王都リベラリタス
やっと王都に入れました。
皆様いつもありがとうございます。
残り2日も数体の狼が襲ってきただけで殆どなにもなかった。
護衛いらなくない? と至人は思ったが万が一もあるのでそういうわけにいかないのだろう。
平和な道中はインシュンのお勉強が主になった。
途中からソニアがインシュンの国の言葉が覚えたいと言い出したので、至人は少し考えてこう提案した。
至人が中国語で話した事をインシュンが共通語に訳してソニアに伝える、ソニアは至人が話した中国語を復唱して、インシュンに伝える。
イントネーション等が間違っていればインシュンに指摘させる、もちろん共通語で。
伝えきれない部分は至人がフォローする感じでやってみる。
最初は四苦八苦していたが、インシュンはゆっくりなら会話できる程度までにはなった。
一週間でここまで覚えるとは思っていなかったが、どうやら寝る時間を少し削って復習していたらしい。
頑張るのはいいがやり過ぎはいけないとちょっぴり叱っておく。
ソニアは参加したのが後半どころかほぼ最後の方だったので、大した時間が取れなかったが単語なら少し理解できるようになった。
至人は思った。
(アレ? これ、戦闘中の連携に中国語で短い指示出したりしたら暗号みたいに使えないか?)
例えば「インシュン、罠を張れ!」なんて大声で指示出してたらバレバレだ。
おい、アイツがこれから罠を張るみたいだからみんな警戒しておけ。なんて事になる。
ハンドサインもいいが、常にこっちを見ているとは限らない。
そこを「鷹瞬、貼圈套!」と言えば日本なら偶に理解できる奴がいるかもしれないが、この世界なら意味を理解されないのはまず間違いない。
ソニアもそれくらいの簡単なものなら今はなんとなく理解できるから言葉で連携がとりやすいのは非常に有り難い。
あまり対人戦闘はしたくないが、邪教徒の事もあるので手札は多いに越したことは無いと至人は考える。
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「……なにか、おかしいですね……」
行商人が王都を目前につぶやいた。
「何がおかしいんだ?」
「何が……とは明確にはお伝え出来ないのですが。何でしょうか、こう……何かが足りない気がするんです」
自分でもよくわからない感覚なのか、少々歯切れが悪い。
「ボク、ここ、嫌いだ」
「アタシも出来れば入りたくない、前に来た王都とは雰囲気が全然違うよ。前に来たときはなんか華やかで護られるような感じだったけど、今は寂しくてスゴく嫌な気配が漂っている」
2人も何かを感じ取っているようだ。
「とりあえず冒険者ギルドに行こう、ガンドルフがここのマスターに連絡を入れておいてくれてるはずだからそこで情報を集めよう。おっちゃんもギルドについてきてくれるか? ここじゃ商売する気になんかなんないだろうし、すぐにでも出たいだろうからさ。上手く行けば護衛もすぐに見つけられる」
「そうですね、これは商人の勘ですが私も確かにこの王都は何か危ない気がします。護衛はあなた方ではダメなんですか?」
「俺たちはここで用事があるから申し訳ないが受けられないんだ、その代わり便宜を図ってもらえるようにここのマスターに言ってみるよ」
「分かりました、それではギルドに向かいましょう」
街門の前には街に入ろうとする人の姿はなく、それどころか門番も立っていなかった。
その段階で既に何かが街中で起きているのは明白。
開け放たれた門から街の中を覗いてみる。
覗いてみて3人は先ほど商人が言っていた「何かが足りない」の「何か」を理解した。
街の人々は違和感なく普通に過ごしている。
門番の居ない状態で解放された街、魔物の襲撃でもあれば即座に被害が広がるようなこの状況下。
そんな状況下で普通に過ごす……これがどれほど異常な事か。
確かに、避けることの出来ない絶対的な死を目前に控えた人はいつもの日常を送ろうとする、そう聞いたことはあるが……これは状況が違う。
違和感がないのが違和感。普通なのが異常。
普通を演じさせられていると言った方が実にしっくりくる。
作られた活気、感情のこもっていない下手な演劇を見せられているようなそんな感覚。
そう、「魂」が街の人から一切感じられないのだ。
一行は目立たぬように注意を払いながら足早にギルドへ向かう。
この街の人形たちに意思のある生物だと悟られてはいけない、そんな気配が街全体から伝わってくる。
4人は一言も発さず、何かに縋りつかれるような重圧を感じながらようやくギルドに到着した。
縋りつかれる感覚から逃げるようにギルドの内部に転がり込むと、瞬間先ほどまで4人が感じていた重圧が嘘のように軽くなった。
なぜかは理解できないが、とにかく助かったと安堵の息をついたところで一行に声がかかる。
「あ、あんたらどこから来た?」
右端のテーブルを囲んでいたパーティの内、甲冑蜥蜴革の鎧を着こんだリーダーらしき男が恐る恐るな様子で尋ねる。
「俺たちはヒュムリスから来たBランクパーティの……」
至人はパーティ名を決めてなかったことを今さら思い出して言葉に詰まる。
「ヒュムリス……あんた、ひょっとして女神の守護者シビトか?」
相手の方が察してくれたのはいいが、また新しい二つ名だよ、どんだけ付けられてんだよと少しうんざりする。
周囲から「本当だ」とか「戦女神のソニアだ」とか「あの少女可愛い……」とか聞こえてきた。
誰だ最後のセリフ言ったやつは。インシュンは男の子です。
「あ、ああそうだ」
「やっぱりそうか、2階に来てくれ。ギルドマスターが待っている」
そう言って甲冑蜥蜴鎧の男は2階に急かすように案内し始めた。
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「す、すみません。私が当ギルドのマスターをやらせていただいております。く、クラリッサ・クロスです宜しくお願いします」
ギルドマスターの部屋に入ると、ちょっとおどおどした腰の低い感じの小柄な女性があいさつしてきた。
見た目は18歳くらいにしか見えないが実際は倍近くあるらしい(案内してくれた男の情報)。
身長は150ちょいのDカップで、楕円形をしたリバースナイロールの黒縁眼鏡とサラサラロングの銀髪が特徴的。
魔導士のローブが入り口にある外套掛けにかかっているため、職業は魔術師なのだろう。
美人度は納得の148、わずかにソニアに及ばず。
愛称はクリス、なぜ愛称までわかるかというと本人が至人たちにクリスと呼んでくださいと言ったから。
至人たちの事はガンドルフから通信水晶で話を聞いているらしいので、さっそく王都の状況を聞くことにする。
現在、リベラリタスの人々は魂が抜かれた抜け殻のような状態らしい。
ほんの一週間前に王城から光の柱が上がった。そのときは異変は無かったのだが、その後三日目あたりから人々の様子がおかしくなって行った。
最初は声をかけても反応をまったく示さなくなる症状。
その症状は半日程度で治まり、皆が一過性のものと思い日常生活に戻っていった。
だが安堵したのも束の間、今度はその日常的な行動を何度も何度も繰り返すようになった。
一連の行動が終われば最初に戻るの繰り返し、至人の世界にあるゲームで言えば一定のルーチンで動くNPCのような状態。
原因は王城にあるだろうと踏んだ高ランクの冒険者たちは皆王城に向かったが、誰一人帰ってきていないのだとか。
光の柱発生から一週間たった今、もはや全ての住人がそのようになってしまったとクリスは言った。
「冒険者ギルドの中の人達は普通みたいだが?」
「あ、それは私の陣魔術です。異変に気付いたときに咄嗟にこのギルドだけは結界陣で覆いました……すみません」
ペコペコと頭を下げるクリス。
「なぜ、あやまる、の?」
謝ってくる理由が理解できずにインシュンが首を傾げる。
「うわぁ、可愛いお嬢さんですね。あ、すみません。あの時もっと早く気づいていればもう少し規模を大きくした陣を張れたのですが……結果はこのような体たらくで……あの、はい……すみません」
どうやらもっと頑張れた筈なのに出来なかった事に対して謝っている様子。
「謝ることは無いと思うよ? クリスさんは十分頑張ったよ。あと、インシュンくんは男の子ね」
少し哀れになってきて労いの言葉をかけるソニア、インシュンの訂正も忘れない。
「ふあ!? 男の子でしたか、すみません。あの、労っていただいて大変恐縮です。すみません」
感謝してるのか謝罪してるのかわからなくなってくる。
「だあぁ、いらいらする! なんで謝ってばかりなんだよ!」
暫く耐えていたが、我慢の限界に達した至人が思わず吠えた。
「うあ、すみません、そんなつもりじゃないです。すみ……あう!」
なおも謝ろうとするクリスの頭に至人のチョップが炸裂する。
「シャラーップ! だまらっしゃい!」
大仰に腕を振り上げてから、びしっ! とクリスの鼻先に人差し指を突き付けて至人は続ける。
「なあクリス、あんたが今しなきゃなんないのは謝罪か? 違うだろ。今やるべきなのは、これからどうするかを考えることだ! 出来なかった事をいつまでもグチグチ誰に向かって言ってんだかわかんないような謝罪するよりもさ、ずっと建設的だと思うぜ俺は……違うか?」
真っすぐに真剣な眼差しでクリスの目を見つめながら顔を近づけ、人差し指を胸の真ん中に押し付けながら語る至人。
「~~っ!」
クリスの心にしっかりと響いたのだろう。勢いよく後ずさり、言葉には出さず顔を真っ赤にしてブンブンと頭を上下に振りまくっている。
「いや、あれは絶対何か違う感情が入ってるね……」
明後日の方を向いて否定するように話すソニア
「ヂーレン兄さん、てんねんたらし?」
どこでそんな言葉覚えたの? と突っ込みを入れたくなるインシュン。
ともあれ、王都の中の全ての元凶は王城にあると分かった。
突入するにはクリスの陣魔術が役に立つと、そう直感した至人はクリスを交えて作戦会議を始めるのだった。
お付き合いいただき感謝です。




