。
結界陣は5分毎に10ずつMPを消費していくことから、街に張られている元凶の陣はそこまで強力では無いようだ。
真っすぐに謁見の間を目指す、なんの障害もなく静かで閑散とした城は実に不気味だ。
謁見の間にたどり着いてすぐに目を覆いたくなる光景が飛び込んできた。
玉座の後ろには高ランク冒険者と思われる者たちが山のように積み重ねられていたのだ。
そして、3人の視線は玉座に堂々と腰掛ける1人の人物に向けられる。
両目を閉じた状態の憂いある雰囲気、彫刻を彷彿させるような整った顔立ち、額でそろえられた前髪と腰まである後ろ髪。
真っ赤なワンピースドレスに身を包んだスレンダーな女性がそこにいた。
こいつがこの国の王なのか? と思ったが、その思考はソニアの言葉で打ち消される。
「そのお姿……教会で見た彫像そのもの……セスニム様、まさか……」
青ざめた顔でつぶやくソニア。
「ソニア、そのセスニムって誰なんだ?」
「セスニム様は死霊王を封じた英雄王の1人……人神セスニム様」
自分で見たものが信じ切れていないのだろう、歯の根が合わないソニア。
人間族の英雄王セスニム、その慎重な戦運びは戦場に置いては不沈と恐れられた。国内においては貧困者を良しとせずに様々な政策を以って民の為に尽力した救恤者。
国と民をを子供の様に愛し、それを害する敵を無慈悲に排すその相反する姿には鬼子母神と呼ばれていた。
神となった後もその博愛性は健在で、人間族に様々な恩恵をもたらしていたというが。
「そんな慎重で博愛に満ちたカミサマがなんでここにいるんだい? この国の王はどうした」
畏れていないと言わんばかりに真正面から至人は言い放つ。
セスニムと思しき者は組んでいた足を下ろし、言葉を発する。
『ここに居たモノはココに居る』
そう言って自分の腹を指し示す。
「……愛おしさから食ったとか言わないよな。博愛主義もほどほどだぜ? カミサマよ」
『食っては居ない、ただ肉を頂いただけだ。もともとが私の身体だ、私がどうしようと構わんだろう』
国王の身体を使って受肉したと言いたいのだろう。
『この世界は間違っている……私が死霊王様の為にこの世界を正すのだ……そのためには力も、人も、物も、金銭も、意思も、魂すらも私が手に入れ統率しよう! 私が、全てを握り、導き、死霊王様のための真に平和なる世界を創りあげよう!』
ゆらりと立ち上がり、閉じていた両目を見開く。
その中は漆黒の闇が広がり、絶えずそこから血が涙のように頬を伝い流れている。
抑えていた魔力を解放すると背後の冒険者たちが砂のように崩れ去り、同時に荒れ狂うような魔力の奔流が強烈な重圧と共に至人たちに襲い掛かって来る。
「また死霊王かよ! 全部手に入れるとかどんだけ強欲なのかな、死霊王の犬になり下がったカ・ミ・サ・マ」
そう言って至人は臨戦態勢をとる。最初は話が通じるかもと思っていたが、ありゃ無理だとあきらめた。
『1つ訂正して貰おうか、私は神ではないし犬でもない。崇高なる死霊王様の眷属、魔人アヴァリアだ』
血の涙を絶えず流し、口角を上げて口を三日月のようにした不気味な笑顔をつくり、ケタケタと笑いながら訂正を要求するアヴァリア。
「2つじゃねえか! まったく、おとなしく封印されとけっての! おいソニア、帰ってこい!」
そう言ってソニアのほほを軽く叩く。
インシュンは既に気配遮断を使って遊撃しやすいところに移動している、流石暗殺者。
「いいか、よく聞け。アイツはセスニムとかいう神様じゃない、魔人アヴァリアだそうだ。だから気にするな、全力で叩きのめせばいい!」
ソニアに活を入れる、立ち直ってくれないと色々困る。
「そう……だよね。セスニム様がこんなことするはずないもんね……アイツは別神……うん、大丈夫……大丈夫……」
自己暗示をかけるようにつぶやくソニア、神じゃないよと突っ込み入れたかったけどそれはやめておく。
『あは、あはっ! あははははははは!』
どこか往っちゃってるんじゃないかと思うほど狂った笑い声を上げながらアヴァリアが腕を振り上げると、虚空から無数の武器が現れ中空を漂う。
あは、と短く笑いアヴァリアは腕を前に突き出すと、漂っていた武器たちはそれに呼応するようにその切っ先を全て至人に向けて飛んできた。
「俺ってば人気者っ!」
軽口をたたきながら危なげなく回避しつつ、ちらりとインシュンに目を向ける。
様子をうかがっていたインシュンは軽く頷き、手に持ったナイフを投擲した。
素晴らしい精度で放ったナイフはアヴァリアの後頭部に突き刺さる。
「ナイスコントロールって……うえ!?」
インシュンの攻撃をほめようとした至人は、自分の目にした光景に思わず変な声がでてしまう。
自ら起こした魔力の風でなびくアヴァリアの髪の間からもう一つの別の顔が生えていたからだ。
後頭部にあるもう一つの顔は、その口でナイフを止めている。
ぺっ、とナイフを吐き出すとその顔はすぐにただの頭部に戻った。
「なんだよそれ? っソニア!」
アヴァリアの異様な変化に驚きつつもソニアに目を向けると、未だ万全ではないソニアの足元に砂の塊が形成されていた。
見る間に砂の塊は先ほど積まれていた冒険者の形をとり、硬直しているソニアの背後から斬りかかる。
「くっそ! はいだらーっ!」
カバーに入るには少し距離がある! と至人は瞬時に判断し、自分を襲う武器の一本を掴んで砂人形に投げつけた。
運よく頭部に命中し、人形は砂に戻って消えた。
「ソニアぁぁ! 死にたくないなら武器を構えろ、動けねえなら隅っこで自分の身だけ守れ! それが出来ないならここから逃げろ! こいつは地竜なんかの比じゃない、庇いながらは無理だ!」
少し言い方がキツイか? とも思ったがそんな余裕はない。
最初は軽口をたたく余裕があったが、今はもう大分無くなっている。
自分を襲う武器の数が増えていき、徐々にこっちの動きを理解して飛んでくるようになってきているのだ。
「んだよ、さっきの顔といい砂の冒険者といい、この武器もどこまで増えるんだよ」
卑怯な、と思わずつぶやいていた。
『くふ、くふはははは。言っただろう? この世界の物は全て私のモノだと、今はこの国にあるものだけだがな。武器も、人も、何もかもが私の所有物だ!』
まるで踊るように次々と武器を呼び出しては操る、同時に砂の冒険者たちの数も少しづつだが増えてきている。
慣れてきたのかなんなのか、時間をかければかけただけ厄介な事になるのは明白だ。
至人は飛んでくる武器を躱し、掴み、砕くを繰り返して少しでも数を減らそうとする。
それだけ余裕がないのだ。
油断していたわけではない。ほんの一瞬、ほんのわずかにアヴァリアの攻撃が至人の回避行動に追いつき足の腱を傷つける。
嫌な予感ほど的中する。
至人は始めの攻撃の時からある事を直感していた。
攻撃を受けてはいけない
その直感は攻撃を受けたことで正しいモノだったと理解する。
それは「防御無視」
アヴァリアの攻撃にはその効果がある、間違いない。
なにせ、たった今結界陣で護られているはずの至人に攻撃が通ったのだから。
念のためMPをチェックするとやはり減っていない、それは結界陣がまるで意味をなさないことの証明だった。
「くっ、そがぁぁぁ!」
腱を斬られたためにバランスが取れなくなった至人が吼える。
至人の咆哮を聞き、2人がそちらを注視したときに目に入った光景。
それは、胸を貫いている鉾を支えにブリッジのような姿勢で動かなくなった至人の姿だった。
お付き合いいただき有難うございます。




